立命館大学
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+Rな人 Special Seishi Inagaki/Professional Baton Twirler, Performing at Cirque de Soleil “ZED”

稲垣正司さん(1996年産業社会学部卒業)シルク・ドゥ・ソレイユ「ZED」のプロバトントワラー

Episode #1 「バトントワリング」を知ってもらいたい

6歳の時に姉が習っていたバトントワリングに興味を持ち、そこからスクールに通って、練習を重ねてきました。立命館大学に入学後、その経験を活かそうと思いましたが、当初はバトントワリングの部活もサークルもありませんでした。普段はスクールの方に通っていたこともあり、バトンに興味のある仲間たちと、息抜き程度に楽しめるようなサークルを立ち上げました。その頃は屋外で週1回ほど、練習をしていましたね。部員も10人ほどでした。しかし、続けているうちに、もっと多くの人にバトントワリングを知ってもらいたいと思い、学園祭で飛び入り公演を行いました。結果は大成功!

その時に今まで感じたことのなかった「自分たちで一から作り上げてきたものが、一つの形を成すこと」への達成感を得ました。またバトンをしたいと思って入学してくる後輩にチャンスをあげたい気持ちから、サークルを立ち上げてから3年目。ようやくバトン連盟に登録し、大会などにも出場するようになりました。

その後、メディアに私自身、取材していただく機会もあり、バトントワリングのことを多くの方に知ってもらえるようになりました。その頃には、学内の体育館を使って練習できるまでになり、練習も週3~4回に増やして本格的に活動していましたね。


Episode #2 パフォーマーとして続けていく難しさ

大学卒業後は、フリーとして各地を回って仕事をしながら、大学の後輩の指導に力を入れていました。そんな時、もともと興味のあった「シルク・ドゥ・ソレイユ」が東京に専用の劇場をオープンさせる事を知りました。また、そのショーのために、男性バトントワラーを採用するという情報も得て、これはバトンをより多くの人に知ってもらえる絶好の機会だと思い、自分の演技ビデオをシルク・ドゥ・ソレイユへ送りました。 2006年の冬、カナダのモントリオールで行われたオーディションに呼ばれ、結果、見事合格をいただき、2008年8月の「ZED」オープンからパフォーマーの一員として演技をしています。

最初は、シルク・ドゥ・ソレイユの中に、バトントワリングを専門的に分かる人がいなかったため、バトントワリングとは何か?というところから、技術の基礎知識に至るまでを、ショーの制作者に伝えていくところから始まりました。これにはとても苦労しました。
彼らが思っていたほど、バトンの技術と身体の動きを組み合わせることは、容易ではなかったのです。でも、学生時代に学んだ経験が「人に伝える力」を自然と養ってくれていたので、それらをうまくショーの制作者に伝える事ができたのだと思います。

ZEDのショーは週7~8回、多い時には10回にもなります。約1時間半のショーを1日2回公演する時もありますね。今までに950回ほど出演しています。代役がいないため、ノロウィルスにかかった時も舞台に立ちましたしね(笑)。
私が日々の生活の中で、気をつけていることがいくつかあります。 まずは健康管理。普段はショーがほぼ毎日あり、休日は関西で後輩やスクールの指導を行っているので、常に健康に気を使うように心掛けています。 あとはタイミングも大切。普段の生活リズムやショーの合間に共演者とすれ違うタイミングなど、同じことをやりつづけるのが、クオリティーを保つ秘訣ですね。
でも、これだけ多くの公演をこなしていると様々なハプニングもあります。 ハプニングが起きないにこしたことはありませんが、万が一、起きても、臨機応変に対処をして、できる限り、ショーの流れが途切れないようつなげていくのも、ZEDのアーティストとしての役目です。日々のショーで毎回違ったことを学んでいます。


Episode #3 パフォーマーとして、指導者としてできることを

バトントワリングの魅力は、自分の身体とバトンという一本の棒を使って様々な表現ができることですね。例えば、バトンを回しながら、様々な直線や曲線を描いたり、強弱をつけて操ることで心の喜怒哀楽を表現することができます。自分がバトンと一体になることで感情や動きの芸術性を生み出せることが大きな魅力だと思います。

今も、ZEDの出演と後輩の指導をメインにしていますが、それぞれの取り組みに対しての意識は全然違います。ショーでは、自分がこれまで積み上げてきたものを、1人のアーティストとして演技し、夢の舞台で多くの人に見てもらえる嬉しさを感じますね。
後輩指導では、演技指導以外に選曲から、演技の構成や振り付けも行うので、制作者として後輩たちの夢の実現に協力できることにやりがいを感じています。


Episode #4 続けていくことの大切さ

これからの目標は、「今、続けていることを、長く続けていくこと」。 ZEDのアーティストとして、日々の健康に気をつけ1日1日のショーを大切にしながら続けていく。指導者としても、学生たちに大学生活という短い4年間をバトンと共に充実して過ごしてもらえるように熱心に教え続けていく。
ZEDは毎回出ていても慣れることはなく、バトンを指導していても、学生たちがバトントワラーとして成熟してきた頃に卒業していき、そういう意味では、どちらにも共通点を感じますね。

在学生のみなさんには、自分の目の前にあることに一生懸命になって取り組んでもらいたいです。自分が本気になって取り組んだことは、たとえその時に結果が出なくても、後にどこかで必ず活きてくるもの。
その姿を周りの人は必ず見ていますし、本気だとわかれば、自分を助けてくれる人も出てきます。一度しかない人生、夢に向かって、今できることに挑戦してもらいたいですね。


最後に…
いつも稲垣さんと関わっておられるバトントワリング部のみなさんに向けてメッセージをいただきました。

きっとみんなはバトンが好きだから、立命館に入ってきたのだと思い ます。練習をしていると、時には、バトンの楽しさや充実した時間を考えられなくなるほど、辛く苦しい時もあるかもしれません。でも、これだけバトンに時間をかけられるのも、今のこの学生生活の間だけ。 1人の人間として、社会の人間として活躍していくために、頑張ってください。みんなが頑張っているのが、僕自身の励みにもなります。

取材日:2010年10月15日