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適切な身体の動かし方と鍛えるべき筋 動作解析から第二の大谷翔平選手を育てる

堀内 元HORIUCHI Gen

スポーツ健康科学部 助教
研究テーマ

1. 野球のバッティングにおけるバットのスイングスピードの大きさに関連する要因の解明
2. 野球のバッティングにおけるバットコントロールの幾何学的定量化

専門分野

スポーツ科学

スポーツを研究しようと思ったきっかけを教えてください。

堀内:高校まで野球をやっていて、一時はプロ野球選手になりたいと真剣に思っていました。また幼いころから職人気質な仕事、たとえば料理人や大工など匠の技を求められる職業にも憧れていて、イチロー選手(当時、シアトルマリナーズ)のグローブを作る職人を特集したテレビ番組に感化されました。元々、野球をやっていたこともあり、スポーツ用具を作る職人に憧れたりもしました。一方で中学の国語の先生の「これからは科学がスポーツにも入ってくるのでは?」という言葉も強く印象に残り、スポーツ科学に興味を持つようになりました。スポーツ科学を学べる大学へ進学し、様々な職業に興味が移りながらも大学院の修士課程を修了後、某スポーツメーカーへ就職しました。しかし、野球のバッティングに関する研究に未練があったため、退職して大学院の博士課程に入り直して学位を取得しました。研究テーマは卒業論文からずっと「野球のバッティング動作」についてです。

野球のバッティング動作の研究から何がわかったのでしょうか。

堀内:私の専門はスポーツバイオメカニクス、身体の動きを力学的に分析し、パフォーマンスの向上やケガの予防などに役立てる学問領域です。その中でも取り組んできたのが、スイングスピードを大きくするための技術や力の発揮、体力などを解明する研究です。モーションキャプチャーでバッティング動作を記録し、さらにフォースプレートという機器を使って両足で地面を蹴る力を測定しました。その結果、スイングスピードを増大させるためには両足で地面を蹴る力の大きさと向きが重要であると分かりました。また、バットに伝えられるエネルギーの多くは、左右の股関節で生み出されることも明らかになりました。そのため、スイングスピードを大きくするためには、お尻周り・腰周りの筋肉が重要です。逆説的に言うと、ホームランバッターと言われる選手の多くが下半身が大きいのは、そのためだと考えられます。

強打者ほど腹斜筋を痛める傾向があるようですが、その理由は何でしょうか。

堀内:以前からプロ野球ニュースを見ていて、大谷選手のようなホームランバッターほど腹斜筋(体幹の両側面にある筋)の肉離れを起こしやすいような気がしていました。実際、大谷選手も2023年の練習中に右脇腹を痛めています。バッティング動作で生じる腹斜筋の肉離れは、そのほとんどがピッチャー側にみられます。怪我をする場所が共通しているのなら、怪我をするメカニズムにも何か共通点があるのではないかと考え、調べてみました。

バッティング動作に関する先行研究の中に、バットとボールがインパクトした後のフォロースルー局面において、体幹の回転を止めるため大きな力が腰部や腹部に作用している可能性を示す報告がありました。しかし、バッティング動作に関する研究のほとんどがバットとボールがインパクトする前のバットスイング局面に注目していて、フォロースルー局面で体幹部に作用している力については明らかになっていませんでした。そこで、大学野球選手のバッティング動作を分析し、腹斜筋肉離れの受傷メカニズムの解明に取り組みました。その結果、バッティングのフォロースルー局面では、投手側の腹斜筋が肉離れを生じやすい伸張性収縮の状態にあると分かりました。加えて、ボールインパクト後のスイングスピードが大きいほど、腹斜筋が収縮する力とパワーも大きいと考えられる結果が得られました。筋の伸張性収縮とは、筋が収縮しようと力を発揮しているのに、外力によって無理やり引き伸ばされる状態です。得られた結果から考えると、次のような受傷メカニズムの機序を推察できます。フルスイングして空振りすると、大きなスピードで回転するバットを自分で止めなければなりません。その際に体幹が過度に捻じられることを防ぐため、ピッチャー側の腹斜筋は収縮しようとします。しかし、バットの回転によって体幹はそのままスイング方向へ回転してしまいます。このときピッチャー側の腹斜筋が無理やり引き伸ばされるために肉離れが生じる、と考えています。

プロ野球選手にもアドバイスする研究内容、今後の方向性をどう考えていますか。

堀内:次に取り組んでいるテーマが、バットコントロールの研究です。バットコントロールに求められる能力は二つに分けられます。一つは投げられたボールに対して適切にタイミングを合わせる能力、もう一つはバットを正確に操作する能力です。両方を同時に考えることは難しいので、まずバットの操作能力について研究する予定です。

ティーバッティングでボールの中心をバットの芯で複数回打つように指示したとしても、バットの芯とボールの中心位置には必ずズレが生じます。このズレを幾何学的に定量化し、バットコントロールという漠然としたパフォーマンス指標の具体化を考えています。今年度から科研費の助成を受けて「野球のバッティングにおけるバットコントロールの幾何学的定量化」をテーマに研究を進めています。2025年シーズンまで千葉ロッテマリーンズのアドバイザーを務めていましたが、スポーツ科学に基づいた知見を活かして第二の大谷選手の育成に携わりたい!―そんな夢を持っています。