2019.10.25

隙間だらけのダムで、水災(水害)を防げるか?

豊かな自然に恵まれた日本は、風光明媚な国である一方、自然災害の多い国でもあります。特に近年では、台風や集中豪雨による大規模な水災が毎年のように発生。治水対策の向上が強く求められています。河川とうまく付き合いながら、自然災害に備えるにはどうすれば良いのでしょうか。人間社会と河川環境のあるべき姿を探求している里深研究室で、これからの治水対策について話を聞きました。

水を溜めるだけがダムじゃない。土砂をせき止める「砂防ダム」。

▲左から里深教授、坂本さん、高山さん

突然ですが、「ダム」と聞くと、どういう風景を思い浮かべますか?はるか高くそびえ立つ巨大なコンクリートの壁、大迫力の放流シーン。そういう風景を想像する人が多いと思います。これらは「貯水ダム」と言って、河川の水を一時的に溜めて河川の水量を調節したり、農業用水の灌漑や水力発電などに使ったりしています。
でも、すべてのダムが、水量をコントロールするために作られているわけではないんです。私たちが研究している「砂防ダム」は、名前のとおり土砂災害を防ぐためのダム。水の流れを止めることはできませんが、土石流などをせき止めることに優れた構造になっています。
昨今の集中豪雨の被害を大きくしているのは、実は土石流や流木が原因だと考えられています。つまり、いかに土砂や流木をせき止めることができるかが、これからの治水対策のカギというわけです。ちょっと面白い実験をしてみましょう。

頑丈な壁VS隙間だらけの壁。土砂をせき止めるのはどっち?

ここに2つのダム模型を用意しました。ひとつめは「ここから先は砂ひとつ通さないぞ」と言わんばかりの頑丈な壁を持つダムA。

▲頑丈な壁のダム模型。ホームセンターで木材を買ってDIYしました

そしてもうひとつは、網目状に隙間の空いたダムB。

▲こちらも手作りの網目状ダム模型。石礫よりも大きな隙間が空いています

これから水路装置を使って水と一緒に、石礫と枝(流木)を流します。果たしてどちらが多くせき止めることができるか。さあ、実験してみましょう。
では、ダムAからいきますねー。それっ!(ザバーーーー)
あ、見てください。石礫は止まりましたが、流木が壁の上を乗り越えていきます。

▲水流に乗って、流木が次々に壁を乗り越えていきます

続いてダムBいきますねー。えいっ!(ザバーーーー)
おお!こちらは流木もしっかりとせき止めました。

▲壁よりも高いところまで流木を捕捉していることが分かります

この勝負、ダムBの勝ちですね。ではどうして隙間だらけのほうが流木をせき止められたのでしょう。

流木捕捉力で注目される「透過型砂防ダム」。

ダムAの場合、水よりも比重の大きな石礫は止めることができますが、石礫が壁の高さまで到達してしまうと、水が溢れ出てしまい、比重の小さな流木は水流に乗って壁を乗り越えてしまいます。

一方、ダムBの場合、水だけが隙間を通り抜け、網目が流木をキャッチします。複雑に重なり捕捉された流木や、大きさの異なる石礫がお互いに力を加え合うことでしっかりと固定されるため(アーチアクション作用)、網目よりも小さな石礫もせき止めることができるのです。

ダムAのような構造の砂防ダムを「不透過型砂防ダム」、ダムBのような砂防ダムを「透過型砂防ダム」と言います。古くから土砂災害の多い日本では、明治時代から砂防ダムが作られ続けています。そのほとんどは「不透過型砂防ダム」でしたが、近年では「透過型ダム」の流木捕捉力の高さに、大きな注目が集まっています。

実験の成果を社会へ。水災の被害を最小限に食い止めたい。

僕たちは日頃、研究室で模型を使って実験をしていますが、ときどき被災地で現地調査を行うこともあります。普段扱っている高さ15cmの模型とはまるでスケールが違いますし、実験のようにきれいな条件ではなく、複雑な要素がいくつも絡み合って起きていることを実感。調査中、被災地の方に声をかけていただくこともあり、そのたびに「自分たちの実験が少しでも社会の役に立つといいな」と思います。
いくら「透過型砂防ダム」は流木捕捉力が優れていると言っても、全てのダムを透過型に切り替えるのは現実的ではありません。そこで私は、既存の「不透過型砂防ダム」を改良して、流木捕捉機能を付け加える実験を、企業と共同で行なっています。すでに1件、実用化されているものもあります。

氾濫の危険があり、何かしらの対策が必要とされる谷は、全国におよそ8万ヶ所以上あります。そのうち整備できているのは2割程度、「透過型砂防ダム」に至ってはまだ数千件しかありません。日本の流木対策は、まさにこれからと言ったところでしょう。ダムなどの構造物による対策も大切ですが、自然災害に対する正しい知識を持ち、河川と人間社会が、どのようにバランスをとっていくべきか考えていくことが、これからますます求められてきます。それなのに嘆かわしいことに、日本には流木の研究者が少ないんです。高山くんや坂本くんのように、若くて熱心な研究者がたくさん出てくることが、何よりの水災対策だと私は思います。
立命館大学 理工学部 立命館大学研究活動報 RADIANT

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