

みんなで旅行の計画だ!話し合いが盛り上がるためのいい方法は?
- 今度みんなでロンドンに行かね?
- おい、だいぶ唐突やな……。けど、ええやん、ロンドン、行こうや
- よし、じゃ、行きたいところを検索しようぜ!
というわけで、高田研究室の4年生3人、高橋くん、伊藤くん、門脇くんがロンドン旅行に行くことに。早速計画を立てるべく、各自スマホを出して「よし、調べるぞ~」と検索開始。しかし、あれ? いつの間にか沈黙が……。
シーーーーーン。
せっかく3人で集まっているのに、各自がスマホを見ていると、どうしてもそれぞれの世界に入ってしまう……。
- もっとワイワイ話しながら計画を立てられる方法ないのかな。そうだ!こんなときこそ、『仮想テーブルトップシステム』の出番じゃないか……。高田先生~!
というわけで、指導教官の高田秀志教授を訪ねることにしたのでした。
隣にいる人との情報交換に最適なのは、本当にスマホ?
▲情報理工学部で仮想テーブルトップシステムについて研究をしている高橋くん(左)と、高田先生
- みながロンドン旅行を計画していると聞いて、そろそろ来るんじゃないかと思ってましたよ。まさに『仮想テーブルトップシステム』の出番ですね。高橋くん、よく思い出しました
- いや、今後のぼくの研究テーマなので、さすがに思い出しますよ
- 高橋、いつの間に、こんなのをテーマに……。でも、『仮想テーブルトップシステム』ってなんですか?
▲仮想テーブルトップシステムについて、3人に解説をはじめる高田先生
- では、簡単に説明しましょう。みなさんが普段使っているスマホなどの端末は、”遠くにいる人同士”が情報を送ったり、連絡を取り合うのに便利なように作られていますよね。直接会って一緒に作業する場合は、情報をやりとりするのにスマホよりもいい方法があるのでは? そんな観点から作ってみたのが、この『仮想テーブルトップシステム』なんです
- ほ~。なるほど
- このテーブルの上に旅行のプランが書かれたパンフレットやガイドブックなどがあったとしたら、きっとみなでその資料を共有して、話しながら計画を立てますよね。それと同じ環境を、タブレット端末を使って仮想的に作ろうというのがこのシステムなんです
- 『仮想的なテーブルを作る』ってどういうことですか?
- いまこの本物のテーブルの上にあるのはタブレット端末4つだけですが、じつは、見えないパンフレットなども置いてあると想像してください。それを『仮想テーブル』と考えるんです。その仮想テーブルは、実際のテーブルに置いてあるタブレットのスクリーンを通してだけ見ることができます。つまり、タブレットが置いてある場所だけは仮想テーブルの上が見える。タブレットをテーブル上で動かせば、仮想テーブルの別の場所が見えることになります
- つまり、タブレットが仮想テーブルの『のぞき窓』になっている、ということですね
- そういうことです。そしてタブレットでは、普通に調べものをすることはもちろん、スクリーン内に出した情報や資料を、実際のテーブル上で紙を動かすかのように、仮想テーブル上で動かすこともできるんです。たとえば、このタブレットを使って高橋くんが観光情報を調べるとします。そして情報が表示されたインターネットブラウザのウィンドウをドラッグしたまま、タブレットをこのテーブルの真ん中へと動かすと……、ブラウザのウィンドウを、仮想テーブルの真ん中に置くことができますよね。同じようにして、今度は伊藤くんが、そのウィンドウを仮想テーブル上で自分の近くに持っていくこともできるんです。ほら、まるでテーブルの上で、紙を手渡しているみたいでしょ?
▲仮想テーブルを体験する伊藤くん。
- ほんまや、すごい!若干動作にぎこちなさはあるけど、実際に紙があるみたいやな。よし、これで旅行計画を立ててみよう!
スマホと新システム、使い比べると……!?
- よし、この仮想テーブルトップシステムを使って、今度こそいい旅行計画を立てるぞ!
システムに入って、まずはタブレットの初期位置を認識させます。
タブレットでの検索などの使い方は通常通り。ただ、タブレットは常にテーブル上において動かさなければいけません。では、スマホを使って計画を立てた時と、仮想テーブルトップシステムを使った時の3人の様子を比べてみましょう。
<スマホを使った場合>
- 伊藤、なんかあった?
- フィッシュアンドチップスのいいレストランを見つけたで!いま、URLを送信するし……
▲伊藤くんはLINEを使って、見つけたサイトのURLを送ろうとしているようです
- OK
- で、門脇は何か見つかった?
- ……。いま調べてるとこ……(と見せかけて彼女にLINE♥)
- ……
- ……(あ、そういえばライブのチケット取らな)
▲みんながスマホに夢中になってしまいました……
<仮想テーブルトップシステムを使った時の場合>
- 見てみて!これ、タワーブリッジ。船が通る時、ここが開くんやって!
- へえ、めっちゃかっこいいな。その画像、こっちにもちょうだい
▲伊藤くんが資料をテーブル中央に移動させ、それを高橋くんが自分のタブレットで受け取ります
- うん、いいね!こんなスポットも見つけたよ。ほら、あの、ハリーポッターに出てくる駅!
▲高橋くんが資料を仮想テーブル上で中央に移動。すると、伊藤くん、門脇くんともに立ち上がって一緒に見はじめました!
- ああ、キングスクロス駅か! あれ、映画のどんな場面で出てきたっけ?
- ほら、あの電車の場面……
- ああ、覚えてる覚えてる!行きたいな~
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結果。
話し合いの雰囲気に、明らかに違いが出た!
<高橋くんのまとめ>
【スマホの場合】
・情報を共有するためにURLを送信するのは、やりとりに手間がかかる上、それぞれが自分のスマホで情報を見るため、常に視線が手元に落ち、なかなか会話がはずまない。
・自分のスマホを見ていると、ついついSNSを見に行ったり、他のことをやってしまう。
【仮想テーブルトップシステムの場合】
・仮想テーブル上で資料を動かすとき、タブレットを物理的に動かすために、実際に紙を手渡すときなどのように自然と動作が伴って立ち上がったりして活気が生まれる。
・資料をテーブルの上で共有して見ることで、自然にお互い顔を突き合わせて、より会話が生まれやすい
ツールの発展が、生み出す成果もあげていく!
- いったいこれ、どういう仕組みになってるんですか?
- 実はとてもシンプルです。タブレット内にスクロール可能な大きなデスクトップ画面を作り、それをネットワークを通じてみなで共有しているだけなんです。テーブル上のタブレットの動きは、タブレットの端に付けているマウスを介して、タブレット内のデスクトップ画面上の動きに連動するようになっています。つまり、本物のテーブル上のタブレットの位置が、タブレット内のデスクトップ画面上の位置と一致するようになっています。そしてこのタブレット内のデスクトップ画面の情報を、コピーしてみなで共有しているというわけです
- このシステムを使ったら、確かに会話が生まれたし、その場で情報を共有する良さを生かすことができた気がします
- そうでしょう。以前ある大学院生がやった興味深い実験があります。複数のグループに、今回と同じく旅の計画を立ててもらったのですが、そのとき、半分のグループには、協調作業支援システム(今回のとはまた違うものですが)を使って計画を立ててもらって、残りの半分のグループは、スマホなどで普段通りにやってもらいます。出来上がった計画を第三者に比べてもらったところ、協調作業支援システムを使って作った計画の方が面白い、という評価を得たんです
- 成果物の質が上がったんですね!
- うん、確かに、コミュニケーションが活発になることによって、出来上がってくるものの質が変わるというのはありそうですね
- 現状のシステムはまだ初期段階ということもあり、スマホを使うより効率は下がったかもしれません。それでも、出来上がる成果物の質が上がるとすれば、このような協調作業支援システムを使う意味があるということですよね。高橋くん、これからこの研究をどう展開させますか?
- そうですね、じゃあ、まずは、テーブルの上で資料を滑らせて相手に渡せるように、フリックして飛ばせる方法を考えようかな……
- そうですね、そうして一つずつ、このシステムをより便利なものにしていけば、あっと驚く展開が待っているかもしれませんね。いつかはVRを使って、仮想テーブルを三次元の本当のテーブルのようにすることもできるかもしれません
- 夢が広がるなあ
- 技術の進化によって、ツールやシステムはどんどん便利になってきました。でも特定のシーンによっては、便利であることの定義が変わってきますよね。今あるものに頼るだけではなくて、もっとこうしたらいいんじゃないか、こんなこともできるんじゃないか、と疑問と期待を抱くことが、新しい発想につながっていきます。そういった考え方を、みんなには身につけて欲しいですね