極限二次利用学による循環型社会(琵琶湖モデル)の構築:リン・希少金属の微生物による回収 | 琵琶湖から世界へ新しい物質循環モデルを提示する。

稀有な条件を備える琵琶湖

水質の改善は、地球環境問題を考える上で不可欠なファクターの一つです。中でも私たちは、琵琶湖を中心として水環境の改善に取り組んでいます。琵琶湖は、400万年という長い歴史を持つ世界屈指の古代湖です。また外部からの影響の少ない閉鎖的な環境が長く維持されてきたことから、非常に多くの固有種が現存しています。さらには人間の生活領域と隣接し、1400万人が飲料水などに琵琶湖の水を活用しています。つまり琵琶湖は、閉鎖性を保ちながら人間の営みと深く関わっているという、世界でも稀有な条件を備える湖なのです。ここをフィールドとした研究や実践が、世界の湖沼環境の解決のモデルになるのではないかと私たちは考えています。

有害物質の回収と二次利用を図る

プロジェクトでは、琵琶湖の水環境における物質循環の問題点を徹底的に調査し、循環を妨げている律速段階を改善することで浄化を推進しようとしています。

私たちの研究の大きな特長は、微生物を利用して循環の律速物質を有効物質に変換する点です。さらには、水質浄化と共に、将来的に不足が予想されているリン酸や希少金属を回収し、資源として再利用する仕組みの構築を図ろうとしていることです。こうした二次利用にまで踏み込んで物質循環を追求する試みは、これまでほとんどなされていません。

フィチン酸を分解する微生物の分離に成功

嫌気性微生物の取り扱い

琵琶湖では、富栄養化の進行や排水の流入に伴って、湖底のデトリタス層の上に有機物や重金属、さまざまな有害物質がヘドロ層となって堆積し、水質汚染の原因になっています。加えて温暖化の影響で水流が滞り、湖底の低酸素化が加速したことで嫌気性微生物が増加、フィチン酸などを分解する好気性微生物が減少するという悪循環に陥っていることがわかりました。

まず私たちは、微生物を指標とした環境評価システムを構築しました。プロジェクトのメンバーが、すでに土壌の微生物量を測定する技術を確立しています。このモデルを水環境に応用し、湖底泥のバクテリア数をサンプル測定しました。その結果、室戸岬沖底泥には1gあたり42億6000万個の微生物が生息するのに対し、琵琶湖は北湖底泥に8億2000万個、南湖底泥にはわずか4900万個しか生息しないことがわかりました。これらのデータを標準化し、微生物量の最適値を導きたいと考えています。そうすればこの評価システムを世界の湖沼に応用することが可能になるでしょう。

次にフィチン酸やレシチンの分解菌を湖に投入することで、ヘドロの分解を試みます。すでに私たちは、リン酸基が結合しているフィチン酸を分解する微生物を分離することに成功しています。

さらにはポリリン酸を形成する微生物によって、遊離したリン酸を回収することも目指しています。同様にアントシアニン分解菌を用いてカリウムの回収システムも確立するつもりです。今後も新規微生物の探索を推進します。将来的には、貧栄養性菌など極限環境微生物を利用し、希少金属を回収することも視野に入れています。

私は、南極などの極限環境から多くの新規微生物を採取し、独自の手法で貧栄養性菌を分離した実績を持っています。これまでの成果をもとに極限環境微生物をはじめ、多様な微生物についてのライブラリーを構築したことが、2008年、環境バイオテクノロジー学会でも認められました。これらのアーカイブを水質浄化の他、多様な領域で生かすことも考えています。

極限二次利用学、フィチン酸、琵琶湖浄化、物質循環、デトリタス層、リンの回収、貧栄養性菌

今中忠行教授

今中忠行教授

1969年 大阪大学大学院工学研究科発酵工学専攻修士修了。博士中退。'73年 工学博士。'70年 大阪大学工学部助手、'81年 同助教授、'89年 同教授。'96年 京都大学大学院工学研究科教授。'08年 立命館大学生命科学部教授、現在に至る。日本化学会、日本農芸化学会、日本生化学会、環境バイオテクノロジー学会、極限環境微生物学会、アメリカ微生物学会、アメリカ化学会、国際環境バイオテクノロジー学会に所属。'03年 アメリカ微生物学アカデミーフェロー、'05年 日本化学会賞、'08年 環境バイオテクノロジー学会賞、'09年 日本化学会フェローを受賞。'05年より日本学術会議会員。'10年 紫綬褒章受章。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:今中忠行
立命館大学 生命科学部 生物工学科 環境バイオテクノロジー研究室 (今中研)

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プロジェクト活動報告

微生物で取り戻す美しい琵琶湖。

微生物で取り戻す美しい琵琶湖。
(今中忠行 教授)

2010.07.10