2012年1月7日更新

より安全で清潔な社会を実現する「紫外線」の効用

神子 直之
立命館大学理工学部教授
神子 直之(立命館大学理工学部教授)
工学博士。1963年東京生まれ。1987年東京大学工学部卒業。1992年同大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士後期課程修了。同大学助手を経て、横浜国立大学講師。1997年から茨城大学助教授。2007年から現職。水処理を専門分野として、紫外線の殺菌・消毒効果などを研究してきた。いわば「水のエキスパート」だが、大学時代からジャズ・ピアノを演奏。月に1度は東京・表参道のライブハウスに出演している。「学生時代の先輩から誘われてメンバーに。ノーギャラですが楽しく弾かせてもらってます」
防災安全

東日本大震災は地震と津波で生活インフラを一瞬にして破壊した。中でも上下水の処理施設が損傷すれば、悪臭はもちろん、様々な感染症の温床にもなりかねない。こうした汚水の緊急浄化に取り組んでいるのが神子直之だ。

「9月中旬に5泊6日で東北の被災地を視察しましたが、やはり下水処理場が大きな打撃を受けていましたね。貯水槽は残ったので、塩素を大量投入して殺菌するという施設もありましたが、汚水にアンモニアが残留しているとウイルスの不活化が極端に抑えられる恐れがあります」

この水質浄化で神子が注目しているのは紫外線の効果であり、すでに一部の上下水道で実用化されているという。

「水道水で発ガン物質のトリハロメタンが検出されて問題になったことがあります。この時に、従来の塩素にかわる浄化方法として紫外線の研究が始まったのです」

具体的には、この紫外線ランプを数十本単位でまとめて水路に差し込んでおけば、流量にもよるが、緊急浄化が可能になるわけだ。

「すでに東京都では下水処理施設の災害時復旧の手法の1つとして、水の消毒に紫外線の適用を検討しているほか、国土交通省でも使用を検討しています。ただし、効果があることは分かっていても、詳細な検証はなされていません。そこで石巻から下水を持ち帰って、波長の異なる紫外線を当てて分析しているところです」

ある波長の紫外線は微生物の遺伝子を損傷するため殺菌効果があるのだが、神子によれば、紫外線に近い可視光を当てると、この遺伝子が再び自然修復されて微生物が生き返るというから興味深い。

人間でも紫外線を過度に浴びればシミの原因や皮膚ガンを発症させるが、適度なら血行や新陳代謝を促進させるのと似ているかもしれない。

「つまり、波長が異なるだけで効果が違ってくるのです。この紫外線をうまく使いこなせれば、より安全で清潔な社会を実現できると思います。紫外線だけにとどまらずすべての環境浄化プロセスは、どんなに処理してもごく微量の有害物が、安全とわかっているレベルで検出されてしまいます。微量でも有害なのかを社会的に判断できるようになるために、環境教育が必要なのではないかと思っています。

AERA 2012年1月7日発売号掲載 (朝日新聞出版)

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