STORY #1

デジタルアーカイブ
日本の芸術・文化を残し、活かす

ゲームのアーカイブから分析する
ゲーム名の文字数の変遷。

福田 一史

衣笠総合研究機構 専門研究員

マンガやアニメーションと並んでデジタルゲームは現代ポップカルチャーの代表格であり、日本が世界をリードするジャンルの一つである。学術界でも “Game Studies” はいまや人気の研究分野で研究者も世界中にいるが、研究対象であるゲーム資料が少ないことが課題となっている。

「立命館大学では1990年代後半から家庭用ビデオゲームの研究とアーカイブの構築に取り組み、現在約8,000本のゲームソフトを保有しています」と語るのはアーカイブで中心的な役割を担う福田一史だ。2011年に設立された「立命館大学ゲーム研究センター(RCGS)」がその前年に始まった「文化庁メディア芸術デジタルアーカイブ事業」の正式共同事業体のメンバーとなり、福田らはゲームのデータベース作りを進めてきた。

「ゲームアーカイブには書籍などとは異なる難しさがあります」と福田。その主要な論点の一つが著作権だという。ゲーム画面のスクリーンショットやプレイ動画を保存、公開する場合、著作権法上はゲームメーカーの許諾が必要になる。しかし会社の倒産や吸収合併などの理由で著作権者が見つからないケースもあり、明確な解決策は見出せていないのが現状だという。またオンラインゲームなど「実体が捉え難く現象的な存在」のゲームをどうアーカイブするかも難題だ。

こうした困難はあるが「ゲームのアーカイブや研究の拠点として立命館大学のある京都に大きなメリットがある」と福田は語る。

「京都には世界でデジタルゲームの代名詞ともなっている『ニンテンドー』を筆頭に名だたるゲームメーカーが集積しています。加えて京都という土地柄の持つ『ベンチャー精神』が新しさや創造性を不可欠とするゲーム開発の土壌になっていると感じます」

一方、アーカイブにおいて資料と同じくらい重要なのが「目録(カタログ)」である。福田はRCGSや文化庁のゲームアーカイブでタイトル目録の作成に関わって以降、「ゲームの目録をいかにデザインするか」を考え続けてきた。

現代では世界中の図書館に所蔵された資料を誰もが便利に検索できるよう目録法の国際標準化が進んでいる。「2010年、世界の多くの図書館で採用されている国際的な目録規則が “RDA(Resource Description and Access)” という名称で大幅改訂されました。この名称からもわかるように、目録は資料を分類するためのものからアクセスするためのツールへと役割を変えています。日本はこの流れに遅れを取っている印象です」と福田は解説する。

こうした国際的な目録規則を設計する際のベースとなっているのが、「書誌レコードの機能要件:FRBR(Functional Requirements for Bibliographic Records)」と呼ばれる概念だ。福田はゲームの目録作業にこのFRBRモデルを適用できるか、可能性を検討している。「FRBRでは “Work(著作)” “Expression(表現形)” “Manifestation(体現形)” “Item(個別資料)” の4つの主要な書誌的実体が示されているが、ゲームの場合、限定的にしかこれらを適用できない」としながらも「FRBRに近いモデルでゲームのデータモデルを作ることは可能」と見る。国際標準の目録規則に準拠したゲームデータベースができればグローバルに利活用が広がる上、海外の所蔵機関との連携も容易になる。

さらに福田は目録を対象とした応用研究も行っている。その一つに約3万件の家庭用ゲームのタイトルの文字数・文字種を時系列に追った研究がある。「任天堂のファミリーコンピュータが発売された80年代はカタカナタイトルが主流でしたが、90年以降はカタカナに代わってアルファベットのタイトルが急増します」と福田。一方で文字数は総じて増加傾向にあったが、2004年にニンテンドーDSが発売されるとゲームデザインが変化し「マジック大全」などのシンプルなタイトルが増えはじめた。「ロールプレイングゲームなどと対照的な単純なゲームの流行が生じ、タイトルも短くなった」と福田は考察する。さらには歴史もののゲームは漢字の割合が大きいなどゲームメーカーの戦略や個性によって文字種割合が変わることも明らかにしている。

「目録を対象とした研究蓄積はまだこれから」と福田はさらなる研究に意欲を見せた。

メディア芸術データベース

福田が立命館大学ゲーム研究センター(RCGS)の一員として取り組む文化庁メディア芸術デジタルアーカイブ事業のゲームのデータベース。

文化庁メディア芸術データベース(開発版)
メディア芸術データベース
金子 貴昭/鈴木 桂子/福田 一史

金子 貴昭[写真左]
衣笠総合研究機構 准教授
研究テーマ:板木を基礎資料とする板本書誌学および近世出版研究
専門分野:近世出版史、板木、板本書誌学、デジタルアーカイブ学

storage研究者データベース

鈴木 桂子[写真中央]
衣笠総合研究機構 教授
研究テーマ:江戸から明治初期にかけての浮世絵における他者の視覚化、物質文化・視覚文化に視る異文化交流・異文化理解
専門分野:文化人類学、歴史人類学、象徴人類学、視覚文化研究、日本近世文化史、美術史、博物館学、表象論、物質文化

storage研究者データベース

福田 一史[写真右]
衣笠総合研究機構 専門研究員
研究テーマ:ビデオゲームDBのための概念モデル構築・ゲーム産業史におけるイノベーションの変遷
専門分野:イノベーション、ゲーム開発、ゲームアーカイブ、STS

2018年1月9日更新