<研究テーマの紹介>

研究テーマ概要

馬杉研究室は、「環境情報計測」と「生体工学」の2つの研究領域に取り組んでいます。

◆ 環境情報計測

環境情報計測に関するテーマは、“移動物体識別に向けたレーダー信号処理”,“大規模地震発生前の前兆現象”,“地球温暖化に関わる気候変動”などの領域に関する信号計測処理を対象とします。

(1)移動物体識別に向けたレーダー信号処理

レーダー信号処理とは、目標物体に信号を照射した際の反射信号より、目標物体との距離や移動速度などを推定する技術であり、災害対策、気象予測、物流検査など様々な分野において活用されています。但し、目標物体が複雑な挙動をする場合や雑音成分などが影響するケースもあることから、レーダー信号の解析に際しては、様々な信号処理の技術が要求されます。

本テーマでは、ITS(高度道路交通システム)における人体識別や生体活動のモニタリング分野などへの展開を目的とした高精度レーダー処理技術の検討を行っています。本研究の取り組みでは、時間・周波数解析などの従来型の信号処理手法に加えて、深層学習などのアプローチを取り入れながら新たな課題を開拓していく方針です。

(2)地震前兆現象に関する信号計測

現在、震度6を超えるような大規模地震前には、無線放送波のゆらぎなどの電磁気的現象が発生するケースがあることが知られています。本現象は、地殻内部より放射された電磁界他が大気電離層に影響を与えている可能性を示唆するものです。但し、無線放送波の伝搬は、大気圧、太陽活動、人工ノイズ等によっても影響を受けるため、仮に通常とは異なる伝搬特性を示したとしても、その切り分けは容易ではないのが現状です。

本テーマでは、大規模地震が大気電離層に与える可能性を定量化する観点より
@衛星GPSデータによる電離圏電子数(TEC: Total Electron Content)の解析(直接法:下図はTEC変動の解析事例)
A無線・放送波の伝播ゆらぎの検知法(間接法)
に取り組むとともに、観測データの様々な外乱要因からの切り分けを行い、大規模地震発生の予知に資する計測システムの構築を目指します。

この際、TEC情報や地震波などを対象とした信号処理手法(信号分離、周波数解析など)に加えて、深層学習などのアプローチを取り入れながら、新たな分野を開拓して方針です。

(3)地球温暖化に関する信号計測

地球温暖化は、気温上昇だけではなく、降雨量や雷活動にも大きな影響を与えています。

例えば、全世界では、毎秒50〜100回程度の雷放電が発生し、地上の気温上昇に伴って、その発生回数が増加していること知られています。雷放電の発生時には、過渡的な電磁界が放射されますが(右図:観測イメージ)、遠方で発生した雷放電についても、大地と電離層間で構成される導波管内の伝搬によって観測することができます。一方で、雷放電は、地上の電子システムや電気設備の電磁障害源となることから、その特性や発生パターンの予測法は、重要な課題となっています。

本テーマでは、
@近年問題となっている地球温暖化現象の定量化指標の確立
A各種電子システムや電気設備の雷障害の対策予測技術の確立
の観点より雷放電の計測と解析処理を進めます。時間領域と周波数領域の計測技術をうまく組み合わせながら、日本国内(特に、関西・北陸圏)で発生した雷放電の観測を進めていきたい考えです。

この際、雷放電の計測処理だけではなく、インターネット経由により気象データ(降雨、気温など)も取得し、データ間の相関性を明らかにしていきます。

また、今後、衛星画像を用いて地気環境を解析するリモートセンシング分野へもテーマを拡張していく方針です。



(4)音環境・音響信号に関する信号処理

その他として、音環境や音響信号などの信号処理に関する研究テーマに取り組みます。この際、人間の心理状態などに与える影響からの信号分析を行うため、生体工学分野と連携しながら研究を進めていく方針です。


◆ 生体工学

生体工学領域関するテーマは、“生体活性化技術”と“生体信号処理”の2つの領域を対象としています。

(1)生体活性化技術

 (a) 電磁界(電磁波)の活用

電磁界の生体効果については、生体内で発生する発熱量・電力吸収(=熱作用)の解析が、主要な研究対象となっており、これまで非熱作用は十分に解明されていないのが現状です。電磁界の生体効果は、プラスとマイナスがあると考えられますが、人間の健康面にも影響を及ぼす可能性があるため、安全安心な環境構築という観点からも取り組む意義が大きいテーマといえます。こうした状況の中で、近年、過渡的な電磁界が生体に対してプラスの作用を及ぼす可能性が知られるようになってきました。

本テーマでは、
@過渡的な電磁界が、植物,酵母菌,昆虫卵など生体活動に与える影響の実験評価(図:ブロッコリー成長の例)
A細胞モデルを用いた電磁界応答シミュレーション解析(図:神経細胞モデルの膜電位応答解析例/Ieは外部電磁界による電流源)
などの過渡的な電磁界の生体効果の実験評価(パルスパワー問題)に関するテーマに取り組んでいます。

これまでの研究室での取り組みを通して、数多くの新しい知見が得られ、学会論文誌に研究成果が掲載されています。農業や医療分野などへの貢献を念頭におきながら、今後とも新たなテーマの開拓を目指していく方針です。



 (b) 音響信号の活用

『クラシック音楽を植物に聞かせるとよく成長する』という話を聞いたことはないでしょうか? 実際、近年になって、特定の音が生体活動にプラスの効果を与える現象が知られるようになってきました。本研究では、音響信号の周波数特性の差が、生体活動(植物、酵母菌、他)に与える影響を明らかにし、応用技術の展開に向けた新たな研究テーマに取り組む予定です。

(2)生体信号処理

本テーマでは、脳波、血流、脈波、音声など生体信号を対象とした信号解析に取り組みます。

この際、
@自律神経活動に関連する加齢指標や疾病予測解析
A人の認知活動や快適度に関する評価指標の推定問題(音楽情報処理や感性情報処理との融合テーマ)
B認証セキュリティ応用を目指した個人識別推定
等の観点より、様々な課題を有する社会にフィードバック可能なテーマの確立を目指していく予定です。

この際、各種の生体情報を対象とした信号処理手法(周波数解析,非線形解析,信号分離解析など)に加えて、深層学習などのアプローチを取り入れながら、新たな分野を開拓して方針です。

研究テーマと専門分野の関係

上記の研究テーマについては、信号計測、信号処理(信号分析)、機械学習、電磁気学、非線形理論、生体情報処理などの専門分野をベースとしつつ、新たな領域の開拓を目指して、取り組んでいく方針です。