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2023.07.21

【レポート】第58回AJI研究最前線セミナーを開催しました!Dr.許僕塵:“Do Household Incomes and Parents’ Expectations Contribute to Money and Time Investment in Shadow Education? Evidence from CFPS2016”

 7月18日(火)、第58回AJI研究最前線セミナーをオンラインで開催しました。今回は、Dr. 許僕塵(XU Puchen:アジア・日本研究機構 専門研究員)が“Do Household Incomes and Parents’ Expectations Contribute to Money and Time Investment in Shadow Education? Evidence from CFPS2016”と題して発表を行いました。

 Dr.許の発表は、特に収入と親の期待などの家族の特徴が、中国で「影の教育(shadow education)」として知られる学外教育への時間とお金の私教育の支出にどのように影響するかを調査するものです。Dr.許の属する研究チームは、都市部の家庭の収入と子どもの学位に対する親の期待が、影の教育の実施に大きな影響を与えることを発見しました。これとは対照的に、農業部門の家庭では、影の教育にあまりお金をかけない傾向があります。中国では、公式の学校教育への期待が低く、60%近くの家庭が収入の半分以上を私教育に支払っています。この需要に応じるように、2016年の私教育の市場規模は8000億元となり、約800万人の教師が約1億3700万人の生徒に私教育を提供するまでに拡大しています。

 以上の状況のなかで、子どもにはストレスがかかるだけでなく、家庭にも経済的な負担がかかります。このことによって、経済的な問題や子どもの健康問題、家族関係の緊張などの問題が生じています。「影の教育」を利用している保護者を対象とした調査では、31.5%が 「お金がかかりすぎる」 、20.3%が「効果が見えない」と答え、教育を受ける子どもの56%が「勉強したくない」と回答したという事実も示されました。こうした状況を受けて、2018年には、学生の睡眠時間を確保し、過重な宿題や家庭教師の負担から解放するため、中国の中央政府は民間の教育機関の改革に着手しました。たとえば、広告を制限し、「営利企業」としての登録を禁止するなどの措置です。しかし、中国の大学入試制度は変わっておらず、親の子供に対する学業への期待も相変わらず大きいままです。

 Dr.許の刺激的な発表が行われた後、質疑応答が参加者との間で行われ、日本における高い教育費や所得と教育の相関、子どもへのストレス、人口減少問題など、中国の状況と通じるテーマについて議論が交わされました。Dr.許は一つ一つの質問に丁寧に応答し、参加者にとって学ぶところの多い回となりました。

58th報告写真
発表を行うDr.許僕塵

過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/