【Guest Lecture Report】政治学における都市政治研究の可能性ーアメリカ聖域都市研究を例としてー

202334日に、Zoomを用いたオンライン開催でMonthly Young Scholar Research Meetingが実施された。報告者は、神戸大学大学院国際文化研究科の安岡正晴教授であり、報告タイトルは「政治学における都市政治研究の可能性―アメリカ聖域都市研究を例として―」であった。

 聖域都市とは、法的に明確な定義は存在しないが、連邦移民局に積極的に不法移民・滞在の情報を提供しない都市や州のことを指すという。その歴史において、重要な転換点として、安岡教授は、1983年までに, 45の教会と 600の団体がエルサルバドル及びグアテマラからの難民にサンクチュアリを提供したことを挙げている。

 報告内容は以下の通りである。安岡教授は、近年細分化されている政治学の中に自分の研究を当てはめるということに言及した。そのうえで、不法移民を通報しない方針を取る都市・州という、連邦政府と反対の立場をとる自治体の研究が、政治学にどのような意味を持つのかについて考察していた。次に、日本とアメリカの中央政府と地方政府の関係性の比較をしたうえで、それぞれの不法移民に対する法律を俯瞰した。その後、アメリカにおける西域都市の独自性と、国家の関係性に関して明らかにされた。

また、質疑応答において、以下の2点の質問があった。1点目は、国家―地方同士の対立だけではなく、地方-地方の対立もあるのか、というものであった。それに対して安岡教授は、潜在的に対立が存在している可能性があると答えた。また、2点目の質問は、なぜ不法移民を通報しない風潮のある地域があるのかについてであった。これに対して安岡教授は、アメリカの建国理念との関係性を指摘した。

 不法移民という、一見国家の決定事項であるような分野に対する、地方分権国家であるアメリカの取り組みは大変興味深い。とりわけ、アメリカ人の移民気質という、ある種のアイデンティティにのっとった政策を地方が独自に行うという、地域の特性に基づいた取り組みというのは、日本の行政構造では難しいだろう。一方で、日本は、東京への一極集中の動きに危機感を持ち、地方の特色や地方としてのアイデンティティを希求する動きは、長年出ているものの、成就している様子はない。日本の地方行政を見直すうえで、アメリカの国家-地域構造にも目を向ける必要があると感じ、国際地域に関連する研究の意義を改めて考えることができた。