STORY #5

ゲームに見る社会を
生き抜く手がかり

マーティン・ロート

先端総合学術研究科 准教授

現実社会や自分を取り巻く問題を
SFゲームで「体験」する

ファンタジーの世界を冒険する、モンスターとの格闘、自分だけの島を作る…デジタルゲームは現実には決して見ることのできない景色を見せ、得ることのできない体験をさせてくれる。「ゲームを単なるエンターテインメントとして消費するだけでなく、私たちの社会や生活を変える手がかりをつかむ『想像の空間』として捉えられないか」。そうした問いからマーティン・ロートは、特に日本のSFゲームを分析する研究を行った。

ユートピア文学やサイエンスフィクション小説のように、読者を現実にはない世界に招き入れ、その世界を体験させる、あるいは人間の普遍的な悩みや葛藤について考えさせる力を持ったメディアはゲーム以外にもある。「他のメディアには取って代わることのできないゲームだけの表現力というものがあるのか、多くのゲーム研究者が追求しています」。その力が存分に生かされていないものも多くある実態を受け、ゲームの可能性と限界を批判的に考え続けなければならないとロートは考えている。

プレイヤーがゲームの世界に関与し、物語を変えられることもその一つだ。もちろんほとんどの動作はゲームを作ったデザイナーの想定内のものだが、プレイヤーが思いもよらない展開をもたらすこともあり得る。また繰り返しプレイすることで、別の結末を生み出せるところもゲームにしかない点だといえる。「デザイナーの意図とプレイヤーの遊び方の間、あるいは初めてプレイする時と、繰り返し挑戦する時の間には、しばしばプレイヤーが簡単には解消できないずれや葛藤が生じます。それに対し自力での解決に向かわせる力がゲームにはあるのではないか」とロートは指摘する。

「1940~60年代、アドルノやホルクハイマーらの批判理論の分野を中心に、エンターテインメントメディアがあらゆる問題に対して安易に『答え』を提供し、社会や自分に起こった問題について自分で解決策を考えなくてもいい状況をつくっているという批判がありました。その批判は現代にも通じるものだと思いますが、そうした傾向を著しく内在化しているゲームだからこそ、その中にはそれを覆す可能性を秘めたものもあると考えています」

例えば、『Shadow of Memories』というタイムトラベルゲームが一例になる。さまざまな時空間を旅するのが基本フォーマットだが、何度かプレイすると、プレイヤーが体験する時間軸に矛盾が生じ、現実的に考えると辻褄が合わない展開になる。「それは逆説的に、私たちが現実社会で常に直線的に進む時間に縛られて生きていることを自覚し、そうした一直線の時間が共有されない社会を想像するきっかけになるかもしれません」

またゲームを通して思うようにならない現実を体験することもある。「一部のゲームでは、繰り返しプレイしてスキルアップし、別のステージに進んだ途端、設定が変わり、それまでのスキルがまったく通用しなくなることがよくあります。私たちは常に目的を設定し、それに向かって行動しています。そうした目的性のない個人や社会とはどういうものか。ゲームで目的を失う瞬間にその問いがプレイを通じて突き詰められていきます」

日常生活には直接的に影響を及ぼさないバーチャルな空間で体験する現実を通して現代的な問題を独特な形で実感できる点も、ゲームならではの特性だとロートは考察している。一例として『DEATH STRANDING』というゲームを挙げた。感染などのリスクを背負いながら社会を支える「配達人」の存在に着目し、その日常を疑似体験できる。コロナ禍前に発売されたにもかかわらず、コロナ禍で増えたリスクやその管理の難しさを浮き彫りにするゲームだ。「人間がほとんどいない広く美しく危険な世界で、荷物の重さに今にも倒れそうな主人公を操作し、ひたすら配達業をこなす本作品は、現実社会の問題をゲームならではの形で提示し、批判していると捉えることができます」

今も世界で起きている戦争とゲームの関係にも深い関心を寄せる。競争や戦闘、格闘技といった「戦う」ことを主軸にするゲームは圧倒的に多い。「私自身を含め、多くのプレイヤーは、暴力や戦争に反対をしながら、多かれ少なかれそうしたゲームをエンタテインメントとして楽しみます。遊びと戦い、そしてゲームと戦争の関係を改めて現代社会を背景に批判的に考察する必要があります」

最近新たにスタートさせた研究では、これまでゲーム研究領域ではあまり注目されてこなかったメタデータとして、「専門家ではない」人々によって集められた情報と、ゲーム外のさまざまなプラットフォームで展開するゲームの拡張的な遊びに着目する。対象にしているのは、熱心なファンが自主的に集め、SNSなどで公開している情報や動画共有サイトに寄せられる動画やコメントなど。「そうしたデータを総合することで、これまで見えなかった風景が見えてくるのではないかと考えています」。ロートの今後の研究によって、ゲームをはじめとしたデジタル文化の新しい側面が明らかになるかもしれない。

人々が共に生きる世界をどうつくっていくのか。ゲーム研究を通じてそれを考える手がかりをロートは探り続けている。

マーティン・ロート
マーティン・ロート
Martin Roth
先端総合学術研究科 准教授
研究テーマ:ゲームの表現力・ゲームの経験・ゲームの政治性、デジタルの空間性・デジタル文化における共同体の可能性と実践、データ中心のメディア文化研究、オープンサイエンス・知識生産の新しい形態
専門分野:エンタテインメント・ゲーム情報学、地域研究、メディア学

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2022年12月5日更新