

宇宙戦争アニメで爆発音。あれ?真空で音は聞こえるの?
宇宙船やロボットが宇宙空間を飛び交い、激しい戦闘を繰り広げるSFアニメ。迫力ある戦闘シーンには音が欠かせません。スピーカーからは、ヒューとか、ゴゴゴとか、ドカーンとか、かっこいい効果音が聞こえてきます。……が、情報理工学部メディア情報学科4回生の山田さんはふと疑問に思いました。
- あれ? 宇宙って真空なのに音が聞こえてる……
さっそく、研究室の西浦先生に疑問をぶつけてみることにしました。
- 先生、宇宙で音は聞こえるんですか?
- そうですね。答えるのは簡単ですが、せっかくなので実験をして自分の耳で確かめてみましょう。
使用するのは、真空装置と目覚まし時計。左端の白いものは手動で空気を抜くためのポンプです。手前の水色の機器は音量を測定する騒音計です。
まずは、目覚まし時計を鳴らします。ジリジリと鳴り続ける時計を装置に触れないように浮かして真空装置の中にセットします。
- ベルの音、聞こえていますね。
- はい。聞こえています。ところで、こちらの装置はなんですか?
- 目覚まし時計を映しているようですけれど……。
- それは後でわかります。では、中の空気を抜いていきましょう。
真空ポンプを何度も引っ張る山田さん。圧力計の数値がみるみる下がってきます。
- もう少しです。がんばってください。
- はい!
立ち上がって本気を出す山田さん。
- けっこうきつい……
真空装置の中の空気が減っていくにつれて、ベルの音がだんだん小さくなっていきます。
- はい、ここまででいいでしょう。
ベルの音はかなり小さくなりました!
- これで、約25%の空気が抜けています。完全に真空ではありませんが、空気が減ると音も小さくなることがわかりますね。
- はい。空気がないと音は伝わりませんね。やっぱり真空の宇宙ではまったく音はしないんですね。
- そうです。音は空気などの媒体を振動させて耳の鼓膜まで伝わってきます。振動を伝える媒体がないと、私たちの耳は音を聞き取ることができません。
- でも、もしかして、時計の電池が切れかけて音が小さくなっているだけかも…
- そんなことありません。ちゃんと変わらず聞こえてます!
▲実験を手伝ってくれた情報理工学部メディア情報学科4回生の大塚美咲さん
- 大塚さん! いつの間に!
- 最初からここにいたよ?
- 先生、どういうことですか?
- 大塚さんは、目覚まし時計に光を当てて振動を映像で記録した音を聞いているんですよね?
- はい。ええっと、ちょっと待ってくださいね。これが目覚まし時計の振動を映像で記録した音です。
- 音を伝える空気が減っても、目覚まし時計の振動の様子は変わっていないので、振動を映像で記録した音は変化しないんです。
- なるほど。僕が聞こえないのに、大塚さんが聞こえていた理由はわかりました。でも、映像で音を記録するなんて、どうやったらそんなことができるんですか?
- それを説明する前に、音が聞こえる仕組みをもう一度確認しましょう。
音が聞こえる仕組み
- 目覚まし時計のベルが鳴っているとき、目覚まし時計は細かく振動しています。空気を抜いてないときは、目覚まし時計の振動が装置の中の空気に伝わり、装置の中の空気の振動が装置の外の空気に伝わって、最終的に人の鼓膜に届き、ようやく音が聞こえます。
しかし、装置の中の空気がないときは、目覚まし時計がいくら振動しても、その振動はどこにも伝わらず、人は音を聞くことはできません。
- せっかくがんばって振動しているのに、どこにも伝わらないんですね。……あっ! 映像なら目覚まし時計が振動している様子がわかりますね!
- そのとおりです。
真空装置の側に置かれていたのは1秒間に250万回のハイスピードでサンプリングができるカメラでした。
このカメラで振動する目覚まし時計に光を当てて様子を録画し、光の振動の強弱を波形に変換します。
マイクで音を録音するときは、空気の圧力の変化を感知して波形に変換しますが、物体や空気が振動している様子の映像記録からも、同様の波形に変換することができるのです。
これは空気を抜いた後の波形です。空気を抜く前とおおむね波形は変わっていません。大塚さんが聞いている音は、この波形が示している音です。空気が減っても映像で記録した音は変わらないのです。
- つまり、このカメラを使えば、空気がない宇宙でも、迫力ある宇宙戦争の音を聞くことができるんですね。
- そうですね。宇宙戦争が起こればの話ですが……
映像で音を記録し、再現する技術
- カメラで音を記録できるなんて、面白いですね。この技術で、どんなことが可能になるんですか?
- カメラで撮影した映像の場合、周囲の音に左右されずに記録ができるので、騒音の中で聞きたい音だけを拾い上げることができます。また、遠く離れた場所の音を記録したり、人が入れない場所の音を聞いたりすることもできます。
<考えられる応用例>
・ドローンのプロペラ音に邪魔されずに録りたい音を記録する
・災害ロボットに装着すれば瓦礫の下の聞こえない声も検知できる
・マイクでは拾えない遠い場所の異音を拾って警備に備えられる
・原発事故後の人が入れない区域でどんな音がしているかを調べられる
・F1レーサーがレース中にしゃべっている声をクリアに聴くことができる
・野球のピッチャーが何を言っているのかを客席スタンドで聞くことができる
- いろんな応用が考えられますね! でも、こんなに便利なのに、どうして今までは使われていなかったんですか?
- 今までは、これほどハイスピードで撮影できるカメラがなかったからです。ちなみに、映画のフィルムが1秒間に24コマです。
- なるほど。1秒間に250万コマというのは、本当にすごい速さなのですね。
- そうですね。今後はこの技術の精度を高め、様々な場面で応用できるように研究を進めていきます。