2018.10.15

メタボのお腹、どうしたらいいの?今、注目の「健康トレーナー」

「40歳過ぎたら、お腹が出てきたなあ…、メタボかも」
みなさんの周りに、最近そんなことをつぶやいている大人はいませんか?

暴飲暴食と運動不足が原因かな?となんとなく思うものの、じゃあどうしたらいいんだろう。データに基づいた答えが知りたい!

スポーツ健康科学部・真田樹義教授研究室、教えて下さい!

日本のメタボ人口は予備群を合わせると2000万人以上!

▲スポーツ健康科学部4回生の春名さん

中年になると、多くの人がお腹のサイズを気にし始めます。太り過ぎの原因は食べ過ぎや運動不足、アルコールの飲み過ぎなどいろいろですが、ウエストサイズが男性85cm以上、女性で90cm以上、そして中性脂肪や血圧、血糖値の数値が規定以上になると、「メタボリック・シンドローム」と診断されます。

なんと現在の日本には、40〜74歳の人のうち、メタボリック・シンドロームに該当する人が約1070万人、さらにその予備群は、約940万人もいると言われているそうです。

▲スポーツ健康科学部4回生の菊池さん

メタボリック・シンドロームは、内臓のまわりに脂肪が蓄積することにより、生活習慣病のリスクが合併した状態で、進行すると高血圧や糖尿病、脂質異常症などのさまざまな生活習慣病を引き起こします。命にかかわる病気の心筋梗塞や脳梗塞の原因にもなり、その予防と改善が健康な生活を送る上で、とても大切なんですよ。

そこで2008年から始まったのが、「特定健康診査・特定保健指導」です。これは、40歳から74歳までのすべての公的保険加入者が受ける健康診断で、メタボリック・シンドロームの予防と改善が大きな目的となっています。

メタボ改善に有効な指導法を探せ!

僕たちは、真田研究室が持っている、約2000人分の特定健康診査・特定保健指導のデータをもとに、どうすればメタボを予防・改善できるか、効率的な方法を探っています。

メタボ予防の「特定保健指導」というのは、具体的にどういうものなのでしょうか。

特定健康診査でメタボに該当した人は、その後、医療関係者による特定保健指導を受ける必要があります。国民の医療費減少のために考えられた国の施策です。特定健康診査では、身体測定や血液検査、血圧測定に加えて、このようなアンケート調査を行います。喫煙習慣の有無や、アルコールの量、普段の運動や食習慣、現在飲んでいる薬や病歴を確認します。
<アンケート項目の一例>
1医師から、貧血といわれたことがある。はい、いいえ
2現在、たばこを習慣的に吸っている。はい、いいえ
320 歳の時の体重から 10kg 以上増加している。はい、いいえ
41 回 30 分以上の軽く汗をかく運動を週 2 日以上、1 年以上実施はい、いいえ
5ほぼ同じ年齢の同性と比較して歩く速度が速い。はい、いいえ
6人と比較して食べる速度が速い。はい、いいえ
7就寝前の 2 時間以内に夕食をとることが週に 3 回以上ある。はい、いいえ
8朝食を抜くことが週に 3 回以上ある。はい、いいえ
9お酒(清酒、焼酎、ビール、洋酒など)を飲む頻度毎日、時々、
ほとんど飲まない(飲めない)
10睡眠で休養が十分とれている。はい、いいえ
そしてこれらの結果にもとづき、保健師や管理栄養士などの医療関係者が20分ほどの面談を行った上で、メタボ改善のためにその人にあった「日常的に継続が可能な具体的行動」を提案します。例えば「毎日の通勤時に、ひと駅分は歩く」「家の近くにあるスポーツクラブに通う」「夕ご飯に必ず野菜を食べる」などですね。

春名さんの研究テーマは、「特定保険指導による効果の事前予測」。初回の面談から、6ヶ月後に体重と腹囲がどう変化しているかを分析することで、より効果的なメタボ改善のための運動指導を見つけようとしています。

特定保健指導は40歳〜74歳と幅広い年代が対象です。まず40歳から65歳までと65歳以上で、年齢と性別で対象者を分けて、さらに保健指導の内容でも分類して、どのタイプの運動指導が効果を上げたかを、コンピュータを使って統計的に解析します。

間違った運動は体にダメージを与えることも…

メタボを気にする中高年層の人のなかには、短期間でやせようと考えて、激しい筋トレや急ピッチのジョギングを始める人もいるそう。それは体に負担をかける恐れがあるので勧められない、と春名さん。

もともとの運動習慣がない人が、いきなり強度の高い運動を行うと、膝などの関節や筋肉を痛めてしまって、続けられないことがよくあります。肥満の人が内臓脂肪を落とすには、まず水泳やダッシュではなく、20分間のウォーキングなど軽い有酸素運動をしてもらって、段階的にトレーニングをすることが効果的です。それに運動は、強度が高くなればなるほど、脂肪ではなく糖分が「燃料」に使われます。脂肪を効果的に燃焼させるには、となりの人と話せるぐらいの強度で、10分以上継続した運動をするのが効果的ですね。

人それぞれ生活習慣は異なり、メタボリック・シンドローム改善のためには、その人にあった改善プログラムが必要になります。適正な運動、食事など個人の判断では難しい部分を、専門的な知見で支えてくれるのが特定保健指導なんです。

運動と飲酒とメタボの関係

一方、菊池さんが研究しているのは、「運動と飲酒習慣がメタボ改善に与える影響」。いったいなぜ「飲酒」に着目しようと考えたのでしょうか。

運動することがメタボ改善につながることはよく知られていますが、それに「飲酒」がどういう影響を与えるかは、実は、きちんとした研究結果がまだないんです。僕自身も二十歳を超えて、お酒を飲める年齢となり、自分自身やまわりの人の今後の健康のためにも、その関係性を明らかにしたいと思いました。

お酒に関しては、健康や寿命への影響について、まだよくわかっていない面があると菊池さんはいいます。

過度飲酒者(1日アルコール量40g以上)は、正常飲酒者にくらべてメタボリック・シンドロームの有病率が高く、血圧や血糖値、脂質も異常値になっている人が多いことが明らかとなっています。しかし、まったくお酒を飲まないよりも、少しだけ(1日にアルコール量20g程度)飲む群のほうが、体重・脂質・肝機能・血糖値が良好な数値を示した、という2006年の研究結果があるんです。

菊池さんの研究では、特定健康診査の対象者を、①「運動していて、お酒を飲む人」と、②「運動していて、お酒を飲まない人」、③「運動習慣がなく、お酒を飲まない人」、④「運動習慣がなく、お酒を飲む人」の4種類に分けて、解析をするそう。

ハワイの日系人におけるデータでは、①の人が一番メタボになりにくいという傾向が見えており、飲酒習慣の有無よりも、運動をしているかどうかのほうが、メタボ予防・改善のためには重要であるという結果が出ています。飲酒に関しては海外の研究でも、まったく飲まないより、ちょっと飲んでいるほうが寿命が伸びる、という報告があります。ただそれが、飲酒の薬理的な効果によるものなのか、それともお酒を飲むことによるリラックス効果などメンタル面の影響なのかは、まだわかっていないのが実情で、僕も日本での分析の結果がどうなるか、楽しみにしています。

健康長寿は「病気にかからない体作り」から

▲スポーツ健康科学部で2人を指導している真田教授

日本は世界で一番高齢化が進行している先進国です。そのためこの国での健康維持に関する研究や取り組みは、将来、グローバルに大きく広がっていく可能性が多々あります。春名くん、菊池くんの研究の結果も、ぜひ今後の特定保険診査・健康指導に活用していってもらえるよう、私のネットワークを通じてつなげていきたいと考えています。
僕ら世代にとっては、メタボリック・シンドロームは身近なリスクではないかもしれません。若さゆえ「健康や寿命に関する仕事」と言われても、イメージがしにくい人もいると思います。しかし現在、人々が健康に長生きをするためには、「病気を治すこと」以前に「病気にかからない丈夫な体を作ること」が重要であることが、世界的に常識となりつつあります。運動する人は長生きできるということです。
国もそのために、「健康運動指導士」という資格を設け、スポーツクラブや病院、介護施設などで人々の健康を維持・改善する役割を担う人材の育成を促進しています。僕たちの学部でも、健康運動指導士の資格をとることができるんですよ。

「健康トレーナー」なんて呼ばれ方もしています。健康を支えるための専門トレーナーは、今とても求められている仕事だと感じますね。
私自身、大学で教える前はスポーツクラブで16年間、トレーナーとして働いてきた経験があります。今後、トレーナーの役割はスポーツだけでなく、社会のあらゆる組織で求められるようになっていくはずです。スポーツ健康科学部は、文理の壁を超えて、人々の健康づくりを総合的に学べる学部。栄養学やトレーニング科学、心理学、生活習慣病などに広い関心があり、たくさんの人の健康に貢献したいと思う方に、ぜひこの学部の門を叩いてほしいと思います。
立命館大学 スポーツ健康科学部 立命館大学研究活動報 RADIANT

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