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2022.03.11

アジア日本研究国際シンポジウム2022セッション1“Local Knowledge as the Basis of Disaster Management in Asia”を開催しました!

セッション当日の様子は以下のリンクからご覧いただけます。
https://youtu.be/tdmlNX7WLLY

アジア日本研究国際シンポジウム2022 “Asia Japan Research Beyond Borders: Global Sharing of Local Wisdom towards Human Longevity”におけるセッション1を “Local Knowledge as the Basis of Disaster Management in Asia”と題して開催しました。
本セッションへの参加者は以下の通りです。

司会:廣野美和 教授(立命館大学グローバル教養学部)
登壇者:
大窪健之 教授(立命館大学理工学部、立命館大学・歴史都市防災研究所所長)
タイトル:“Temples and Shrines as Evacuation Base in Tohoku”
マリア・タニャック(Maria Tanyag)博士(オーストラリア国立大学アジア太平洋学部コーラル・ベル・スクール)
タイトル:“Gender, Knowledge and ‘Forgotten Crises’ in Southeast Asia”
モリッツ・マルツキー 教授(立命館大学グローバル教養学部)
タイトル:“AI-Based Language Models to Support Survey Analysis in Disaster Management”
ムハンマド・リザ・ヌルディン博士(立命館大学アジア日本研究所)
タイトル:“Faith-Based Organizations and Social Capital in Post-Disaster Indonesia”
マルジョリー・ルスエロ氏(立命館大学アジア日本研究所)
タイトル:“Businesses as Local Partners in Disaster Relief and Recovery in the Philippines”
マヌ・グプタ博士(SEEDS India創設者)
タイトル: “Leveraging Local Community Networks for Building Disaster Resilience”

世界人道サミットの開催から6年が経過していますが、その進展は遅々として進んでいません。その原因には、制度的障害や官僚的な手続きシステムの壁が立ちはだかっていることがしばしば指摘されます。しかし、この10年は人類にとって非常に重要な時期です。摂氏1.5度の転換点は、私たちが思っているよりも早く訪れると言われています。差し迫った事態の影響を受ける人々の数はすでに指数関数的に増加しています。このため、いま行動し、ローカルに根差した私たちの努力が、影響を受けるすべての人々をエンパワーするようにしなければならない状況にあります。

さて、アジアの諸地域における災害対応の歴史は数千年にも及び、それゆえ、災害対応に関する豊富な知識と経験がこの地域では蓄積されています。しかし、国際的な政策論の場では、どの程度の資金を現地NGOに直接投入すべきか、現地の関係者がどのように災害対応の調整に参加できるかなどが議論されていますが、こうしたアプローチでは、現地の知識の存在を真剣に考慮に入れておらず、それゆえに、現地の関係者が既に持っている重要な力が認められていません。

こうした重要なローカルな知的資源を活用するための第一歩として、ローカルな災害対応の知識がどれほど重要か、またそれがどのように人命を救い、災害を軽減するかを示す学術的証拠が必要となります。こうしたローカルな災害対策の知を活用する学問的土壌を整えたうえで、人命を救い、災害を軽減することができることを実証することが、このセッションの基盤となる研究プロジェクトの最終目標です。

では、なぜローカルな知識が重要なのでしょうか?各登壇者は、この問いに関してそれぞれの研究成果と洞察を示しました。まず、本シンポジウムの視点では、ローカルな知は古代の伝統に関わるものではなく、事実に基づいた知識、技能、能力から成るものであり、この意味で、絶えず進化しているものです。このことを理解する一つの重要な視点が社会(関係)資本(social capital)という概念です。この見方によれば、個人間のつながりから成長したネットワークは、社会的相互作用コストを削減し、情報共有のあり方を改善し、集団に関わる問題をより容易に解決できるようにしながら、信頼、協力、相互支援を増加させることができます。

SEEDS Indiaの創設者であるマヌ・グプタ博士は、以上の点について、5つのポイントを強調しました。第一に、コミュニティの中心に位置し、信頼されるリーダーが地域の主導権を強化するということです。第二に、ローカルなコミュニティに即して、リスクと脆弱性を理解する必要があるということです。過去に災害を経験した人々は、将来のリスクや脆弱性を低減する方法を模索するようになります。他のコミュニティは、何らかの形でその経験から学ぶことができるようにならなければなりません。三つの目のポイントは、人々の行為主体性(agency)である。現状では、管理が容易なトップダウンアプローチを用いた危機管理が一般的です。救助隊を派遣し、人命救助が果たされることは何より重要なのですが、その過程で現地の人々の関与や権利を奪ってしまうという問題があります。これでは、このセッションで焦点化しているローカリゼーションパラダイムの実現が叶いません。四つ目のポイントは、援助(resource)に関わります。危機管理においては、必要なときにのみ援助を提供することに留まりがちですが、変化するコミュニティのニーズに柔軟に対応するには、十分な援助を提供する必要があります。コミュニティが提供された援助を利用して自己決定できるための援助の利用の枠組が必要となります。最後のポイントは、誰も取り残されないようにするということです。特に、私たちは、ジェンダーに配慮した包括的なプログラムを策定し、また、最も弱い立場にある高齢者をケアするプログラムも生み出す必要があります。

続いて、4名の専門家からフィールドワークに基づいて現場の状況に関する報告を行いました。それらの報告内容としては、インドネシアの宗教団体や社会資本の活用、日本の寺社の避難拠点としての可能性の探求、フィリピンの災害救援・復旧のための現地パートナーとしての企業の活用、東南アジアにおける男女不平等に起因する災害危機において女性に課せられるストレスの偏り、そして、防災における調査分析を支援するAI言語モデルの技術的進歩など、多岐にわたる問題圏に議論が及びました。