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<概要LP>日本バイオ炭研究センター / Biochar Research Center
2022年11月17日 設立

研究センター設置について
CO2排出量の低減を進めると同時に、削減しきれなかった排出量をオフセットするためには、地表上の総炭素絶対量の除去・削減を行う必要があります。バイオ炭は、「完全燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを熱分解して作られる固形物」(農林水産省)であり、炭素除去における極めて有望な技術の一つです。土壌への炭素貯留効果とともに、土壌の透水性や保水性を改善する効果が認められている土壌改良資材でもある。脱炭素分野の「炭素除去」に資する有効な方法として、2019年改良版のIPCC( Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)ガイドライン(1.5℃特別報告書:SR15)において世界的にCDR(Carbon Dioxide Removal)として認められたことを契機に、「バイオ炭の農地施用」が2020年9月に温室効果ガスの排出削減量や吸収量を環境価値として取引が可能な「クレジット」として日本国政府が認証する制度「J-クレジット」の対象となりました。またバイオ炭の農業利用に関する学術論文は2010年の100編程度から2021年には17,000編にも達し、英語論文が中心であり国際的な研究が急激に盛んになってきています。

 このような状況下、バイオ炭の社会実装の推進において、自然科学及び人文社会科学の総合的な知見を活用した研究推進組織の存在がますます重要となっていることから、立命館大学に、日本バイオ炭研究センターを設置し、国内外の専門家を招集しつつ、関連領域の人材育成を同時に担う国際的な研究拠点化を目指すこととしました。


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研究センターの使命

以下の3つの目的を達成するために、持続的な研究の展開を構想し、実践してまいります。

1.バイオ炭活用による温暖化防止に資するカーボンマイナスの社会実装の実現

2.バイオ炭の環境保全機能(炭素貯留及び土壌改良)の向上及び実現

3.関連領域の人材育成


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本研究センターの主な研究領域

1.バイオ炭の環境保全機能に関する研究

 バイオ炭の環境保全機能として大きく2点の特色があげられます。CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)機能と土壌改良機能です。


1-1. CO2削減のCCS機能

 バイオ炭は、IPCCの「1.5℃特別報告書:SR15」に記載されたように、二酸化炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)として定量可能なCO2削減方法です。一定の未利用バイオマスがある限り、誰もが簡単に、製炭を通じてバイオ炭を作り、土壌施用によって炭素隔離(CCS:Carbon Capture & Sequestration)によるCO2削減が可能な手法です。本手法はCDRですが、単に化石燃料や電気等の削減によるCDRでなく、炭素貯留としてのCCSであり抜本的に地表上のCO2の絶対量を削減します。地域の未利用バイオマスを使用するため、バイオ炭CCSを行うこと自体が林業・農業振興による地域開発、治水・食料確保・水源地確保につながります。

1-2.  農地土壌改良効果

 近年、海外でもブラジルのテラプレタ等の発見により、バイオ炭の土壌改良効果は大きく見直され、農業への有用性は大きく評価されています。日本においては、出版されたものとしては日本最古の農書である『農業全書』(宮崎安貞著1697年、農書)にも記されているように、バイオ炭は農業に古くから使われており、その土壌改良効果は一般の農家にも浸透しています。しかし、近年ではそのバイオ炭の高価さゆえに他の土壌改良材に置き換わっていることもあります。

2.LCA手法の開発・事例研究

 ライフサイクルアセスメント(LCA)は、サプライチェーン全体を通じて環境影響を評価する技法です。2022年現在、国内研究機関でバイオ炭を対象にしたLCA研究者は他におらず、LCA実施のために必要な基礎データが立命館大学に蓄積されつつあります。例えば、LCA日本フォーラムの LCAによるCarbon Removal and Recycling (CR2) Technologies 研究会では、申請者の一人である中野准教授が委員を担当しています。バイオ炭のLCAに関しては、長期施用時の固定効果、施用後の流出による影響、バイオマス資源の利用可能性など、多くの学術的研究課題が指摘されています(Terlouw et al. 2021)。例えば、森林資源の利用はカーボンニュートラルと言われていますが、短期的には森林に貯留されていた炭素を大気中へ排出されることなります。そのため近年は、バイオマス資源であっても何らかの形で温室効果を評価する考え方が示されていますが、その評価手法は確立していません。これら課題に対して日本を代表する研究機関として取り組みを進めていきます。

3.カーボンマイナスに向けたバイオ炭の炭素貯留による社会実装

 本研究は、出口戦略としての社会実装を到達点としています。

そこで、経営学におけるプラットフォーム戦略及びビジネス・エコシステム戦略等を援用して、抽象的なモデルを策定・共有しながら社会実装を推進しています。

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3-1.組織化

 本ビジネス・エコシステムでは、社会実装に向けた組織化が重要です。産官学民の連携により、コンソーシアムや企業・団体との連携を考慮しながら、各機能の役割を担う組織化を推進します。提供サイドにおける生産サイド(バイオ炭生産販売者)および貯留サイド(農地等バイオ炭施用者:農家・農業法人等)があり、活用サイドにおけるカーボンオフセット活用サイド(企業・団体等)・ブランド活用サイド(環境保全農作物を使う飲食業・小売業や食品製造業者)等多様なステークホルダーが存在します。そして、重要な点は、それぞれのステークホルダー間には、プログラム型J-クレジットの創出等に係るシステムの機能(品質管理・J-クレジット管理・データベース管理・環境保全農作物ブランド管理・各パートナーサポート等)を担い、それぞれをつなぐプラットフォームが必要であることです。また、本プラットフォームをより機能化するために、各ステークホルダー間をつなぐためのアクセラレーターが重要です。加えて、研究のアウトリーチとして、一般企業・消費者などへの啓発活動を進めています。具体的には、社会実装のための情報作成による広報活動、教育活動を通じた啓発を行う組織化も促進します。

3-2. 情報システム化

 各主体が効果的に連携して価値創造を行うモデルを示しつつ、企業との連携モデルの構築や提供サイドの活動を可視化するために、プラットフォームを効率化・高度化する情報システムを整備します。各種情報を蓄積するデータベース、環境価値のライフサイクル(永続性を含む)の観点から証跡を管理するトレーサビリティシステム、農林水産省が整備する筆ポリゴン(全国の農地データ)を基にバイオ炭の施用やクレジットの創出の状況を可視化するGIS(地理情報システム)、バイオ炭の土壌データを分析するAI(人工知能)ベースのシステムなど、本プラットフォームを高度化する情報システムを整備しつつ、経済性や供給能力等の数々の課題を持続可能性の観点で研究を行います。

3-3. バイオ炭農地施用ガイドライン

 農地へのバイオ炭の施用においては、農業者が一定の安心を持つことができるなど、現実的に実施可能な条件を明らかにする必要です。そこで、バイオ炭規格に基づいて標準炭素含有率を設定したバイオ炭施用ガイドラインを研究します。これは、土壌改良効果等による農作物生産と温室効果ガス削減の双方に最適なバイオ炭施用のための農業現場に即した実地でのバイオ炭の活用のあり方を具体的に示すものです。バイオ炭の施用効果は、対象とする土壌、作物種、材料となるバイオマスや炭化条件によって異なることが想定されているため、継続的な検証を要する独自の研究内容となります。

4-4. 地域参加型エコシステム構築

 社会実装において、地域参加型のビジネス・エコシステムを構築します。環境低減型の商品開発・流通、及び消費者のエシカル消費の観点からも、研究を推進します。社会実装においては、バイオ炭の生産から施用、そして農産物等の消費・活用においては、LCAの観点、地域振興や農業振興の観点からも一定のエリアを考慮した地域での実装が望まれます。バイオ炭を用いたカーボンマイナスは、提供サイド、貯留サイド、活用サイドのプレイヤーが存在しています。バイオ炭は、未利用のバイオマス資源を原料に、製炭業者やバイオマス発電の副産物として生産されます。ここで生産されたバイオ炭は農家によって貯留され、カーボンマイナスを実現します。貯留されたカーボンマイナス量は、データベースに登録され、J-クレジットを通じて企業などのカーボンオフセットに利用されることが一般的な流れでです。本研究では、農家がバイオ炭を貯留するのみでなく、農作物に環境保全型野菜のブランド認定を行う等により、農作物の付加価値を向上させることによって、継続的な炭素貯留を促進します。このように農業者によるバイオ炭の導入を行うことによって、カーボンマイナス活動の循環が行われます。しかし、バイオ炭の導入にはコストや作物品質に対する懸念等の心理的な障壁があり、導入の課題となっています。そこで、農業者に対するバイオ炭導入のメリットや作物に与える影響の科学的根拠に関する教材を作成し、農家への情報共有を推進します。また、一般消費者に対して、環境に対する意識的な消費によって、食事を通じた環境への貢献できること、カーボンマイナスの必要性を教育することで、ブランド確立と価値向上につながります。そのために消費者向けの教材を作成し教育活動を行います。




所属研究員一覧

柴田晃(OIC総合研究機構客員教授)・研究センター長

依田祐一(経営学部教授)・副研究センター長 中野勝行(政策科学部准教授)・運営委員 林永周(経営学部准教授)・運営委員 深尾陽一朗(生命科学部教授)・運営委員 徳田昭雄(経営学部教授)・運営委員

野中朋美(食マネジメント学部教授)  湊宣明(MOT研究科教授) 安田裕子(心理学部教授) Raupach SUMIYA Joerg(経営学部教授) 佐野聖香(経済学部教授) 毛利公一(情報理工学部教授) 東健太郎(経営学部教授) 渡部弘達(理工学部准教授) 鐘ヶ江秀彦(政策科学部教授) 山末英嗣(理工学部教授) SCHLUNZE Rolf Dieter(経営学部教授) 

小澤史弘(客員研究員) 髙橋幸秀(客員研究員) 沖森泰行(客員研究員) 栗本康司(客員研究員) 吉澤秀治(客員研究員) 佐藤伸二郎(客員研究員) 坪田敏樹(客員研究員) 須藤重人(客員研究員) 岸本文紅(客員研究員) 稲富素子(客員研究員) 凌祥之(客員研究員) 南部達彦(客員研究員) 井関夏帆(客員研究員) 大和田順子(客員研究員) Herbes Carstin(客員研究員) 土井美奈子(補助研究員) 保坂秦之介(補助研究員)


事務局(問合せ先)

立命館大学研究部OICリサーチオフィス

岡本・綾城・工藤  072-665-2570, rbrc@st.ritsumei.ac.jp




関連リンク:日本バイオ炭コンソーシアム

関連リンク:立命館大学カーボンマイナスプロジェクト(研究アウトリーチ活動)

関連リンク:2023年3月7-8日 日本バイオ炭研究センター・日本バイオ炭コンソーシアムのシンポジウム(記録)

お知らせ: 2024年2月28-29日 日本バイオ炭研究センター・日本バイオ炭コンソーシアムのシンポジウム開催。 申し込みはコチラから!