研究テーマ

1.霊長類ES,iPS細胞を用いた生殖細胞特異的遺伝子発現細胞の解析


サルES写真カニクイザルES細胞 マウス写真マウスES細胞

 生殖細胞(卵子、精子)は我々の身体を構成する体細胞とは異なり、次世代へ遺伝情報を混合し、伝達するという目的のために分化した特殊な細胞です。
生殖細 胞は発生の極めて初期にその運命決定がなされ、体細胞とは異なる特有の細胞分裂、減数分裂を経て形成されます。
この過程で遺伝情報は染色体の組換えと組合せにより多様性を獲得します。
こうして生殖細胞にゆだねられた遺伝情報は有性生殖により新たな世代をつくりだしてゆきます。
当研究室ではマウスおよび霊長類のES, iPS細胞を分化させ、特に後期生殖細胞特異的遺伝子を発現する細胞の解析を行っています。

2.環境化学物質が生殖細胞分化に与える影響

 今日我々は、衣食住の全てにおいて様々な化学物質に取り囲まれており、これらと無縁に生活することは不可能と言って良い状態です。
現代生活にあふれる多種多様な化学物質は、我々の生活にさまざまな恩恵をもたらす反面、人体をはじめ、生物への悪影響が懸念されています。
例えば魚介類にメス化等を引き起こす内分泌かく乱作用が有名です。
一方でヒトに与える影響に関しては、男性不妊やアレルギーなどへの影響が指摘されているものの、その影響を適切に評価するシステムが存在しないため、明確な結論が得られていません。
化学物質の影響は、分化した機能細胞より、分化能を持つ幹細胞、あるいは細胞分化過程に顕著に見られることが知られています。
そこで当研究室ではES細胞の分化能を利用して環境化学物質が生殖細胞分化に与える影響を解析しています。
最近、プラスチック原料のビスフェノールAが生殖細胞分化を促進し、生殖巣を雌性化する可能性があること、レチノイン酸シグナルを増強することを見出しました。

3.琵琶湖固有種の保存と幹細胞生物学

モロコ写真琵琶湖固有種:ホンモロコ

 琵琶湖は世界で3番目に古い湖とされ、約50種の貴重な固有種が生息していますが、現在その多くが絶滅の危機にあります。
特に琵琶湖固有種は、貴重な食糧資源として利用されてきたことから、独特の地域の食文化を形成しています。
すなわち琵琶湖固有種の損失は生物資源のみならず地域食文化の喪失にもつながります。
そこで地域の貴重な生物資源保護と固有種の細胞生物学の観点から琵琶湖固有種(ホンモロコ、ニゴロブナ、セタシジミ)の細胞株樹立、生殖細胞の保存とin vitro分化、
さらにそれらを用いたバイオセンサー構築を試みています。
このプロジェクトは、生物および食糧資源として貴重でありながら、細胞生物研究について報告のほとんどない琵琶湖固有種に関する学術的空白領域を埋めると共に、
細胞レベルの知見と固有種、自然 環境保全、地域文化を統合し、地域に貢献することを目指しています。
 最近、ホンモロコの細胞株を用いて、環境水中のホルモン様物質を検出する「バイオセンサー」を構築し、殺虫剤等に含まれる化学物質のノニルフェノールが雄性ホルモンを抑制することを見出しました。

ルシフェラーゼアッセイ図

またホンモロコの精原細胞の低温保存、in vitro精子形成にも成功しています。

in vitro 精子分化図ホンモロコ精巣細胞におけるin vitro精子分化