諏訪 正樹

「後期課程で学んだスキルを活かして、自分のやりたいことを実現してほしい」

諏訪 正樹

諏訪 正樹

諏訪さんは、杉本末雄先生の下でシステム制御や信号・画像処理の研究をされ、1997年3月に本学理工学研究科博士課程後期課程を修了された。後期課程に進学された理由は、研究そのものが楽しかったことと、将来専門性のある仕事をしようと考えたとき、博士号を取得しておいたほうが遠回りになっても何かと役に立つのではないかと考えたからだそうだ。後期課程に進学された時点では、進路については漠然としたイメージしか持たれていなかったが、後期課程2年目の半ばには企業への就職を決められたという。その理由として、「自分の身につけたスキルをベースに、ダイレクトに研究成果を世に出すことに魅力を感じたこと」、「学部・修士を卒業して社会で活躍している同級生の姿」の2つを挙げられた。

後期課程修了後、諏訪さんはオムロン株式会社に就職され、現在まで技術本部で製品開発に携わられている。これまでに交通流センサや計測装置、検査装置などを開発してこられた。仕事で取り組まれる内容には、大学で研究した専門分野と違うものももちろんある。諏訪さんは「90%は会社に入って勉強しました」とおっしゃっている。「ただ、新たな知識を習得するスピードや、より技術の本質部分に踏み込む度合いは学部卒、修士卒の人よりアドバンテージがあると自負しています。博士で身につけるスキルは、ある分野の専門知識だけではなく、知識の深い理解や習得のスピードなど、間接的なものもあります。むしろ企業では後者での能力発揮が期待されているのではないかと感じています」とコメントくださった。

仕事をされる中で感じる博士の強みについてうかがったところ、「問題を作る能力(課題設定能力)」「チャンスが増えること」の2点を挙げてくださった。

「問題を作る能力」については、次のようにお話くださった。「企業での研究は、顧客のニーズが起点です。顧客のニーズから現場の課題を抽出し、どのような研究課題を設定できるかがポイントになります。なぜなら、いかにいい問題が作れるかによって、いい商品になるかどうかが決まるからです。現場から出てきた課題から、表面的・場当たり的ではなく、いかに本質的な問題が作れるか。ここが一番力の差が出るところであり、博士の強みが発揮できるところだと感じています。大胆にいえば、修士では問題を解く力を身につけ、問題を作る力や本質を見抜く力を博士で身につけるのだと思います。」

「チャンスが増える」とは、具体的にはどのようなことだろうか? もっとも大きいのが社外のネットワーク形成だそうだ。国内外の学会での発表や大学での連携講座の講師など、社会貢献活動に対しては博士号を持っている人に声がかかることが多いとのこと。博士は修士よりも論文執筆や海外での研究発表の経験が多く、抵抗なく取り組むことができる。また、大学で講師を務めるときや社外の人、特に海外の人と会うときなどは博士号を持っていることが強みに変わる。このように、博士号を持っていることによって社外人脈形成の機会が広がっていくそうだ。「これは企業に入ってみて初めて実感した、自分にとっては良い意味で予想外のアドバンテージでした」とおっしゃっていた。

後期課程で学ぶ上でのポイントについて、考えを伺ってみた。

「ふたつのことを考えてもらえたらと思います。ひとつは後期課程の3年間を研究に集中できるよう、(学業および生活)資金を確保することです。私の場合は、日本育英会(現、日本学生支援機構)の奨学金や立命館大学の支援制度が大きな助けとなりました。もうひとつは、海外でも通用する素養を身につけることです。これは語学というよりもコミュニケーションスキルです。これは、指導教官であった杉本先生が海外で学位取得されたこともあり、常日頃よりおっしゃっていたことでもあります。多様な価値観を知らないと、海外のエンジニアと有益な議論を進めることができません。グローバル化が進む現在、仕事ではやらざるを得ないので、学生のうちから積極的に海外に出て、海外の研究者と接する機会を大切にしてほしいと思います。また、海外に行ったとしても、自分から何かを発信しないとリターンは得られません。『自分から発信するために研究をする』のと、『言われたから研究する、学位取得に必要だから研究する』というのとでは、身に付く力に大きな差が出てきます。学会参加でも留学でも、自ら積極的にアクションを起こすことが大切で、企業ではこの経験が求められています。」

「就職活動の際は、『これまで何をしてきたか』よりも、『これからどう貢献できるか』を企業から見られます。博士は自分の研究をバックグラウンドにして、それが言えるはずです。後期課程の3年間はこれを作るための時間であるとも言えます。後期課程の3年間は自由度が高く、やりたいことができる貴重な時間です。学位取得や就職への不安は常につきまといますが、大学のサポートを活用しながら、博士の強みとなるスキルを身につけてほしいと思います。」

最近、社会人で博士号取得を目指す人が増えてきているそうだ。これは、博士号を持つメリットを感じる人が増えている証拠だろう。諏訪さんのお話をうかがっていると、博士号を持つメリットを実感されているのが、強く伝わってきた。

最後に後輩たちへのメッセージをいただいた。

「これまでにお話したような力は、学位を取るプロセスの中で十分身につけられることだと思います。チャンスはいっぱいあるので、あとは自分が何をすべきかを日々強く意識しているかどうかにかかっているでしょう。博士号を取ることで、間違いなくチャンスは増えます。そのチャンスを活かせるかどうかは自分次第です。何も考えずに過ごしてしまえば、博士号を取得しても修士修了と変わらなくなってしまいます。学位取得を最終目的とせず、将来のキャリアプランを描く上でのプロセスと認識した上で、博士として何を身につけるべきかを常に考えながら、ぜひ頑張ってください。」
  • 2011年11月16日(水) 16:00~17:30 BKCにて
  • 聞き手・文:松村初

プロフィール

1997年3月 立命館大学大学院理工学研究科電気工学専攻博士課程後期課程修了、博士(工学)
1997年4月 〜 現在 オムロン株式会社

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