STORY #1

あらゆる手を尽くして
資源問題の解決に挑む

山末 英嗣

理工学部 教授

クルマ1台を作るのに
何kgの鉱物資源が必要か?

産業や人々の生活になくてはならない鉱物資源やエネルギー資源の持続的な確保は、人類にとって重要な課題の一つであり、多様な分野の研究者が解決策を模索している。しかし現実は一つの妙薬ですべてが解決するほど単純ではない。例えば画期的な資源のリサイクル技術を開発できたとしてもそれだけでは不十分で、その技術を生かすには生産コストの低減や普及政策も必要になる。こうした現実を見据え、学術分野に捉われることなくあらゆる手段を尽くして資源問題を解決しようとするのが山末英嗣の研究スタンスだ。山末は専門である材料科学と熱力学の知見に立脚しつつ、産業エコロジーや環境システム工学といった社会科学的な視点をそれに融合し、総合的な見地から資源問題の解決に挑んでいる。

中でもインパクトを与えた成果の一つが、資源の採掘活動量を「重さ」で評価する独創的な指標「関与物質総量(Total Material Requirement:TMR)」を発展させたことである。TMRは、ある材料や製品を製造するために必要な資源を採掘量で換算するというものだ。例えばステーキ肉となる牛1頭には、飼料として約7tのトウモロコシと約11tのサイネージ、大豆5tが必要だという。それらを生産するために使われる肥料にはリンやカリウムなどの鉱物資源が含まれている。この重さをTMR(資源強度)として定量化するというわけだ。「この指標に当てはめると携帯電話を1台製造するためには20~30kgの鉱物資源を採掘する必要があると換算できます」と山末。山末はあらゆる素材や材料、食料、中間物質、エネルギー、製品について指標を作り、世界で唯一のデータベースを作り上げている。現在データ数は約1,000にのぼるという。

TMRから山末は「資源パラドックス問題」と称して衝撃的な問題を提起している。それは「低炭素を実現するための取り組みがかえって資源の採掘量を増やす結果になる場合がある」というのだ。一例として挙げられたのが、電気自動車など次世代自動車である。山末の試算によると、従来のガソリン自動車1台あたりのTMRは鉄や銅など約20 tであるのに対し、それらに加えてニッケルやリチウムが必要となるリチウムイオン電池のハイブリッド車は50 t、燃料電池車は75 t、さらに電気自動車は70~120 tもの資源採掘量が必要になる。「電気自動車は確かに燃費は良いが、導入時に加え、経年による電池交換も換算すると、資源効率はせいぜい10km/ℓの従来型自動車と変わらないという結果になります」と山末は言う。

こうして課題を明確にした上で有効な解決の手だてを考えるのが、山末の研究の真骨頂だ。現在は廃棄物に含まれる資源のリサイクルに着目し、シリコンスラッジや使用済みリチウムイオン電池からシリコンやコバルトを抽出したり、鉄鋼スラグに含まれるリンを低コストでリサイクルする方法などを探っている。中でも注力するのがマイクロ波の活用である。

電子レンジなどに使われるマイクロ波は、対象となる物質のみを加熱するため短時間で高温にできるのが特長だ。「エネルギー効率が高く、小型化しても効率が落ちにくいという特性を生かせば、革新的な分散型リサイクル拠点を作ることができるのではないかと考えています」と山末は言う。家庭やコミュニティに設置できる小型リサイクル装置で必要な資源を抽出してから廃棄すれば、リサイクル効率を大幅に上げることが可能になる。

山末はマイクロ波加熱装置を使って廃棄物から有用な物質を抽出する実験を行い、すでにリチウムイオン電池からコバルトやニッケルの抽出に成功している。「コバルトやニッケルは日本にはないレアアースで、採掘が不当労働や紛争の原因にもなります。そのためリサイクル技術の開発が進められていますが、まだ有効な事例はありません。私たちの研究がその先陣を切れればと考えています」と山末は期待を込める。

またマイクロ波にはもう一つ、磁性のある材料ほど温度が上がりやすいという特性がある。山末はここに目をつけ、新しいプロセスの開発にも取り組んでいる。「一般に赤さびといわれる酸化鉄Fe2O3と、砂鉄などのFe3O4では、前者の方が還元されやすいため、製鉄には前者が使われています。Fe3O4は緻密な構造で還元されにくい反面、磁性を帯び、マイクロ波に対する応答性はFe2O3より高い」と山末。つまりマイクロ波ではFe3O4の方が温度が上がりやすく、製錬しやすくなる可能性があるということだ。「マイクロ波を活用することで、従来とは異なる反応を見つけ出せるかもしれない。そこがおもしろい」と山末は言う。

一方で山末の研究室では、学生が自然科学と社会科学の両方の視点を学ぶことを目的に、日本古来の製鉄法であるたたら製鉄の実践も行っている。立命館大学びわこ・くさつキャンパスには「木瓜原(ぼけわら)遺跡」という古代製鉄の遺跡がグラウンドの地下に保存されており、古代製鉄の痕跡を目の当たりにしながら自らものづくりに挑戦するという貴重な経験を得ることができる。そこから山末の研究を次代につないでいく人材も育ちつつある。

山末 英嗣
山末 英嗣
Yamasue Eiji
理工学部 教授
研究テーマ:エネルギーや資源の有効利用に関する文理融合型研究
専門分野:環境動態解析、環境影響評価、環境材料・リサイクル、持続可能システム、ナノ材料工学、熱力学、金属物性・材料、金属・資源生産工学、地球・資源システム工学

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2019年12月2日更新