B型人間の悲しさを知り尽くした辣腕上司


第五世 代コンピュータプロジェクトというのは、100年後の技術を今に引き寄 せて考える壮大で志の高い研究プロジェクトで、関係者の多くは自分が生きて いるうちに”第五世代コンピュータ”なるものが社会のいたるところで実用化 され日常的に使われるようになるとは思っていない。(但し、 部分的な技術はある程度実用化されている。) プロジェクトの終了後、多くの研究は大学に移っ た研究員達によって受け継がれ、既に5年近く経つが、最近淵(元)所長が元 ICOT関係者の研究会で「皆さんのやって来た研究は、いよいよこれから内容的 に深まっていく段階に入ったと思われます。まあ、10年後というのは無理で も50年後あたりには、世の中を大きく変える成果として完成するでしょう。」 なんて挨拶をやっているぐらいだから、何ともスケールの大きい話である。

こういうプロジェクトを進めるには並外れた構想力が必要で、「10年後の事 なんか分らない。数年先をにらんで、確かな事をやっていくんだ。」と考えている普 通の計算機工学者では無理というか、その構想力自体が信じられないようであ る。私自身は普通の計算機工学者のように「今が全て」という考え方は元々 無いので、50年100年先の話も悪くないと思うのだが。

さて、ICOTには並外れた構想力とアイディアを持つリーダー達と、極めて強力 な事務スタッフが居たのだが、何せ関連メーカなど多くの人間を動かしていか なければならないし、多くの人々に構想の意味をうまく説明していかねばなら ないので、どうしても泥臭い調整作業や管理運営や高度な内容の広報活動がで きる研究サイドの人間が居ないと全く立ちいかない。こういう仕事は、浮き世 離れした世界に行ったきり戻って来ないような人にできる訳がないし、かといっ て、小手先の管理技術だけに長けたような人だと、プロジェクトのスケールを 損なう方向ばかりに動いてしまうので、やっぱりだめであろう。そこで、抜群の バランス感覚と努力の人 「B型人間の悲しさを知り尽くした辣腕上司」の登場である。どういう訳かこの人 は血液型人間学の信望者であり、B型というのは血液型がB型という意味である。 私は”血液型人間学”と聞いただけで目を三角にしてアレルギーを起こすタイ プでもないが、「ただ、だらしないだけの怠け者のO型」とか「生まれながら にずぼらで雑なA型」とか「やたら細かい事にうるさいB型」の例を多く知って いるので、「いわゆるひとつの学説」として受け止めている。

ところで、M博士(B型)によると日本には「B型の人間は人の上に立ってはいけ ない」という法律があるそうである。これは、ちゃらんぽらんで管理職には向 いていないという意味である。「辣腕上司」(B型!!)はこの”法律”を深く 受け止め、「管理調整業務に向くA型をシミュレートするB型」たる事を目指し て日夜努力を重ねていたようである。この人とはよく通称タコ部屋(深夜残業 をした時の宿泊所)で、夜一緒に酒を飲んで話をしたが、何せ大変な仕事なの で物凄いストレスがたまるらしい。仕事をするときは、”実は俺がICOTを支え ているんだぞー”(これは事実)という自負心でもって「A型の自分」、酒を飲 んでストレスを発散するときには”なんで俺ばっかりこんなややこしい仕事を やらにゃならんのだ!やってられん。わーっ!!”(これもまあ事実であろう) という気分で「B型の自分」と、なんとかうまく切り替えをしてしのいでいた ふしが感じられなくもない。