高校生の皆さんへ

 
 高校生の理科離れ、とりわけ物理離れが話題になっています。
文科省の中、高のカリキュラムの改悪によって、この傾向は益々加速されつつあるように思います。ゆとり教育と称した授業数の削減の一方で、進学校への志向が取りざたされています。後者の目標たる東大を頂点(??)とした大学の階層は、はっきり言って何の実体もありません。幻想です。そこへ行けば、確かに社会的評価は高くて、就職には有利でしょう。でもそれで、自分を満足させられますか?ゆとり教育も、進学熱もいずれも、実体のない不純な動機からでているとしか思えません。もっと素朴に物理を見る必要があります。

 私が好きな物理学者は、ファラデーやエデイソンです。でもこの二人はいずれも、普通の教育をうけてないんですね。特にファラデーは、本屋さんで働いていてそこで自分で勉強したんですね。そうした人の書いた物理(工学)の著作が、とりわけ人の心を打つのはなぜでしょうか?恐らく、物理が好きで好きで仕方ない。そこから、ダイアモンドを掘り当てた冒険が人を魅了するのではないでしょうか?ファラデーの「ロウソクの科学」(岩波文庫-青)は、その雰囲気を知ることができるので是非読んで欲しい本です。この本を新カリの本と比較するのも興味があります。

 現在の物理の教科書は、20年前の恐らく半分以下でしょう。そのために、教科書は要約ばかりです。新カリの高校物理Tをみるといきなり「くらしと電気」から始まります。物理のおもしろいところは、複雑な様々な現象を、単純で普遍な原理から導きだすことにあると私は思っていますが、教科書にはこの視点が大いに欠けているように思います。我々の周りには、電気製品が溢れています。だからといってそのマニュアルを理解する事を教育の目的にしてはいけません。このような傾向は、英国で始まった、新しいカリキュラム advancing science を極めて不十分に取り込んだせいもあるのかもしれません。でも、高校物理を説明するのに、最新の科学機器や、巨大装置を例にする必要はありません。[ロウソク]だけからも、こんなに、高度で、楽しい知識が引き出せるのです。
2004年11月22日 福山 武志