コラム

Column

地域連携・協働型授業による問題解決の実践 ―びわこ・くさつキャンパスと草津市内の活動の事例から―

島根県立大学総合政策学部准教授
(2020年3月末まで 立命館大学共通教育推進機構講師)
宮下 聖史
問題解決を目指すという学び

昨今、学校教育や社会活動において“問題解決”への志向が高まっています。このことは、経済や人口等の右肩上がりの時代が終わり、社会全体が緩やかに共有する目標や標準的なライフコースが失われてきたことと同時に、私たち自身が社会を支える市民の一員としての役割を担っていくことの自覚が浸透してきたという時代背景と関連しているといえるでしょう。こうして多くの現場で“問題解決”のためのワークショップが開催されるようになりますが、しかしそれらの提言の深掘りや実装化への試みが十分なされることなく消化されていく、いわゆる問題解決志向のインフレ状態に陥っている現状もまた垣間見えるように思います。

そこで2019年度のVSL研究会では、主要なテーマのひとつとして、大学の授業として“社会問題の解決”に取り組むことの実態を共有し、何をどこまでできるのか、について議論することといたしました。そこで対象としたのが、教養C群「社会で学ぶ自己形成科目」の一環として2012年度から開講している「ソーシャル・コラボレーション演習」です。同科目のシラバスには以下のように記載されています。

「身近な社会問題」と聞けば、どのようなことをあなたは思い起こすだろうか。自然環境の保護や生活環境の改善、高齢者や障がい者の生活支援、青少年の成長支援、地域活性化…。私たちが暮らしている地域社会には、実に様々な問題が横たわっている。

本科目では、地域から持ち込まれる具体的な社会問題に対して、新たな解決策を企画検討し、実践可能なプランの策定に取り組む。この際、他の受講生や既に活動している実践者との協働(コラボレーション)のもとで、社会を革新していくアイデアを構想していくこととなる。この経験を通じて、用意された活動に参加するだけではなく、大学での学びを活かして新たな活動をつくりだしていく力の獲得を目指したい」

上記の目標を達成するために、2018~2019年度、びわこ・くさつキャンパスでは、NPO法人しがいち防災研究所の協力をえて、「地域防災・減災計画の策定」をテーマとしました。出発点として、「想定外ばかりの公助 見せかけだけの共助 言葉だけの自助」という現状について、上記NPO法人理事長の岩佐卓實さんより具体例を交えて問題提起をしていただきました。かかる問題意識を共有しながら、2018年度は防災おにぎり委員会やマンション防災委員会をはじめとして地域防災に取り組んでいる市民の方々を大学に招いてお話を聞いたほか、草津市役所危機管理課やまちづくり協働課、立命館大学BKC地域連携課、玉川学区の事情に詳しい教員らを訪問し、ヒアリングと資料収集を行いました。2019年度は、さらに課題を絞って具体的なシチュエーションを設定し、当該テーマの“自分ごと化”を図りました。具体的には、地域において生起しうる課題―被災時の家族への連絡方法や避難所運営の課題、災害ボランティアの振る舞い方など―をテーマにして、シミュレーションゲームをしたり、関連する出来事を調べたりしました。加えてかかる課題の当事者であったり現場での実践を重ねている滋賀県自閉症協会、NPO法人アザレア掛橋コネクション、草津市社会福祉協議会の方々からお話を聞いたりしました。一連の取り組みのなかで、防災体制の現状や課題の掘り起こし、解決策の提案、問題意識を持った方々との出会いによる自覚化の促進が図られました。

多様な人びとがつながりあうことの意味

冒頭の“問題解決はどこまで可能か”、あるいはそれを進めるためにどのような実践や要件が求められるかという点に戻ると、大きくは2つの方向性が見出されるように思います。ひとつは方法・手段について、近年ソーシャルデザインなどの視点から注目されるような、具体的で斬新なアイデアによる解決策の提示を行うこと、もうひとつは、かかる実践の担い手としての“自分ごと化”を図ることです。私自身はこれまで後者に関心のウエイトを置いてきました。ポイントは、他者との協働の意味や価値を実感として理解するということです。

それに関連して、しがいち防災研究所とのコラボには前史があります。遡ること5年前の2015年度のVSL研究会では、震災復興や防災を年間のテーマとして実施しましたが、その一環として年度末の2016年3月25日の研究会では、当時は草津市役所にお勤めだった岩佐さんと、草津市内で防災活動に取り組む防災おにぎり委員会の皆さまをお招きしました。防災おにぎり委員会では、阪神淡路大震災が発生した日にちなんで毎月17日におにぎりを食べることで、防災意識の日常化を図っています。この日の研究会は、学内で実施する研究会としては異例のママや子供たちが中心の研究会でした。しかし異例の研究会であり、多様な立場の人びとが集ったところに、人と人とがつながる“関わりしろ”があったものと思います。そこから、少子化問題を考えることをテーマに滋賀県から助成を受けた学生団体を中心につながりが発展し、NPO団体などを巻き込みながら、数多くの学びあい、助け合いの実績が生まれていきました。そのつながりは、形を変えていまも着実に広がり、そして深まっています。

他者との協働によって、自分の成長や他者から必要とされていることを実感できる経験を積むこと。こうした経験を通じてエンパワーメントされた学生は、授業という枠を乗り越えて、独自の活動へと発展させていき、その後のライフコースへの道しるべを獲得していきます。

上記の「ソーシャル・コラボレーション演習」の受講生のなかにも、すでに関連するテーマの問題意識をもっており、さらに授業での学びや出会いを次の活動に発展させていった学生、当事者から直接話を聞くことの重要性を実感した学生、その他受け止めは様々です。「授業が終わればそれまで」にならずに、どのようにして何かしら主体化につながる経験を得てもらうか、このことは引き続き探求していかなければならない課題です。

最後に私自身、改めて立命館大学での5年間の教学、社会的活動によって、人と人がつながりあうことの意味や価値を実践的に学ぶことができました。お世話になったすべての皆さまに、心から御礼申し上げます。

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