2011年12月5日更新

大震災後の2次被害、「アスベスト」への警鐘

森 裕之
立命館大学政策科学部教授
森 裕之(立命館大学政策科学部教授)
博士(政策科学)。1967年大阪府生まれ。1990年大阪市立大学商学部卒業。1993年同大学大学院経営学研究科博士課程後期課程中退後、高知大学助手・講師、大阪教育大学専任講師・助教授を経て、2003年から立命館大学。2009年から現職。地方財政論、財政学、都市経済論などの研究に取り組んできた。2009年に第9回日本地方財政学佐藤賞(著作の部)を受賞。「被災地との往復と研究活動で忙しく、今は土曜も日曜もないですね」
防災

環境省の推計(2011年11月1日)によれば、東日本大震災で発生したガレキは 約2273万トン、阪神・淡路大震災の1.5倍以上という。このうち家屋などの解体分を除いた90%が仮置き場に集積され、東京都がその一部を受け入れるなど本格的な処理が始まった。だが、放射能汚染の陰に隠れている大きな問題がある。

髪の毛の5000万分の1ほどの細さで目には見えないが、それを吸い込むと深刻な健康被害をもたらすアスベスト(石綿)だ。この問題に取り組んできた森裕之は、震災から僅か10日後の3月21日に政府・各自治体・報道機関に向けて「震災アスベスト緊急対策について」(立命館大学アスベスト研究プロジェクト)という提言を行なっている。

「今ではガレキの集積場が最も危険で、破れた石綿などが風で飛散します。その処理はさらに危険なので専用の防護マスク等の使用が必要。現地に残された鉄骨などにも吹き付けられているほか、打ち上げられた船舶にも使用されています」

このアスベストは2006年から労働安全衛生法によって全面禁止されたが、それまでは断熱材などに幅広く大量に使われており、「史上最悪の産業公害」といわれる。しかも、中皮腫などの健康被害は発病までに15年以上と潜伏期間が長い。放射性物質に加えて、震災後の2次被害に発展する可能性が極めて高いのである。

「1995年の阪神・淡路大震災では対策が不十分だったため、すでにガレキ撤去に関わった労働者に健康被害が出始めています。これを繰り返さないために実態調査を開始していますが、被災地があまりにも広域なので、全体状況はまだ分かっていません。しかし、早急に有効な対策を打ち出していかないと間に合わない喫緊の課題なのです」

ガレキ仮置き場のすぐ近くに学校があったり、その近隣に仮設住宅が建築されたケースもあるというから、住民は日常的な注意が必要だ。

「予防のための法律やマニュアルはあっても、平時が前提で現場も分かっていない。結局は『自己責任』にされてしまうでしょう。私は経済学や法学などの社会科学と自然科学を融合させながら現実的な被害予防対策を追究していきます。石巻、仙台、大船渡にエリアを絞り、現地の医療機関とも連携して現在調査を進めていますが、その結果をアジア諸国にも発信できれば、新たな被害の予防にも貢献できるはずです」

AERA 2011年12月5日発売号掲載 (朝日新聞出版)

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