STORY #1-2

ゲーム作りは
プレイヤーの
創造性を信じること

渡辺 修司

映像学部 教授

プレイヤーの内なる野生と向き合う
ゲームデッサンのすすめ

『スーパーマリオ』のような横スクロールのアクションゲームで、向こうから敵が近寄ってきたとする。特に指示されていなくても、指は勝手にボタンを押して敵を踏んではいないだろうか。踏まなければミスになるため踏むべきだったと気づかされるが、何も知らなくてもこれを踏みたいと思わされて体が動く場合があるのは何故なのだろうか。

「横断歩道の白いところだけを踏むという遊びをしたことはないでしょうか?」と問い掛けるのは、ゲームデザインの専門家である渡辺修司だ。横断歩道は当然遊び場ではないが、渡辺によれば白い部分の間隔は、小学生くらいの子どもが少しジャンプすれば飛び越えられる「少し難しく、成功すれば気持ちいい」このちょうどいい難易度で遊びを誘っているのだという。この遊びには名前がなく、誰かと共有されることも理論的に語られることもない。ただ遊び手の中から湧き出す「こうしたい」という野性的で恣意的な衝動によって誘発される。現れた敵を踏みたくなるのもこれと同じ心の動きだと渡辺は言う。

そんな「遊び手の野性」を引き出すゲームはどのように作られるのか。渡辺によれば、クリエイターがゲームを作りプレイヤーが遊ぶという二元的な理解は多くの場合正しくない。「多くのクリエイターは、プレイヤーもまたクリエイターであると考えています」。セーブデータを作るのはプレイヤーであり、キャラメイクで自分の分身をデザインすることもできるが、そうした目に見える創造行為とは別に、横断歩道の白いところを渡ろうとする時のように、クリエイターが特に指示しなくてもプレイヤーは自分で遊びを発見するというのだ。

一方、多くのクリエイターはゲームが売れる理由を知りたがってもいるという。「上村先生も任天堂から立命館大学にいらしたときの最初の研究テーマは『ファミコンは何故売れたのか』でした。しかし先生ご自身は早い段階でその問いをテーマから外してしまわれた。私はここに、ゲームに対する正しい向き合い方を感じます」

映画やテレビ等のエンターテインメントの企画では、社会情勢を鑑みて今の時代にどういうものが必要とされるかを「作品テーマ」として検討する。ゲームの企画はそうではなく、以前どんなものが売れたかという成功体験に頼る部分が大きいという。「売れた理由が分からないため、ゲームを見てゲームを作る内向きの視点になりがちです。でもゲームデザインの本質は過去の成功を真似ることではなく、プレイヤーの内なる野生に着目し、これをアシストすることなのです」

ゲーム作り、つまり遊びの創造に重要なのは売れた理由の分析ではなく現実世界の観察=デッサンだと渡辺は言う。画家が現実世界の観察眼を養うためにデッサンをするように、ゲームクリエイターも人間がどんな挑戦に着目し反応してしまうのかを観察しなければ能力は向上しない。「挑戦」とはあくまでプレイヤー自身の創造であり、デザイナーはそれをアシストするだけだ。このことはゲームの媒体が何であれ、オンラインであれプレイ人数が何人であれ変わらない。

難易度が適切に配置されているゲームを体験すると、プレイヤーは誘導されていると感じないまま遊びを発見し気持ちよくプレイを進めることができる。遊びの創造が苦手なプレイヤーであっても、このアシストがあれば遊びを「自ら創造」できる。これが良いゲームの条件であると語る渡辺だが、プレイヤーがクリエイターの想定を超えた遊びを創造する場合があり、これこそがゲーム作りの面白さだとも認めている。クリエイターは自分の考えた遊びをプレイヤーが真似てくれるように願うものだが、芸道の世界に守破離という言葉があるように、ゲームの世界にもプレイヤーがクリエイターを飛び越え新しい遊びを作り出す瞬間がある。裏技の発見や実況動画は、プレイヤーがクリエイターを越える逆転現象によってうまれる。渡辺によれば、プレイヤーとクリエイターとのこうした緊張関係が、ゲームを発展させる原動力の一つであるという。

「たかが遊び、されど遊び。この言葉は、生前の上村先生がよくお話されていた言葉です。

有史以前の人類からみたら、現生の人類はすべからく暇をもてあます有閑貴族です。しかし、そんな貴族たちが暇に打ち勝つために用いる遊びの一つである『ゲーム』は、野生の解放をモチーフとするのものが多いのです」。有史以前の人類にとってはありふれた野生の環境の中に、現代人類に遊びを発見させるトリガーが隠れている。テクノロジーの先にある人類が求めた幸福の形を「たかがゲーム」は示しているのかもしれない。

渡辺 修司
渡辺 修司
Watanabe Shuji
映像学部 教授
研究テーマ:ゲームデザインの基礎的研究、遊びのモデル化にもとづいた、ゲームデザインおよび他分野への応用研究
専門分野:デザイン学 、感性情報学、エンタテインメント・ゲーム情報学、学習支援システム

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2022年10月11日更新