地震予知ってできないのかな?
ここ数年、日本を大きな地震が襲っています。「1週間後にこの地域で大きな地震が起こりそう」そんなふうに予知することができれば、被害を減らせるのに……。地震予知の可能性について、川方裕則教授と、研究室の豊本大さんに尋ねてみました。
- 地震研究の究極の目標のひとつは、「人の生命を救うこと」にありますから、地震の予知は大きな研究テーマです。しかし予知ができるようになるためには、まず地震が起こるメカニズムを解明しなければなりません。
地震が起きているとき、地面の下では何が起こっているんですか?
- 1995年の阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震や、2016年に起きた熊本地震のような「内陸型地震」と呼ばれるタイプの地震は、「断層」と呼ばれる岩盤の層の境界が、ずれたり壊れたりすることで起こります。その様子を、一軸圧縮試験機を使って再現してみましょう。
▲一軸圧縮試験機
- 実験に使うのは、缶コーヒーの缶ぐらいの大きさの円筒形の試料です。上と下は固いセメントでできていて、その間を斜めに石膏がつないでいます。
▲断層を人工的に再現した試料
- 地下と一言でいっても、いろいろな地質でできています。そこに力が加わったとき、どんなふうに破壊するのか、実際の数百メートルから数キロにも及ぶ断層に力を加えて観測することはできません。そこで人工的にこの試料を使って、破壊の様子を観察してみます。
試料を装置にセットし、油圧ポンプで下から力を加えていきます。
先生がゆっくりとハンドルを上下に動かすと……
ミリミリッと音がして、セメントと石膏の境目の近くで試料が斜めにずれました!
- 強いセメント部分には変化がありませんが、弱い石膏部分やセメントとの境目は力でズレ動きました。実際の地震でもこのように、弱い部分、つまり断層が動いていると考えられます。
それにしてもいったいなぜ、地面を何キロにもわたって動かすような力が働くんですか?
- 地球の表面は、10数枚の「プレート」と呼ばれる岩盤の層で覆われています。地球の内部には、地球が誕生したときの熱がまだ冷えずに残っており、その熱の対流運動で、プレートもゆっくりと動いているのです。日本に地震が多いのは、ちょうど4つのプレートがぶつかり合う場所に位置するためです。世界で起こる地震の約10%が日本の内陸部および近海の下で起きています。
将来、地震は予知できるようになるんでしょうか?
- 地震の予知の研究には、いろいろなアプローチがあります。私が行っているのが、「地震波の解析」です。
地震波とは何でしょうか?
- 深い地中で断層が壊れると、破壊によってうまれた波が複雑な経路を通りながら地中を伝わっていきます。それが地震波です。そして、地震波が次々に断層のほかの部分を壊しながら、連鎖反応のように広がっていくと、規模が拡大していき大きな地震になります。最近の日本では、地震波の観測体制が整っており、気象庁が地震の記録を震源カタログとして管理しています。
- 私の研究は、その震源カタログに載らないほどの小さな地震が、大きな地震の前にだけその震源の近くで起こっているのではないか、という仮設を立てたところからスタートしました。
2011年6月30日に長野県の中部で発生した、マグニチュード5.4の地震の前2年間に、ごく小さな地震が付近でどれくらい起こっているか、4カ所の観測点の記録をもとに、コンピュータを使って地震波を解析したと話す豊本さん。
- 各観測点では、1秒間に100回、東西・南北・上下の3成分の地震波の記録を取得しています。その2年間分、189億個分の地震波のデータを、4カ所分解析したことになります。これだけ大量のデータを解析するのはかなり大変だったと思いますね。
- その解析の結果、長野の地震では、本震が発生する13〜14時間前に、それ以前の過去2年間ではまったく見ることができなかった特徴的な波形を持つ、小さな地震が起こっていることがわかりました。これからその波形が、昨年起きた熊本地震などでも見られるか、研究を進めていきます。
おお! その波形がほかの大きな地震でも共通して見られるということになれば、もしかすると将来、地震の予知につながるかもしれませんね。
- 地震の予知が、将来的に可能になるかどうかは、地震学者の間でも意見がわかれています。もしも地震に人格があったとして、「これから地震を起こそうと思うけど、最終的にどれくらいの大きさになるかは、わしにもわからん」と考えているとするならば、本人にもわからないことを、他人が予測できるはずがありません。つまりこの場合には、単に地震が起きることが予測できたとしても、その規模が予測できないため、予知としては無意味なものになります。私たちはそれでも何らかの法則性があるのではないか、と思って研究を進めています。そんな風に『まったくわからないこと』を追求するのが、大学での研究の面白さですね。
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