コンゴの物流研究に興味を持ったきっかけを教えてください。
高村:修士課程のとき、当時の指導教員に頼まれてコンゴでの小学校建築を手伝い、それがきっかけとなり現地の大学に日本語教師として出向きました。その後、2年ほど教えている間に一度、作家の田中真知さんに誘われてコンゴ川下りの旅に出ました。現地語を話せる私は通訳兼ガイドのような役割でしたが、川を下っている間に自分の先入観を覆すような気づきがたくさんありました。
生存さえ困難なほどの最貧国といわれていたのに、実態は違う。たしかに豊かではないけれど、決して貧しくはないのです。何より、コンゴの人たちに強い魅力を感じました。最初こそ私を「モンデレ(現地語で白人)」と呼んで距離を取っていたのが、一度仲間と認めれば、途方もなく優しくしてくれる。彼らにとっての「身内」の範囲は、私が日本で抱いていた感覚よりずっと広いと感じました。実際、現地の友人たちは、コロナ禍やエボラ出血熱の流行といった緊迫した局面でも全力で守ってくれています。こうしたフィールド経験を通して、人々の助け合いが暮らしを支えているのではないかと考えるようになりました。
国は長年の紛争によって深刻な状況にあるけれども、コンゴの人たちは独自のやり方で社会を成り立たせています。その理由を知りたいと思ったのです。
そもそもコンゴは本当に「貧しい国」なのでしょうか。
高村:京都大学の博士課程に進んでからは、毎年コンゴに足を運ぶようになりました。最貧国でモノなどないといわれていますが、それは大きな誤解です。農産物は豊富にあり、多くの人が川を物流ルートとして活用し暮らしを営んでいます。にもかかわらず、なぜ国として豊かにならないのか。この疑問を明らかにしたいと思い、物流の研究に本腰を入れました。
幸い、先生も長年コンゴの研究に携わっていたので、「好きなようにやればいい、ただし無事に帰ってくるように」と送り出してくれました。当初は、研究に取り組みながら物流の改善につながるモデルを一つでも提案できればと考えていました。現地の人たちにとって有益なものなら、自然に広まっていくはずだと思っていたのです。
ところが、現地を見てまわるうちに、この考えは少しずつ変わっていきました。実際、コンゴでは川を利用した物流の仕組みが機能しており、人々はさまざまな工夫を重ねながら暮らしを成り立たせています。見えてきたのは、物流を支えているのがモノやインフラそのものではなく、人と人とのつながりや日々の実践だということでした。一連の観察を通じて私の関心は、人々がどのように協力関係を築き、それを維持しながら物流や社会を成り立たせているのかという問いへと移っていきました。
コンゴで見えてきた、効率だけでは測れない価値とはなんでしょうか。
高村:紛争後の社会が抱えていた問題は、橋や道路などインフラの荒廃でした。紛争により国家が崩壊したコンゴでは、行政主導によるインフラ復旧はほとんど期待できません。村人たちは農産物を売って現金収入を得るため、川沿いの定期市を目指して時に数百キロもの距離を歩かなければなりません。一見すると非効率に見えますが、現地の人々は途方もないエネルギーを注ぎながら新たな解決策を生み出しています。
自ら橋の再建に取り組む人たちと出会ったときには、私もチェーンソーを手配するなど、できる限りの協力をしました。日本であれば入念な計画と準備を重ねて進める取り組みですが、現地では人々が知恵を出し合い、その都度やり方を修正しながら進めていきました。その結果、彼らは20メートルの木橋を50日ほどで完成させました。もちろん、途中で失敗や遠回りもありました。ただ、そうした試行錯誤のなかで村の枠をこえた協力関係が広がり、新たな知恵や工夫が生まれていきました。効率だけを追い求めるのではなく、不確実な状況のなかで互いに協力しながら柔軟に対応していく、そんな実践がコンゴでは社会を支える力になっていました。
コンゴの研究の方向性と展望を教えてください。
高村:橋をつくる過程で強く感じたのが、私自身もとらわれている計画重視の考え方と、コンゴの人たちの考え方の違いです。彼らはまず動いてみる。そして状況に応じて試行錯誤を重ねながら不確かな未来と折り合いをつけていく。結果的には、そのやり方が橋の完成につながりました。少し視点を引いて考えると、私たちが慣れ親しんでいるやり方は、先行きをある程度見通せる社会でだけ通用するものです。一方、コンゴのように状況が絶えず変化する環境では、最初から正解を見つけることはできません。人々は動きながら学び、修正を重ねながら前に突き進んでいくしかないんです。
たしかに、彼らのやり方にはムダも少なくありません。しかし私は、多産多死ともいえるトライアンドエラーの中からこそ、新しい発想や技術が生まれるのではないかと考えています。実際、コンゴの河川物流では、この20年ほどの間にイノベーションが連続して起きています。興味深いのは、知恵や工夫が特定の個人に独占されないことです。よい方法が見つかれば多くの人が取り入れ、それぞれの現場で応用していく。こうした知識の共有や人々が協力し合う関係性そのものに光を当てる必要があると感じています。
不確実性が高まる現代だからこそ、これからの日本社会を考えるヒントがコンゴにある。今後は、国家だけに依存するのではなく、人々の結びつきや創意工夫によって支えられる多様な社会のあり方について考えていきたいと思っています。