実力差を超えて「勝つ」チームに見る
監督と選手の関係
弱小チームがひたむきなプレーとチームワークで強豪チームを打ち負かし、あれよあれよという間にトーナメントを勝ち上がっていく。実力では圧倒的に不利な立場にありながら格上の相手を負かす「奇跡のような快進撃」を目にして胸のすく思いをしたことはないだろうか。
「ことチームスポーツに関しては、技能や運動能力以外の要素がチームの競技力に大きな影響を及ぼします」。山浦一保は実力差だけで勝負が決まらない理由をこう説明する。企業組織やチームスポーツにおける人間関係やリーダーシップを研究する山浦は、監督やコーチといったリーダーと選手であるフォロワーとの関係に注目し、どうすれば「勝つチーム」がつくられるのかを調査・研究している。
企業組織とスポーツチームは「組織」という点では同じであり、活性化のメカニズムにも多くの共通点がある。企業組織を対象にした山浦の研究で興味深いのが、上司の「ほめ方」「叱り方」が組織の改善に寄与するというものだ。
山浦は企業へのアンケート調査などから、「ほめること」がポジティブな効果をもたらすには上司と部下、リーダーとフォロワーの間に「信頼関係」が必要なことを明らかにした。「ほめる、叱るという行為以前に重要なのはその根底に信頼関係があるか否か。信頼関係がないとほめ言葉が相手の心に届かなかいばかりか逆効果になる場合があります」と山浦は言う。またほめる場合には、「ほめどころ」が重要だとも語る。
「上司が部下の努力したところをちゃんと見てそのプロセスをほめることがポジティブな効果につながります」。部下の仕事ぶりを知らなければ努力のプロセスをほめることはできない。山浦が研修を行ったある企業では、情報を共有するために業務や社員育成の記録システムの積極的な活用が促されたという。
その結果、互いの仕事への理解が深まることで上司は部下を自然にほめられるようになったばかりかコミュニケーションが活発になり、職場の雰囲気が良くなるという効果ももたらされた。一方で山浦は、互いに対するネガティブで辛辣な言動が信頼関係の崩壊を招くことも調査によって確かめている。
こうした企業組織のリーダーとフォロワーの関係はスポーツチームでもよく見られる。山浦は複数の大学・高校のアメリカンフットボールチーム、ラグビーチームを対象に調査を実施。監督・コーチなどの指導者と選手にアンケート調査を行う他、練習や試合を観察し、1年にわたってスポーツチームの組織づくりを追いかけてきた。
「『いいチームだな』と感じるチームでは企業組織の場合と同様監督やコーチが積極的に選手たちに声をかけ、ほめることはもちろんコミュニケーションを欠かしません」と調査の印象を語った山浦。監督やコーチが選手に歩み寄るチームでは選手たちにも指導者を尊敬、信頼する様子が見られる。こうした関係を築くことができれば、時に厳しい指導を受けたとしても選手たちはそれを素直に受け入れられるという。
また研究を続ける中で山浦の目を引いたのは、選手のモチベーション向上に「補欠選手」たちが大きな役割を果たしていることだ。選手数の多い強豪チームには、試合に出られないどころか練習もレギュラー選手と一緒にできない補欠選手が数多くいる。レギュラー選手がモチベーションを高く保ち熱心に練習するのは当然だが「補欠選手たちがいかにチームにコミットしているかもチームの強さに影響を及ぼしているようだ」と山浦は見る。自分自身は試合に出られなくてもレギュラー選手たちと同じ目標とモチベーションを持ち、レギュラー選手たちを積極的に応援・サポートするチームは強くなるという。「キャプテンなどのフォーマルなリーダーだけでなく、『レギュラー選手たちのために支えよう』などと縁の下で補欠選手たちを鼓舞するようなインフォーマルなリーダーの存在が、チームスポーツには必要なのかもしれません」と山浦は分析する。
「スポーツチームでも企業でも上司や監督といったリーダーに強要されるのではなく、フォロワー自身が自分たちで目標を定め、何をすべきかを主体的に考えなければ成長しない」と語る山浦。「監督・コーチと良好なコミュニケーションを取りつつも自分たちで考え、ゲームメイクを楽しんでいるチームは、いずれきっと強くなります。それを実証し、チームづくりやその要となるリーダーのあり方、リーダーとフォロワーのより良き関係を示していきたい」と結んだ。