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姿勢に着目し、身体と心の関係を明らかにする

福市 彩乃FUKUICHI Ayano

OIC総合研究機構 専門研究員
研究テーマ

姿勢や動作を含む広い「身体」が認知的側面に及ぼす影響

専門分野

実験心理学、認知心理学、教育工学

研究テーマと、その研究を始めたきっかけを教えてください。

福市:私の研究テーマは、身体と心の関係を明らかにすることです。私の学生時代の指導教員である関西大学の菅村玄二教授が専門とする「身体心理学」の流れを受けて、姿勢に注目した研究を行っています。研究アプローチとしては実験心理学的手法を用いています。

姿勢に着目するようになったきっかけは、卒業研究で「授業中の眠気を正座の姿勢で防ぐことができるか」をテーマにしたことです。この研究を思いついたのは、私自身が授業中によく眠くなって困っていたからです。私は剣道部だったこともあり、正座は身近な姿勢でした。剣道部の師範から正座をすれば心が引き締まり、頭も冴えるというような話を聞いていましたが、それは経験的な話であって、実証されているわけではありません。

眠気対策といえば、コーヒーを飲んだり冷たい水で顔を洗ったりということが考えられますが、これらは必ずしも授業中に許容されている行為ではありません。しかし、正座であれば身一つで行えます。そこで、大学生に協力してもらい実験検証を行いました。その結果、パイプ椅子の上に5分間正座をすることで、肉体的・精神的疲労度を増加させることなく眠気を抑制することがわかりました。

正座の研究で工夫した点はどういうところですか?

福市:正座の時間を短くし、実験協力者の負担を軽減しました。また、最初は実験室環境で測定を行いましたが、「授業中の眠気」を対象とした研究であるため、最終的には授業環境を用意して実験を行いました。

授業中の眠気を緩和する研究は、これまでほとんど行われていません。私が参考にした先行研究も、眠気をテーマにはしていましたが、実験室環境に限られており、教育的な文脈では検討されていませんでした。しかし実際には、授業中に眠くなることは全国の学生が抱えている共通の悩みです。こんなに多くの人が困っているのに、なぜ授業環境での研究が行われていないのか、疑問に感じていました。現場の問題意識と研究のテーマ設定にずれがあると考えたのです。

私は、研究は現状を見据え、困っていることを解決する方向で取り組みたいと考えています。授業中の眠気というのも大きな社会的課題の一つであり、眠気を個人の問題と捉えるのではなく、科学的な解決方法を模索していくことは意義があると思っています。

正座以外の姿勢についても研究をされていますか?

福市:他の研究では、マインドフルネス瞑想における姿勢の重要性を科学的に実証しました。マインドフルネス瞑想はADHD(注意欠如・多動症)の症状を緩和する効果が報告されていますが、ADHD傾向のある人にとっては、じっと座って瞑想するという行為自体が困難であることも指摘されています。そこで、瞑想実施時の身体の姿勢を工夫することで、ADHD傾向の高い人でも行いやすい実践となるかを実験的に検討しました。

実験の結果、仰臥位(ぎょうがい)、つまり仰向けの姿勢がADHD傾向の高い人にとって実践しやすい姿勢であることがわかりました。ADHD傾向の改善に関しては、従来であれば薬物療法などが主な選択肢とされてきました。しかし、姿勢に着目することで、マインドフルネス瞑想が薬に頼らず身一つで実践できる簡便な方法として、心身の健康を増進できる可能性が見えてきました。

研究のどのような点に魅力を感じていますか?

福市:経験的に語られてきたことを、科学的に実証することに面白さを感じています。例えば、マインドフルネス瞑想では姿勢が大事であると多くの論文で指摘されていますが、望ましい姿勢とそうでない姿勢を比較し、その効果を実証した研究はほとんどありません。正座についても同様で「正座をすると気持ちが引き締まる」や「頭が冴える」といったことは経験的に語られてきましたが、科学的な裏付けは乏しいのが現状です。実際に自分の研究で実証し、知りたいことに答えを得られたのは大きな喜びでした。

また、私は東洋思想にも強い関心を持っています。これらは長らく東洋文化の中にとどまってきましたが、西洋では十分に知られていません。全体の調和を重視する東洋の考え方は、現代科学とも矛盾するものではなく、むしろ補完しあえる部分があります。そうした思想を科学的に説明することができれば、新たな価値を生み出せるのではないでしょうか。

さらに、経験則や東洋の文化に根差した知恵を、現代の心理学の視点から検証し、それらがどのように繋がり得るのかを探ることにも魅力を感じています。心理学はもともと西洋で発展した学問ですが、東洋文化との親和性をどこまで見出せるかを検討することは大きな意義があります。そのためには、経験と科学を架橋するような実験を積み重ねていくことが重要だと考えています。

今後は、時間や空間の捉え方と身体の関係を研究していきたいです。バーチャルリアリティ技術の発展によって、身体を持たなくてもよいのではないかという風潮すら見受けられるようになりました。しかし、私たちが生身の身体を持っている意義を忘れてはならないと思います。