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2024.04.30
【レポート】AJIグローバル・シンポジウム2024を開催しました!
2024年2月18日(日)、アジア・日本研究所の年次シンポジウム(AJIグローバル・シンポジウム2024「立命館発 これからの価値創造と私たちの羅針盤:アジア・日本研究からの発信」が、立命館アジア・日本研究機構、立命館大学アジア・日本研究所、立命館先進研究アカデミー(RARA)、立命館アカデミックセンターの共催で開催されました。当日は、500人以上の参加者にご視聴いただきました。ご参加いただいた皆様に改めてお礼申し上げます。
年次シンポジウムのプログラムは以下の通りです。
基調講演「東アジアの安全保障の危機と日本の針路:理想と外交力の架橋」
薮中 三十二(学校法人立命館理事/元 立命館大学国際関係学部客員教授)
パネル・ディスカッション「アジア・日本の未来と次世代の生きる力」
司会 小杉泰(立命館大学アジア・日本研究所所長)
*登壇者によるスピーチ
「デジタル化・AI時代の生き方・考え方:ビジュアル・シンキングの未来」
田中 覚(立命館大学 情報理工学部教授/RARAフェロー)
「中国の経済力と政治力がゆるがす世界の秩序:アジア太平洋から発想力を鍛える」
廣野 美和(立命館大学 グローバル教養学部教授/RARAアソシエイトフェロー)
「ネット新時代の起爆力と現場のパワー:アフリカ研究と文化人類学からの提言」
小川 さやか(立命館大学大学院 先端総合学術研究科 教授/RARAフェロー)
シンポジウムでは、まず薮中三十二氏による基調講演「東アジアの安全保障の危機と日本の針路:理想と外交力の架橋」が行われました。2022年に始まるロシアによるウクライナ侵攻が消耗戦へと突入し、さらに、その後、ガザ戦争の勃発によって世界の安全保障環境が大きく不安定化するなか、日本においても防衛力強化が進められ、政治でもメディアでも「台湾有事」をめぐる中国の日本の安全保障に対する脅威が声高に叫ばれてきました。
こうしたなかで、薮中氏は、日本が東アジア地域において取るべき国家間関係の指針として、日米同盟の強化や防衛力の一定の整備・強化と並行して、東アジアの平和を維持するタフな外交努力を継続していくことの重要性が指摘されました。一般参加者との質疑応答では、中国との協調的な外交交渉がいかにして可能なのか、北朝鮮との対話の糸口などに関する質問が寄せられました。これらの質問に対して、薮中氏は、中国と協調路線を確立していく外交カードに目を向ける必要があることを強調しました。同様に、実際に北朝鮮の拉致問題の解決に外交官としてかかわった経験を踏まえながら、対立関係のなかでも協調の糸口を見いだすことができることを指摘しました。
基調講演を行う薮中三十二氏
以下のリンクから薮中氏の基調講演をご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=JXBB0hJHDnA
最初に、田中覚教授(理工学部)から「デジタル化・AI時代の生き方・考え方:ビジュアル・シンキングの未来」と題して、21世紀型のビッグデータを背景としたAIの発展、さらには近年の生成系AIの登場などの技術革新を背景として、AIとともに知を創造・共有していく新時代の思考のあり方についてご発表いただきました。田中教授は、大量のテクストデータに限らず、近年では膨大な画像データが蓄積され、AIによる処理によって、様々な直観的なパターンやヴィジュアルの形成を行うことができるようになりました。こうした技術革新の影響は、学問の世界でもいわゆる文系/理系を問わず広がっていくと考えられます。こうした動向のなかで、生成系AIの技術を活用しつつ、様々なパターンや画像の形成のプロセスに人間が介在し、技術と人間の間に循環を形作ることで、専門家/非専門家や分野間の垣根を越えた協働的な知の生産——「デジタル・シンキング」——の可能性が生まれています。
発表を行う田中覚教授
続いて、廣野美和教授(グローバル教養学部)からは、「中国の経済力と政治力がゆるがす世界の秩序:アジア太平洋から発想力を鍛える」と題して、ご発表いただきました。最初に、中国の台頭を背景に、世界秩序が大国間の対立関係で語られがちであることが指摘され、世界秩序のなかでのリーダーシップだけでなく、様々な途上国の立場やそこに生きる人々に対する中国の影響を捉える重要性が強調されました。世界には、限られた先進国や大国と見なされる国がある一方で、150か国以上の圧倒的多数の国々が途上国です。廣野教授は、後者の国々で生きる人々が中国のような大国の政策をいかに認識しているのかという点について、ネパールやミャンマーをはじめとした国々においてインタビューや現地調査を通して研究してきました。こうした研究を通じて、廣野教授は、変化が激しいグローバル世界のなかで、途上国における大国への感情や認識も、歴史的関係、複数国間の政治的な力学、現実的利益などの複数の変数のなかで形成され、変容していきます。以上の発表を通じて、廣野教授は、途上国社会の現地の複雑な文脈を理解し、世界を大国政治一色で捉えない認識・思考能力を鍛えていく必要があることを強調しました。
報告を行う廣野美和教授
最後に、小川さやか教授(先端総合学術研究科)より、「ネット時代の起爆力と現場のパワー:アフリカ研究と文化人類学からの提言」と題してご発表いただきました。発表では、まず、途上国のリープフロッグ型発展(蛙飛び型)という現象に着目し、それが実際にアフリカ社会経済に生み出している変化の実像が示されました。リープフロッグ型発展とは、先進国が経験した社会経済の発展の段階を経ずに、最新の技術を導入することで起こる社会経済システムの変化を指します。実際に、小川教授が専門とするアフリカ諸国では、先進国の経済発展にとって不可欠であった道路などのインフラ整備、固定電話の普及、紙幣の流通などが起きないまま、ビットコイン、ドローン、スマートフォンの普及が生じています。さらに、近年のデジタル技術の普及は、現地に伝統的に根づくインフォーマル経済と化学反応を起こすことで、固有の社会経済的関係を形づくっていく過程が、様々な具体例とともに示されました。とくに、タンザニアの国などの伝統的な露天商や行商人と顧客の人格的関係がデジタル技術の普及によって、現地の社会経済活動が先進国におけるアルゴリズムによるお薦め機能やギグエコノミーの普及による効率重視の成果主義を採用するのではなく、商人との人格的関係を保持したままEコマースが拡大するという固有の文脈が生まれています。以上の議論を通じて、デジタル化によってグローバル社会が画一的になるのではなく、それぞれの地域の人間関係や伝統的な経済活動のあり方と連動して、多様な社会経済を形づくっていくことが示されました。
発表を行う小川さやか教授
以上のように、パネルディスカッションでは、それぞれ独自のテーマで発表をしていただくとともに、技術と社会との関係、大国と途上国との関係、現地の人々の柔軟な発想など、要所要所で相互に結びつく大変刺激的な議論が展開されました。
パネル・ディスカッションの様子(左:小杉泰 所長)