2017.09.28

これって何色?想像以上にスゴかった人間の色覚メカニズム!

りんごの色は何色ですか?そう聞かれたら、おそらく大半の人が「赤色」だと答えますよね。もうちょっと詳しくいうと、「りんごの皮に赤い色がついている」と認識しているのではないでしょうか。ところが、情報理工学部で色彩工学を研究しているヒューマンビジョン研究室の篠田先生、西口さん、鉄尾さんはちょっと違った色の捉え方をしているようですよ。詳しく聞いてみましょう!

まず質問をしますね。これは何色に見えますか?

▲色とりどりのカードから、オレンジ色のカードを指差す先生

—オレンジ色ですね。

なるほど、では、このオレンジ色がどこにあるか、指差してもらえますか。

それはもちろんココでしょ……不思議に思いながら先生の持っているオレンジ色のカードを指で指すと、先生はにやりと笑ってこう答えました。

この質問をすると、皆さん、同じ場所を指します。でも、本当は、ここにオレンジ色はないんです。

—??? どういうことですか?

この紙自体には、『短波長の光はあまり反射せず、中~長波長の光を反射する』という物理的な特性があるだけです。つまり、この紙そのものに『色』が存在するわけではないんです。

—では、色っていったい、どこにあるんでしょうか?

その答えは、ここです

そう言って、頭を指差す先生。

色を感じるのは、人の脳です。紙で反射されたさまざまな波長の光が、人間の目の網膜にある視細胞によって電気信号に変換され、その信号が視神経を通じて脳に入力され、初めて『オレンジ色』という感覚が生まれます。そのため、色を決める要素には、次の3つがあると知っておくことが、非常に重要なんです。

1.物体
2.光(照明)
3.観察者
この3者の状況によって知覚する色が決まります。だからこの3者のいずれが変わっても、違った色になります。当然、物体が同じでも当てる光によって反射光が変わり、色は変化します。さらに、同じ光でも観察者が変われば違った色に見えている可能性があります

—色は、物体の反射率や照明光、さらに観察者の特性によって決まる感覚というわけですね。

視覚の原理を理解していただいたところで、私が行っている研究をお見せしたいと思います

そう言って、知能情報学科4回生の西口実咲さんは、数字の「8」と書かれた紙を四角い箱の中に置きました。

▲色の違う大小様々なドットで描かれた「8」の数字

この数字は、ある特別な色覚型の人には読めません。ある波長領域の光を感じる網膜の視細胞が生まれつき働いていないため、数字を構成するドットと背景のドットの色を区別できないのです。

▲あるはずの「8」の数字が、見えない!

西口さんは、特別な色覚型の人の見え方を擬似的に体験できるアプリを入れたタブレットのカメラで、紙を見せてくれました。確かにその画面を通じて紙を見ると、まったく数字があるとはわかりません。

ところが、紙に当てている光をある特定の波長に変えてみると……こうなります

—タブレットの中の映像に、はっきり数字が浮かび上がりました!

さきほど数字が読めなかった色覚型の人にも数字と背景の色の違いが区別できるような光に、反射光が変わったからです。日本人では男性の約5%、女性の約0.2%が、先天的に特別な色覚を持っていると言われています。この原理を応用することで、さまざまな色覚の人もはっきりとものが見えるような補助照明の開発ができると考えています
でもこれで話が終わりではありません。色を見る仕組みはもう少し複雑なんです

西口さんと同じく、知能情報学科4回生の鉄尾隆太さんが案内してくれたのは、研究室の中に作られた、実験のための小部屋。よくある普通の部屋のように色々な物が置かれていますね。中央には、スマホが一台置かれています。画面は白黒モードに設定してあり、白く光って見えます。

画面をじっと見ていてください。部屋の照明の色を青色に変えると……

—あれ? 画面が、黄色っぽく見える?

照明を、今度は黄色くしてみましょう

—おお! 画面の色が青っぽく変わりました

では次は、緑色の照明です

—今度は、画面がピンクっぽく見えます!

最後に、照明をピンク色に変えてみますね

—不思議だなあ……緑っぽく見えますね。いったいどうして?
(注:この画像が実際の見え方を表すものではありません)

それは人間の目に、自動調整機能がそなわっているからです。例えば、多少赤みがかった光の下で白い紙を見ても、それがちゃんと白く見えるように、人の目は自動的に赤い光に対する感度を下げるんです。
ところが紙のように反射光で見る色ではなく、このスマホのように自発光している色の場合には、目の自動調整機能のせいでおかしなことが起こります。例えば、実験の最後のピンク色の照明の場合。環境の光の波長構成が赤色に変わると、人間の目は自動的に赤色の波長の感度を下げます。しかし反射光とは違って、スマホから発する光の波長の構成は変わらないので、白い光に含まれる赤色の波長の光の感度が下がった分、色の感じ方が変化してしまうんですよね。

—それで緑っぽい色に変わったように見えたのか!

—なるほど、色の見え方というのは、照明や人によって大きく変わることがよくわかりました!

そこで大切になるのが、客観的で正確な色の『尺度』を持つことです

—色の尺度……?

みなさんが持っているスマホやタブレットも、パソコンの画面は、機種やメーカーが違えば、同じ映像でも微妙に違う色で再生されます。映像を作った人が表現したい色を正確に再現するには、『カラーマネジメント』といって、どんな環境でも同じ尺度で色を再現できる仕組みを作る必要があります

鉄尾さんはそのカラーマネジメントの仕組みを作るために、スマホのカメラで、別のスマホやタブレットの画面を撮影し、カメラとディスプレイのキャリブレーションを行うアルゴリズムと、それを応用した色彩計測と色再現のプログラムを開発しようとしています。

アルゴリズムが完成すれば、将来的に、みんなが持っているどのスマホのディスプレイであっても、また観察環境や観察者によらず、同じ色を見ることができるようになります。さらに、スマホのカメラが正確な色を測れる測定器にもなるはずです
さまざまな映像機器を開発している国内外のメーカーも、じつは色に関して本当の意味で正確な尺度を持っているとは言えません。物理的に同じ光を提示するようなカラーマネジメントだけでは、観察者の違いや観察環境(照明の色)の違いによって、知覚する色が変わってしまうことは考慮されていないのです。でもインターネットで洋服を買って、画面で見た色と、実際に届いた商品の色がぜんぜん違ったら、大きな問題ですよね

—たしかに、実際に商品を見て買うことができない、インターネットショッピングの不安は、まさにその部分が大きい気がしますね。

色彩や見え方の研究は、映画などのエンタテインメントの開発、バリアフリーに配慮した商品開発などはもちろん、パッケージのデザイン、見やすい交通標識、心地のよい住宅の照明など、あらゆる分野に応用が考えられます。理系的な思考で商品を開発するエンジニアと、感覚を重視して見せ方を工夫するデザイナーの間を、私たちの研究で上手につなげることができたらうれしいですね
立命館大学 情報理工学部

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