コラム

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行くべき道を歩んで来た道から探る:2022年度VSL研究会が目指すもの

立命館大学共通教育推進機構 教授 山口 洋典

行くべき道を歩んで来た道から探る:2022年度VSL研究会が目指すもの

過去を見つめて未来を見据える

 「行く道は来た道に聞け。」これは、2015年度に立命館大学サービスラーニングセンター科目の一つ、「シチズンシップ・スタディーズI」の受け入れ団体であったコリア国際学園(KIS)において事務局長をされていた宋悟さんが、かつて私にお示しいただいた言葉です。(註1)宋さんは長らく大阪・生野のコリアタウンで多文化共生を実現するための各種取り組みのコーディネートをされて来られた方です。立命館大学では2015年、「アジアのゲートウェイ」を教学コンセプトの1つに掲げて大阪いばらきキャンパス(OIC)を開学することになり、同じ茨木市にて「柔軟な発想と幅広いコミュニケーション能力を兼ね備え、問題解決能力に優れた人間の育成」のために「多文化共生」と「人権と平和」を教育理念として掲げているKISでのプロジェクト学習を展開することとしました。
 立命館大学では2008年にサービスラーニングセンターを設置していますが、その前身となるボランティアセンターは2004年に産業社会学部により、衣笠キャンパスに設置されました。その後、2005年には文部科学省「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(現代GP)にも採択され「地域活性化ボランティア活動の深化と発展」として、プログラムの拡充がなされました。そして、2006年にはびわこ・くさつキャンパス(BKC)にも開設され、大学と地域を往復して学ぶ「サービスラーニング」手法を用いた学びと成長を目的とするプログラムが全学にて展開される環境が整いました。そしてサービスラーニングセンターは2015年の開学にあわせてOICにも設置され、コロナ禍を経た現在も、学部・学年を越え、また授業と授業以外の双方で、社会で学ぶ自己形成の機会を創出してきています。
 ちなみにサービスラーニングセンターでは、ボランティアセンターの時代から継続している取り組みの一つとして、研究活動の一環として「ボランティア・サービスラーニング(VSL)研究会」を実施してきています。これは前述の現代GPの採択を経て、「正課・課外での豊富化、カリキュラムの構造化、導入期の取り組み、専門との接合、教材・教具・手法の開発」等に対して、公開・非公開での議論の場と、ヒアリング活動によって迫る場として位置づけられたものです(「VSL研究会」News Letter Vol.1、2007年7月14日)。当初は対面のみでの開催でしたが、全キャンパスに拠点を置くマルチキャンパス体制以降は学内のテレビ会議システムを利用して、そしてコロナ禍においてはZoomミーティングも活用して、教育実践を通じた経験交流を重ねてきています。開始当初は現代GPの応募時に記した実施計画に基づいて調査や評価を行ってきましたが、近年は年間で統一テーマを掲げて連続研究会を実施する形式が定着するようになりました。
 サービスラーニングセンターの設置から15年を迎えようとしている2022年度のVSL研究会では、冒頭に示した「行く道は来た道に聞け。」のごとく、その前身となるボランティアセンターの時代も含め、歴史を紐解くことにいたしました。長引くコロナ禍ゆえ、前年度に引き続きZoomミーティングにて実施するにあたり、参加者の皆さんには事前に「指定文献」として、費用を負担することなく閲覧が可能な(いわゆるオープンアクセスな)論文などを通読いただき、その著者らと共に、各々の関心を深めるという趣向としています。そこで、このリレーコラムでは、各回の要約を示して参ります。オンラインでの開催では動画でのアーカイブを遺し、その後の資料として活用されることもありますが、ここでは改めて文字にてまとめることで、サービスラーニングセンターの「これまで」と「これから」をつなぐ、言わば未来を展望する手がかりとなればと願っています。

サービスを通じたラーニングへの評価

 ボランティアセンターの時代から数えれば、間もなく設立20年を迎える立命館大学におけるサービスラーニングの教育実践を見つめ直す2022年度のVSL研究会の第1回は「評価」を取り上げました。2022年5月30日、オンライン(Zoomミーティング)で開催した場には事前に10名のお申し込みを、当日は12名にご参加いただきました。この日は筆者(山口洋典)が話題提供と進行役を担当しました。前述のとおり、読書会の形式で行ったため、開会にあたっては事前に指定した文献の選定理由と事前に参加申し込みをいただいた際に寄せられたコメントや感想を紹介した上で対話を進めていきました。
 第1回目の文献は京都大学高等教育研究第22号に収められた「サービス・ラーニングによる集団的な教育実践における学習評価と実践評価のあり方」(山口洋典・河井亨、2016年)でした。これは、現代GPの採択により開発された科目「地域活性化ボランティア」(2012年度より「シチズンシップ・スタディーズI」、2021年度より「シチズンシップ・スタディーズ」)を事例とした実践的研究の成果です。この論文は、冒頭で大学教育にアクティブ・ラーニングが求められている背景と科目の概要を、続いて約10年にわたって展開されてきたサービス・ラーニングという教育法を用いた教育実践の結果に対してラーニング(学習)への評価とサービス(実践)への評価のあり方をまとめたものです。特徴として、実践と活動の両方を重視するサービス・ラーニングでは、学生どうしが学びのコミュニティを形成していくという学習プロセスと、現場において適切な人間関係の構築を行い続けた上で現場に一定の貢献をしつつも開講期間という限られた時間での関与ゆえに一旦は撤退を図る必要があることから実践のプロセスにも着目する必要があることを明示した点が挙げられます。
 話題提供ではサービス・ラーニングの評価では教員による成績評価ではないという点に関心が向くよう、評定と評価と、言葉を区別して用いることとしました。少なくとも成績評価については、科目の到達目標に達したかどうか、中間段階で形成的な評価を行い、最終的に総括的な評価を行うことができるよう、何をもって評定の素材とするか、成績評価資料を受講生に明示する必要があります。一方で、サービス・ラーニングという教育法における評価では、学びのコミュニティが適切に生成・維持・発展・消滅ができたかについて受講生がピアレビューできる場と手法が重要となることを、「シチズンシップ・スタディーズI」において用いていた「相互評価シート」を例にして示しました。一方で受講生らの学びのコミュニティが自己完結することなく現場の方々と相まみえて学生も社会もよりよい状態への変容がもたらされたかは成果目標に対する「ずれ」方のパターンを見つめることで見いだせるのではないか、と、京都大学の高田光雄先生が整理された持続可能なまちづくりに対するシナリオアプローチの3つのパターンから検討を図りました。
 ご参加の皆さまからは、サービス・ラーニングが正課科目だけでなく正課外のプログラムでも導入されていること、学年暦と地域での活動日程との調整が必要になること、教養教育として展開する上での履修学年を制限することへの妥当性、地域活動における他大学との関係や交流の有無、さらには現場での学生の活動の把握方法、そして受入先の変遷など、多岐にわたる問いかけをいただきました。読書会形式にて過去の実践的研究を振り返る機会ではありましたが、大学の使命の1つに地域貢献があると定められて久しい今、地域連携における学生への学びと成長に広い関心が寄せられていることを改めて確認する機会となりました。ちなみに事前指定論文の共著者の一人、河井亨先生からは予め収録いただいたビデオコメントが寄せられ、「目標に依拠した深い学習はいかにして可能か?」また「多様な文脈や相互作用を学びとして評価する方法は?」といった投げかけのもと、学生・実践者・教育者が評価のあり方を巡って議論することの意義が説かれました。今後も、立命館大学サービスラーニングセンターでは、VSL研究会を通じて深い学習とそうした学習をもたらす教育実践の方法について議論の場を創出する共に、2022年11月からはホームページの「研究」部分において、実際に用いてきたワークシートなどの教材を提供する「リソースセンター機能」も実装いたしましたので、引き続きご関心を寄せていただければと願っています。

註1:具体的な活動内容は、コリア国際学園の広報誌「越境人」12号(2015年秋号)の特集2(立命館大学「シチズンシップ・スタディーズⅠ」の活動)で紹介されています。https://kiskorea.ed.jp/img/pdf/ctb12b.pdf#page=4




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