コラム

Column

活動を「学び」と成長につなぐために

京都産業大学 ボランティアセンター コーディネーター 井上 泰夫
「学生がもっと地域と身近になってほしい」そんな願いのもと、この4月から京都産業大学ボランティアセンターに着任し、コーディネーターとして学生が地域をつなぐ支援に取り組ませていただくことになりました。
京都産業大学ボランティアセンターは、2013年4月に開設されたばかりの新しいセンターです。本学では、2005年度に「ボランティア活動室」を開設し、ボランティア活動の推進に取り組んできましたが、この4月にボランティアセンターと改名しました。それに伴い、コーディネーター(私のことです)を配置し、体制の強化が行われました。また、9月にはセンターの移転を行い、現在の約2倍のスペースとなります。待望の学生専用スペースもでき、より「学生のためのセンター」としての機能が強化されます。

本学では、さまざまなかたちで学生が地域とつながるための支援を行っていますが、今回は福井県をフィールドとしたボランティア体験プログラム「ふるさとワークステイKSUスペシャルバージョン」を紹介させていただきます。これは、福井県が実施する滞在型地域振興・交流プログラム「ふるさとワークステイ」を本学向けにアレンジしたものです。
このプログラムでは、福井県福井市・勝山市・鯖江市の3つのフィールドでの活動を通して、地域での課題発見やさまざまな人々との協働を経験し、そこから得られた「学び」と気づきを共有します。

このプログラムは夏期休暇期間に3泊4日で行われます。活動先は県内3か所に分かれており、学生はグループに分かれ、さまざまなボランティア活動や地域活動の支援に取り組みます。
福井市上味見地区では、NPO法人自然体験共学センターの協力のもと、赤かぶら畑での農作業や子どもたちの体験活動の支援、地域の行事(樺八幡秋祭り)のお手伝いなどに取り組みます。
勝山市平泉寺地区では、勝山市農林部農業政策課と連携し、稲刈りや野菜の収穫、菊の刈り入れや出荷準備に取り組みます。また、地域の農家に民泊させていただき、交流を深めます。
鯖江市上河内地区では、鯖江市都市農村交流協議会とともに、鳥獣害対策ネットの補修や草刈り、牛の世話や農作業に取り組みます。ここでも、地域の農家に泊めていただき、交流を深めます。
3日間、みっちりと現地での活動に取り組んだあと、学生は最終日に合流し、体験を共有するワークショップに参加します。ここでは、協力団体の方々も参加し、それぞれが体験したことを見つめ直し、語り合い、シェアします。

このプログラムでは、現地での体験活動だけでなく、学生が自らの問題意識を整理し、取り組みを総括するために、キャンパス内で「事前学習」と「ふりかえり」を実施しています。事前学習では、参加者同士の交流を深め、活動先となる地域と活動の意義についての理解を深めます。ふりかえりでは、「学び」を定着させ、学内での発信につなぐための思考の整理を行います。
本学の取り組みとして特徴的なのは、事前学習とふりかえりにおいて、学生相互の学びあいを促進するために「学生ファシリテーター」が参画することです。学生ファシリテーターは、いわゆる「学生スタッフ」ではなく、学生相互の議論の活性化やワークショップの運営を担います。学生ファシリテーターは、回生を問わず、事前に研修を受けた学生が担っています。学生ファシリテーターは、キャンパス内で行われる事前学習・ふりかえりのサポートだけでなく、担当する職員とともに現地にもおもむき、最終日のワークショップの運営も担います。学生は、「半歩先」を歩く学生との出会いの中で刺激を受けながら「学び」を深め、学生ファシリテーターもまた、実践と省察の往復を通じ、成長を遂げていきます。

このプログラムを通じ、学生たちは、農村というある種の「非日常」の中で、作業や地域住民、仲間との交流を通じてさまざまな体験を重ねていきます。その経験は「学生時代の素敵な思い出」としてアーカイブされていくことでしょう。それは決して悪いことではないのですが、大学として実施する以上、「学び」と成長を支援する、という視座は不可欠です。成功体験(あるいは失敗体験)をストックさせるだけでなく、常に自身をアップデートしていくきっかけにするためには、さまざまなしかけが必要です。そのためにも、「ぶっつけ本番」と「やりっ放し」にしないために、事前学習とふりかえりの効果的な運用は大きな意義があると考えています。そこには、「互恵」と「省察」をキー概念とする、サービスラーニングにおける「学び」のモデルは大きな示唆を有していると考えています。

ボランティア活動に代表されるような、キャンパスと現場を行き来しながら体験を重ねる活動は、学生たちがそれぞれの専門領域で学び、自らのキャリア形成について考えていくうえで非常に重要な示唆を有しているといえます。しかし、「ランニング」の前と後にきちんとストレッチをすることがトレーニングに効果的なように、「ラーニング」として現場に飛び込む前に思考と問題意識を伸長させ、事後に体験を省察し、自らの「学び」と成長に収斂させていく時間をいかに展開していくか―それは運営する側である私たちのセンスと力量が問われるものだと考えています。

これからも、京都産業大学ボランティアセンターでは、多くの方々の協力とお知恵をお借りしながら、学生と地域を橋渡しすると同時に、体験活動と「学び」との橋渡しにも、より積極的に取り組んでいきたいと考えています。

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