大瀧 正子

「ブラジルへの思いを研究に - 将来世代を見据えた環境経済の展開」

大瀧 正子

大瀧 正子

大瀧さんは、父の赴任先であるブラジルのサンパウロ市で生まれ育った帰国子女である。16歳のときに、日本に帰国した。2000年に、10年ぶりに空から見たアマゾンの熱帯雨林の変わり果てた光景に愕然とした。ブラジルのアマゾナス州マナウス空港へ向かう飛行機の窓から雲間からみえた広大な熱帯雨林は、経済開発によって、赤土でおおわれた自動車道路と牧場地・農地へと姿を変えていた。脱貧困の証だと信じてきたアマゾンの熱帯雨林の減少が、20世紀最後の10年間に、地域、国境を越えて、温暖化等の地球的規模の環境問題にまで発展していることを痛感した瞬間でもあったと、当時の光景が環境経済学研究の出発点となったと振り返る。

大学法学部を卒業するとき、ブラジルに戻って弁護士になる勉強をするのか、大学院に進学し環境問題の研究をするのか、自身のキャリアを考える転機を迎えた。大瀧さんは後者を選んだ。本学大学院に入学して、学部生と院生では研究の土台が違うことを痛感した。そこで、大学院博士課程前期課程1回生では、まず理論を学ぶことから始めた。たとえば、夏季集中講義では英語を通じて、経済学、哲学、環境思想、分析手法など学際的な学問体系を習得し、反面、環境経済学の分析手法の限界も知った。博士課程後期課程2回生および3回生のとき、本学大学院博士課程後期課程国際的研究活動促進研究費を活用し、アマゾナス州マナウス市郊外でフィールワークを行った。1回目の渡航では、サンパウロ大学農学部教授の下で、アマゾンの熱帯雨林資源の伐採と、土地利用の調査に関する資料収集を行った。2回目は、ブラジル北西部のアマゾナス州に行き、国立アマゾナス研究所で生物学、植物学を学び、農民による土地利用の聞取り調査を行った。滞在中、REDD「森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減」(Reducing Emissions from Deforestation and Degradation)の国際シンポジウムにも参加し、中南米の森林伐採の緩和に関する成功事例を聞いた。「近年、熱帯雨林の伐採面積は減少傾向にあるが、誰が、何のために土地利用の形態を転換しているのか、森林資源の経済的価値付けが明らかにされてきませんでした。また、森林伐採活動に伴う地球環境問題の深刻化によって、先進国・途上国の所得の不平等化が見過ごされています。そのため、私の研究では、現在から将来までを射程に入れた『持続可能性』を焦点としています。」直接、現地に行ってみないとわからないことは沢山ある。今後も、フィールドワークでの成果を日本での学会報告や論文を通じて、ブラジルの事情を発信していきたいと思っている。

現在、大瀧さんは本学国際関係学部で非常勤講師として、「情報処理」を担当している。学生に教える立場になって、「学生の成長を間近で感じることができて、とても楽しい」という。将来は、大学教員、あるいは研究所や企業の研究員として環境や経済関係の研究にかかわり、社会に貢献したいと思っている。就職先を決めるには、ネットワークが大切。そのために大瀧さんは大学院博士課程前期課程1回生のときから学会に参加している。報告者と名刺交換し、そのあとで昼食を一緒にしたり、メールを送ったり、研究会を企画したり。自分から積極的に若手研究者にアプローチをし、交流を深めている。

もちろん、学内の国際シンポジウムにも参加している。「自分の研究とピンポイントに合うシンポジウムはなかなか見つかりません。しかし、自分の研究の周辺領域を知ることも知見を広げるうえで大変意義があります。本学では、多くの国際シンポジウムが企画されています。研究に追われて大変でしょうが、時間を調整して、学内のシンポジウムにも参加して欲しいです。」大瀧さんの本来の好奇心とフットワークの良さが、研究の裾野を広げる源になっている。

大瀧さんから院生の皆さんに対し、次のようなアドバイスをいただいた。「まず、『語学と海外研究』。海外フィールドは時間が確保できる院生のときに是非行ってきてください。大学の支援制度を利用して、研究の基盤を海外へも広げ、グローバルな研究へと展開して欲しいです。そして、『ネットワーク』。学会へは積極的に参加し、新しい知見を得ることはもちろんですが、若手研究者とのネットワークを作るようにしましょう。最後に、『研究のマネジメント』。たとえば、一つの論文を投稿するまでのスケジュールとして、資料収集、執筆、要旨の作成、学会報告などが考えられます。自分の研究を管理することは、研究に発展性を持たせることでもあります。なぜなら、論文は書くだけではなく、書く前に準備すべきことが沢山あります。これらを確実にこなせるよう、自己管理することが大切です。」

「博士学位取得は、研究に対する責任を担うことでもあります。一人の研究者として、社会に貢献できる研究をしたい。地球環境問題は、たんに現在の世代に被害を与えるだけでなく、遠い将来の世代に対しても取り返しのつかないかたちで被害を与え続ける、人類共通の課題です。一層研究に励み、地球環境問題の解決、さらに貧困の撲滅と持続可能な発展に寄与する研究を発信していきたい。」夢や希望に満ちて大瀧さんの目が輝いて見えた。
  • 2011年5月17日(水) 10:00~12:00 衣笠キャンパス学而館第1研究会室
  • 聞き手・文:櫻井浩子

プロフィール

2007年3月 本学大学院国際関係研究科国際関係学専攻博士課程前期課程修了
2011年3月 本学大学院国際関係研究科国際関係学専攻博士課程後期課程修了、博士(国際関係学)
2011年4月~ 本学国際関係学部非常勤講師

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