引っ張る?サポートする?
個人が成長し、チームとしても
高い成果を上げるためのリーダーシップとは?

山浦 一保 教授 スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科

Question

スポーツ選手にとって、チームの雰囲気やチームメイトとの人間関係は、競技へのモチベーションや技術の向上、精神的安定にも関わるものではないでしょうか。そして、それらを左右するのが、チームをリードする監督やキャプテンの存在です。今の時代、どんなリーダーが、どんなリーダーシップを発揮することが、個人の成長を促し、チームとしての高い成果にもつなげられるのでしょうか?関係性リーダーシップとチーム力向上に関する心理学研究を行う山浦一保先生に聞きました。

引っ張るだけでなく、一人ひとりに配慮し意見を吸い上げる「黄金の2軸」が、良いチームに欠かせないリーダーシップ

一人ひとりのモチベーションや心の状態も大切にしつつ、チームとして一つになった時は大きな成果が上げられる。そんな組織、チーム作りに必要なリーダーシップとはどのようなものでしょうか。ふさわしいリーダーシップのあり方は、時代と共に変化するものですが、自分たちの目標に直結するような指示を明確に出す、必要な情報をきちんと伝えるといった基本的なことは、世界共通、いつの世でも欠かせない要素です。

リーダーというからには人を引っ張る要素は必要です。しかし、ただ引っ張るだけでメンバーはついてくるでしょうか。毎日一方的に「グランド10周!」と言われてモチベーションが上がる人はいないでしょう。部活動ならそれで3年間我慢できるでしょうか?引退してからもその競技を好きでい続けられるでしょうか?全員ができるわけではないと思います。

そこでもう一つ私が必要だと考えるのが、一人ひとりに配慮する、聞く耳を持って意見を吸い上げる、サポーティブな要素です。引っ張る、サポートする。私はこの2つを「黄金の2軸」と呼んでいます。この2つを兼ね備えたリーダーシップが、よいチーム作りには必要なのです。

選手一人ひとりも「黄金の2軸」でチーム作りに参加することが大切

近年、企業が国際的競争力を維持するために必要とされる「変革型リーダーシップ」が注目されています。社会の新しい波に対応できる発想力、想像力を備えたリーダーが発揮するリーダーシップのことです。スポーツの世界でも競技力がどんどん上がり、新しいトレーニング法も開発されています。その波に対応し、うまくチームに取り入れていくためにも、変革型リーダーシップの必要性が叫ばれるようになっています。

変革型リーダーシップには4つの側面があります。

  • ①モチベーションの鼓舞…「実現できたらすごい」と思わせる言動
  • ②知的刺激…「別の方法でも試そう」と思わせる言動、あるいは別の方法を提示できること
  • ③理想的な影響…「この人みたいになりたい」と思わせる影響力
  • ④個別的配慮…一人ひとりに誇りを持たせながらサポートしていくこと

①②は従来型の引っ張るリーダーシップ、③④はサポーティブなリーダーシップの具体的な内容に近いのではないでしょうか。つまり、変革型のリーダーシップは「黄金の2軸」を基本にしたリーダーシップに他ならないのです。

「黄金の2軸」は、リーダーシップに限らず、職場の人間関係、友人関係、恋人関係でも共通して大切な、良好な人間関係を築くために必要な資質です。同じチームにいても、一人ひとり違う人間。誰かが落ち込んだり、調子が悪かったり、チーム内に温度差が生まれることもあるでしょう。その時、チームを構成する一人ひとりが「黄金の2軸」を基本に、自分事として対応すれば、そこでまた新しい信頼関係が生まれたり、チーム全体のモチベーションが上がったりすることもあると思います。そういう要素が複雑に絡み合って作られていくのがチームなのではないでしょうか。リーダーだけの問題にせず、選手も一緒に考えていくことのできるチームが、向上していけるチームなのだと思います。

ストレスを「見える化」?
アスリートのメンタル管理をサポート

アスリートにとって、メンタルの管理は競技力にも関わる重要なものです。打たれ強く、ストレスがあっても上手にごまかせる人は特に注意。本当は気持ちを吐き出した方が良い時期なのに自分で覆い隠してしまい、気づいた時には大変なことになっている場合も少なくありません。練習に身が入らない、長く走れない、思うように送球ができない、そうなってしまう前に、ストレスや自分の感情を客観的に見つめ、上手につき合っていくことがとても大切です。今、他学部の先生方と一緒に行っているのは、テクノロジーを利用して人間関係やストレスを見える化する試み。アスリートのサポートにつながることを期待しています。

スポーツマネジメント、特にスポーツ心理学の分野に興味がある人へ
人との関わりを競技力の向上や心の安定につなげるその方法を学び、研究にチャレンジしてほしい

アリストテレスの弟子テオプラトスは、哲学書『人さまざま』で、人のさまざまな性格を類型化しました。それを読むと、時代が変わっても人間はあまり変わってはいないことを実感します。同時に、人はずっと心に興味を持ち続けてきたのだとも感じます。心や関係という見えないものを、人間は数値で見える化し、科学にしてきました。そこには他の分野と違った面白さがあります。答えが見えない学問は苦手だと決めつけないでください。世の中が見えにくくなっている今だからこそ、そこに切り込んでいくチャレンジングな学生さんにこの分野で学んでほしい。そうすれば未来は開かれていくだろうなと思っています。

スポーツという活動は人との関わりの中にあるものです。監督、チームメイト、個人競技であっても仲間の存在があります。その関わりをうまく自分の競技力につなげるにはどうすれば良いかをこの分野で学んでください。自分の心の状態を整えることは息の長い競技力にもつながります。周囲をどうサポートするかを考える時にも、この分野での学びはとても大切です。ぜひ興味を持って勉強や研究にチャレンジしてください。社会人になっても、また競技の指導者になった時にも必ず活かせる学びだと思います。

PROFILE

山浦 一保 教授

熊本大学大学院教育学研究科学校教育専攻修士課程修了、広島大学大学院博士課程後期生物圏科学研究科環境計画科学専攻修了。博士(学術)。静岡県立大学経営情報学部講師、同地域経営研究副センター長を経て、2010年立命館大学スポーツ健康科学部准教授、2016年より現職。企業・チームにおけるリーダーシップとその開発に関して、上司-部下の良好な関係構築の観点から研究を行っている。

先生のおすすめカルチャー

  • 漫画

    『ONE PIECE』

    個性の強いキャラクターをまとめ上げる主人公のリーダーシップに注目しながら、改めて読んでてみることをおすすめします。

  • 映画

    『ミラクル』

    1980年冬季オリンピックにおけるアメリカのアイスホッケーチームの活躍について、史実に基づいて作られた映画です。チームを創りあげる上で何が必要か、色々な角度から語りかけてくれます。