コラム

Column

「教育と研究とのコーディネーション」

国際基督教大学教養学部 特任助教 黒沼 敦子

教育と研究をつなぐ視点
 私はこれまで、国際基督教大学(ICU)のサービス・ラーニング(SL)プログラムの実務に長く携わり、学生の実習や国内外の連携を担うコーディネーターとして その運営に従事してきました。
 現在は教員として授業設計や学生のリフレクション支援に従事しながら、実践上の課題を出発点としてSL研究の道へ進み、博士論文ではアメリカにおけるSLの制度化に焦点を当てた研究を行っています。特に、アメリカの学士課程教育におけるサービス・ラーニングとコミュニティ・エンゲージメント(SLCE)の組織的展開を手がかりに、日本のサービス・ラーニングの将来的展開に向けた示唆を得ることを目的としています。

ICUにおけるサービス・ラーニング 
 ICUでは、献学の使命である「神と人とに奉仕する有為の人材を育成する」教育を体現する実践として、1990年代後半から学内外の多様なパートナーと協働しながら、国内外でSLプログラムを展開してきました。2002年には日本で初めてサービス・ラーニング・センターが設立され、学部共通科目としてリベラルアーツ教育への定着が進みました。
 一方で、プログラムの「制度化(institutionalization)」が進展する中で、学術性の担保や学生の主体性の希薄化といった課題も明らかになってきました。

アメリカの学士課程教育におけるSLCE 
 こうした問題意識から、私はアメリカのリベラルアーツ大学におけるSLCEの組織的展開を探究しました。制度化の進展により、SLを取り巻く用語や領域が変化し、大学におけるSLの役割や位置付けも再構築されています。
 サービス・ラーニングは、特にシビック・エンゲージメント(市民として社会に主体的に関与する活動)を促進する教育手法として期待されており(五島 2019)、SLを含む地域社会連携型教育や学習、そしてシビック・エンゲージメントを包含する概念として「SLCE」が位置付けられています。
 この枠組みの下で、SLCEは既存の高等教育システムを新しいタイプの教育システムへと変容させる中核的な価値を有する教育実践として注目されています(Sandmann, Furco & Adam 2019)。

ミドルベリー大学におけるコミュニティ・エンゲージメント
 バーモント州のミドルベリー大学は、SLCEを全学的に展開している大学の一つです。同大学のコミュニティ・エンゲージメント・センター(CCE)は、社会貢献・学識・市民性を柱に、社会課題に取り組む正課・準正課(単位は付与されないが大学の責任下で実施するプログラム)を統合的に支援するハブ組織として機能しています。活動支援のみならず、資金提供や教員連携にも力を入れており、教育・研究・社会貢献の統合を推進しています。
 例えば、「特権と貧困(Privilege and Poverty)」と題した学際的クラスターでは、学生が地域の貧困問題を学問的に探究しながら、関連団体でインターンやプロジェクトに参加します。授業(正課)と地域活動(準正課)が循環的に結びつき、学習共同体を形成しながら社会変容を志向する市民学習として位置付けられています。
 こうした取組みを支えるのが、CCEに所属する専門職(Community Engagement Professionals)です。彼らは学生支援や地域連携、教員サポートの専門知識や経験を持ち、教育実践を大学のミッションと整合させる「実践家−研究者(practitioner-scholar)」としての役割を担っています。専門職同士、そして教員との協働を通して、教育・研究・社会貢献の統合を支える学内連携が形成されています。

教育と研究の往還としてのサービス・ラーニング
 アメリカの制度化研究と事例からは、SLがエンゲージメント概念の下で再解釈され、教育と学習を通じて市民的関与を促す「市民学習(civic learning)」として展開していることが明らかになりました。そのためには、正課・準正課の両面でカリキュラムやプログラムを充実させ、専門職の関与と学内連携を強化することが重要です。
 SLを教授法として普及させることに加え、大学のミッションと整合性のある組織的取組における教員の支援体制の充実を促進することが鍵となります(Meixner, Berkey, & Green 2018)。

日本の実践への示唆
 日本の大学におけるSL実践に対しては、①エンゲージメント概念の下にSLを位置付け、カリキュラムの再構築を図ること、②学術性を担保した正課科目と学生の主体性を育む準正課プログラムによる市民学習を推進すること、③教員と学生の参画、それを支える専門職の関与と体制整備を進めること、の三点が示唆として挙げられます。
 今後、SLの実証研究を通じて制度化がさらに進展し、社会貢献を通じた教育と研究の統合を図ることによって、SLが大学教育の変容に寄与することを期待しています。

ボランティア|VSL研究会|山口 洋典
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