松林 淳子

「自分の「芯」をしっかり持ち、社会で活躍する研究者になってほしい」

松林 淳子

松林 淳子

2006年3月に理工学研究科博士課程後期課程を修了され、現在は情報通信研究機構で専攻研究員をされている松林淳子さんにお話をうかがった。

松林さんは現在、両眼視野闘争という現象を用いて、人の視覚情報処理における知覚と脳活動の対応について研究されている。大学院では飯田健夫教授のもと、人間工学を専攻され、後期課程在学中には(独)産業技術総合研究所関西センターで研修生となり、脳機能研究に携わるきっかけを得られた。2011年には第26回日本生体磁気学会大会でU35奨励賞を受賞されている。

これまで研究者として活躍してこられた松林さんは、社会に出て研究する上で大事なこととして、「(自分の)研究の「芯」を持つこと」を挙げてくださった。

「基礎研究をするにしろ、応用研究をするにしろ、ここだけは譲れないという自分なりの研究の「芯」をしっかり持つことが大切だと思います。興味がいろいろあり、やっていることがバラバラに見えたとしても、その背景には自分の中での大きな柱があるはずです。その柱(=芯)をしっかり把握しておくことが重要だと感じています。
というのも、社会に出てからの研究発表では、学生のときよりも研究に対する説明責任が重くなります。学生のときは同一学科内の先生に対しての発表や国内学会での発表が多いと思いますが、ポスドクになると国際学会での専門家とのより高度な議論や、また逆に、一般公開などを通じて一般の人に説明しなければならない機会も多くなります。そのときに「その研究は面白いの?」「独創性がどこにあるの?」などの指摘をいただくことも多々あります。このように指摘されたとしても、必ずしも自分が興味を持った内容自体を批判されているわけではありません。その人の視点では理解できなかっただけかもしれませんし、「○○を明らかにするため、△△をした」という説明が科学的、論理的でなかったという指摘かもしれません。
学生時代にはほとんど一方向からの指摘だったのが、社会に出てからは背景が様々な人から、いろんな角度で指摘をうけるので、最初のうちは私もとまどいました。このときに大事になるのが自分の研究の「芯」です。これがしっかりしていると、指摘や批判に対しても余裕をもってのぞめるようになるので、きちんと答えることができるように思います。頂いた指摘にきちんと対応できれば、より深い議論へ発展し、自分の視点を広げるチャンスにもつながります。」

「情報通信研究機構の場合、基礎研究であっても、研究テーマが情報通信とどのように関係するのかを説明する必要があります。つまり、応用について説明する能力も求められます。一方で、学会などで研究者向けの発表をするときは、応用面ではなくバックグラウンド、すなわち学問としての価値を説明できないと興味を持ってもらえません。特に基礎研究を目指す人は、応用的なことをやっていたとしても、その研究の学問としての位置づけを説明できないと相手にしてもらえません。すなわち、基礎研究であれ、応用研究であれ、基礎と応用のどちらか一方の視点でよいわけではなく、両方の視点とそのバランスが大切です。そのベースとなるのが先ほど言った自分の「芯」だと感じています。

後期課程での研究は、学位取得という目標に向かい、ひたすら自分の専門分野を深めていくことに注力しがちである。なかなか自分の「芯」を作るところまで意識がいかないことも多いのではないだろうか?
しかし、将来研究者として活躍するためには、避けて通れない道である。では、自分の芯を作るためには何をすればよいのか。松林さんからいただいたのは、以下の答えだった。

専門分野の古典をぜひ勉強してほしいと思います。ついつい応用や社会的ニーズばかりが気になり、研究の背景をよく理解できていないことがあります。どうしてその研究が出てきたのか、つまり自分の研究のバックグラウンドをきちんと知っておくということです。古典を勉強すると、研究に対して謙虚になれますし、専門外のことでも、よく理解できるようになります。逆に古典を知らないと、他人の研究の新しいことに気がつくことができませんし、自分の分野であっても新しいことに気がつけないこともあります。私の周りでも、優秀な研究者は古典に対する理解が深く、研究に真摯に取り組んでいるように思います。」

「専門分野の古典をぜひ勉強してほしいと思います。ついつい応用や社会的ニーズばかりが気になり、研究の背景をよく理解できていないことがあります。どうしてその研究が出てきたのか、つまり自分の研究のバックグラウンドをきちんと知っておくということです。古典を勉強すると、研究に対して謙虚になれますし、専門外のことでも、よく理解できるようになります。逆に古典を知らないと、他人の研究の新しいことに気がつくことができませんし、自分の分野であっても新しいことに気がつけないこともあります。私の周りでも、優秀な研究者は古典に対する理解が深く、研究に真摯に取り組んでいるように思います。」

さて、研究機関で研究者として活躍したいと思っている大学院生も少なくない。就職活動の方法や、研究機関で働くことについてもうかがってみた。

「まず、博士号は必須です。ですので、博士号を持つことは、個人の特別なアドバンテージにはなりません。
就職活動はウェブや学会での情報収集がメインになると思います。人からの紹介で職を得たという人も多くいますので、ジョブを探していることを積極的にアピールしておくことは重要です。
研究機関のメリットとしては、研究費がつくことや設備が整っていることがあります。周りが研究者ばかりなのもよい環境だと思います。しかし、専門の研究ばかりしていればよいというわけではありません。最近は研究に対して説明責任を求められることも多くあります。機関によってその求められるものが違ってきますので、どのような組織であるかは事前にしっかり調べておくべきです。また、研究機関とはいえ組織ですから、その中でうまく動いていく必要もあります。 研究機関に応募する上では、「そこで何をしたいか」が一番重要です。それがはっきりしていれば、積極的に応募してほしいと思います。学生時代のように研究だけに専念できるわけではありませんが、そのような中でいかにモチベーションを保って研究を続けられるか。それは自分の努力次第だと感じています。」

松林さんご自身の体験から出てくる言葉は、実感がこもっていてとても説得力があった。学生のうちはどうしても研究一本になりがちだが、人とのネットワーク構築や組織での立ち振る舞いなど、研究者を目指すといえども「社会人基礎力」と一般に呼ばれるものにも目を向ける必要がありそうだ。この点は、企業への就職を目指す人とも共通している。

最後に立命館の後輩たちへのメッセージをいただいた。

「立命館は、博士課程の多い国立大学に比べると、学外の研究機関についての情報量が少ないように思います。もし情報不足を感じるなら、足りない部分は自分から動いて手に入れにいくべきです。なぜなら、情報不足は何かをできない理由にはならないからです。私も修了後に違う場所に行ったことで、医学の視点を持つことができました。必ずしも動くのがいいとは限りませんが、積極的に動いて新しい視点を取り入れていくことは大事だと思います。
私は立命館の元気あふれる校風が気に入っています。自分のルーツになる母校の校風は、ぜひ大事にしてほしいと思います。みなさんを応援していますので、自信を持ってそれぞれの課題に取り組んでください!」

立命館への愛情と、後輩への温かい思いが強く伝わってくるメッセージをいただいた。立命館はOB・OGの強いつながりがあるといわれているが、今回のインタビューを通じて強くそれを実感した。

インタビューのあと、施設を案内していただいたが、最新の装置が整った大規模な設備に圧倒された。将来、松林さんのように研究者として活躍する人材が立命館から次々と輩出されるのが楽しみである。
  • 2012年2月15日(水) 13:00~14:30 情報通信研究機構 未来ICT研究所にて
  • 聞き手・文:松村初

プロフィール

2006年3月 立命館大学大学院理工学研究科総合理工学専攻博士課程後期課程修了、博士(工学)
2006年5月 ~ 2008年3月 独立行政法人 産業技術総合研究所 健康工学研究部門 くらし情報工学グループ 外来研究員
2006年9月 ~ 2008年3月 東京大学医学部付属病院精神神経科 (財団法人 精神神経科学振興財団) リサーチ・レジデント
2008年4月 ~ 2011年3月 独立行政法人情報通信研究機構 未来ICT研究センター バイオICTグループ 専攻研究員
2011年4月 ~ 現在 独立行政法人情報通信研究機構 未来ICT研究所 脳情報通信研究室 専攻研究員

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