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おすすめアルバム:A.R.ラフマーン『Vande Mataram』

立命館大学共通教育推進機構 准教授 秋吉 恵
おすすめアルバム

A.R.ラフマーン Vande Mataram
インド映画音楽界の天才と言われるA.R.ラフマーンが、インド独立50周年を記念して出したアルバム「Vande Mataram」。私がインドに住んでいた1997年の大ヒットアルバムだ。あの頃、テレビから、街角の屋台から、公園に集う人々から、この歌が聞こえてきた。民族対立を超えた融和を描くテレビCMに酔っていたのは私だけではないだろう。A.R.ラフマーンはこのアルバムで世界デビューを果たし、2009年には「スラムドック・ミリオネア」でアカデミー賞を受賞している。

この歌は1870年代に書かれたベンガル語の詩を1896年にラビンドラナート・タゴール(アジア初のノーベル文学賞受賞者)が歌い、イギリスからの独立運動の中で重要な役割を果たした国民歌でもある。サンスクリット語の意味は、「母よ、あなたを讃えます」。どちらかというとヒンドゥー教至上主義のイメージがあったこの歌を、パキスタンの国民的ミュージャン ヌスラット・ファテー・アリ・ハーンが参画したアルバム作りによってイスラム教徒にも受け入れられる名曲、名アルバムにした。アルバム3曲目の「Gurus of Peace」を聞くと、対立が続くインドとパキスタンの国境を超えて、人々がともに平和を願う姿が浮かんで来る。

今年3月、新型コロナウィルス感染症対策のため、南アジア地域協力連合に属する8カ国首脳が初めてのテレビ会議を開催し、域内協力の合意をまとめた。インドのモディ首相が3月13日にツイッターで提案し、15日にはメンバー6か国首脳から直に、またパキスタンからは大統領補佐官から賛同を得たそうだ。これってかなり画期的。国境を越えて広がるウィルスの脅威に晒されたからこそ、実現したんだと思う。

3月25日から始まったロックダウン直前にA.R.ラフマーンは新作アルバム「99 Songs」をリリース、困難な日々を過ごす人々に癒しを提供し、4月1日には医療者への感謝と感染拡大予防のための行動を呼びかけた。それから5ヶ月、インドでの、そして南アジアでの新型コロナウィルス感染者数は増加を続けている。

1999年、Vande Mataram が流れる荷役馬だまりで、ロバの診療中

2000年ビハール州パトナから国境に向かう村の学校にて

COVID-19|アート|秋吉 恵
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