研究歴

 

NEC光エレクトロニクス研究所では,光伝送,光交換,光情報処理と,三種類のアプリケーションを目指した光素子の研究開発にそれぞれ従事しました.

光伝送用としては,安定に単一軸モード動作する光源であるDFBレーザーの研究を行いました.私は,干渉露光を用いた位相シフト回折格子の製造技術の開発を担当し,幸いにも,世界で最も早く量産化にこぎ着けることができました.この技術を使って製作したDFBレーザーは,日本縦断幹線および日米間海底光ファイバーケーブルシステムの中で使用されています.

光交換用の素子としては,波長多重光交換や波長多重/時間多重光交換を目指した,波長可変光フィルターの研究開発に取り組みました.そして,ナノ秒オーダーのスイッチング時間と,どの選択波長に対しても透過特性が等しいという2つの要求を満たす半導体波長可変光フィルターを開発しました.この素子については,設計,解析,試作(結晶成長,プロセス),測定(評価)を一人で行い,半導体波長可変光フィルターとしては,最大のチャンネル数と最高のスイッチング速度を記録しました.また,システムグループと協力して,波長多重光交換と波長多重/時間多重光交換システムの実証を行いました.

光情報処理用の素子については,pnpn構造の発光素子を用いて,光セルフルーティングスイッチの機能を実証しました.引続き、並列光情報処理のための2次元集積化に適した面発光レーザー型の光機能素子を世界に先駆けて開発しました.この素子において,自然放出光の一部を活性層で吸収し,キャリアを再生するフォトン・リサイクリングを利用した発振しきい値の低減を世界で初めて実証しました。また,面発光型の半導体レーザーを試作し,半導体レーザーの世界最小の発振閾電流,面発光レーザーとして世界最高の電力/光変換効率,最大光出力を実現しました.

北海道大学電子科学研究所では,II-VI族半導体の結晶成長や,2次元集積化面発光素子の仕様の検討を行いました.特に2次元集積化面発光素子については,低消費電力化のための指針を明らかにしました.

キヤノン株式会社中央研究所では,これまでの光デバイスの設計,解析,実験での経験を踏まえて,理論的な仕事にシフトし,フォトン・リサイクリング,偏波スイッチングレーザー,光ファイバー中の四光波混合,半導体リングレーザージャイロの解析を行ってきました.フォトン・リサイクリングについては,変調周波数の劣化を引き起こさず,発振しきい値だけが低減できることを理論的に明らかにしました.偏波スイッチングレーザーに関しては,半古典論を用いて直交偏波間の結合係数を計算し,スイッチングが生じる条件を明らかにしました.光ファイバー中の四光波混合は,波長多重伝送時に雑音光を発生させますが,波長多重信号の配列の仕方によって雑音が効果的に抑制されることを示しました.半導体リングレーザージャイロは,カーナビゲーションやカメラの手ぶれ防止を目的とした微小センサーですが,設計指針を明らかにしました.