エネルギーセキュリティ確保のための高効率多接合薄膜太陽電池の開発 | 高効率を実現する薄膜太陽電池がエネルギーの未来を変える。

カルコパイライトで低コスト化、高効率化

共同研究者 R-GIRO 峯元高志 准教授

私たちのプロジェクトでは、カルコパイライト化合物薄膜に着目し、低コストかつ高効率の太陽電池の開発に取り組んでいます。カルコパイライトの利点は、一般的な太陽電池材料であるSi結晶に比べて発電層を薄くできるため、材料コストを抑えられる上、優れた光電物性を持つことです。

代表的な物質であるCu(In,Ga)Se2(CIGS)薄膜太陽電池は、変換効率20.0%を達成しています。これは多結晶Si太陽電池に匹敵するほどの数値です。私たちが目指すのは、これまでに例のない、Eg=1.9~2.3eVというワイドギャップ領域のカルコパイライト薄膜太陽電池を開発すること。それによって変換効率30%の太陽電池を実現したいと考えています。

ワイドギャップ領域の薄膜太陽電池を開発

まずは、1.0~2.3eVまでの多様なEgの薄膜太陽電池のデバイスを構成設計し、それぞれのカルコパイライト薄膜の高品質結晶の作製に取り組んでいます。真空蒸着法による高品質薄膜成長技術を活用し、これまでにEg=1.0〜1.3eVのCu(In、Al)Se2やCu(In、Ga)Se2の成膜を行いました。現在は、組織比を制御し、Eg=1.3~1.9eVの薄膜を作製しています。またさらなるワイドギャップ領域(Eg=1.9~2.3eV)として、硫化物系のカルコパイライトであるCu(In、Al)S2の作製も新たに試みています。すべてのEgの結晶が作製できれば、各Egのシングル接合の高効率太陽電池セルを作ります。

続いて、太陽電池の効率をよりいっそう高めるため、各Egのカルコパイライト薄膜を積層し、短波長から長波長までの太陽光スペクトルを吸収し得る多接合型の薄膜太陽電池を設計します。予備検討では5、6層で理論的には変換効率40%が得られるとの試算が出ました。私たちは、変換効率30%を達成し得るEgの組み合わせや、各層の接続方法をシミュレーションし、デバイス構成設計の最適化を図るつもりです。

多接合化にあたっては、シングル接合太陽電池の上にいくつもの太陽電池を重ねます。その際、バッファー層や透明電極が、最高550℃にまで上がるカルコパイライト薄膜の成長温度に耐えきれず、電池の性能が低下する可能性があります。それを避けるため、リフトオフ法による多接合化技術の開発にも取り組んでいます。基板に薄膜セルを作製し、セルをリフトオフしてから多接合化するという新しい方法で、高効率薄膜太陽電池を完成させるつもりです。

さらに将来は、有機薄膜太陽電池との融合も視野に入れています。無機、有機のデメリットを解消し、より低コスト化、高効率化を進めたいと考えています。

太陽電池を活用するシステム構築を志す

第一次エネルギーのほとんどを輸入に頼る日本にとって、将来にわたってエネルギーセキュリティを確保することは、私たちの生活に直結する重大な問題です。地域偏在性の小さい太陽光をエネルギー源とする太陽光発電は、そんな我が国にとって理想的な発電方式といえるでしょう。加えて地球環境保全という観点からも、太陽光は有意義なエネルギーです。

これまで以上に太陽電池を普及させるには、現状の電力並みに発電コストを抑えると共に、より効率的な発電が可能な太陽電池を開発する必要があります。私たちのプロジェクトは、そのための一つの解答を提供することになるはずです。

しかし太陽電池の完成だけでは、エネルギー問題の解決には至りません。電力を供給するインフラの整備や地球規模での供給を可能にする国際規格の策定など、太陽エネルギーを活用する包括的な仕組みが必要となるでしょう。そんなエネルギーを供給するシステムを構築する拠点を作ること、それこそが私たちの究極の目標です。

太陽電池、デバイス、化合物薄膜、高品質薄膜成長、有機半導体、多接合、地球環境保全

高倉秀行教授

高倉秀行教授

1977年 大阪大学基礎工学研究科物理系電気工学博士課程中退。工学博士。'77年 大阪大学基礎工学部助手、'88年 同助教授。'90年 富山県立大学工学部助教授、'95年 同教授。'96年 立命館大学理工学部教授、現在に至る。日本太陽エネルギー学会、日本マイクログラヴィティ応用学会、応用物理学会に所属。'94年 日本太陽エネルギー学会平成4年度論文賞を受賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:高倉秀行
高倉・峯元研究室 光機能デバイス研究室

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