はじめに:イベントの熱量をそのまま記録する

2026年度に立命館大学映像学部が実施したアーカイブ制作プロジェクトは、インディーゲームの祭典であるBitSummitと、ゲームメディアのゲームメーカーズとの協働によって実現しました。
主役となるのは映像学部の学生たちです。彼らが実際に会場へ足を運び、デジタルゲームの展示はもちろん、ステージ企画やフードコーナー、アナログゲーム、さらには特殊デバイスを扱うMake.Control Japanなど、イベントを形作るあらゆる要素を取材しました。出展者や関係者の生の声を聞き、それぞれの視点で記事を執筆することで、BitSummitの熱気と全体像を記録として残す試みです。

現場で学ぶ社会連携授業

映像学部では教室での学びに留まらず、社会の第一線で活躍するプロフェッショナルと協働する社会連携授業を重視しています。
現場の空気を肌で感じて、プロからのフィードバックを得るこの授業は、いわば実践型のインターンシップに近い位置づけです。学生にとっては自身のキャリアを考える大きなきっかけとなり、産業界にとっても、これからの業界を担う若い世代に直接魅力を伝えられるという、双方にとって意義深い場となっています。
映像学部はアート、ビジネス、テクノロジーの3つを柱としており、映画からVRまで幅広い領域をカバーしています。そのなかでもゲームは非常に重要なテーマです。単に遊ぶだけでなく、自ら作りたい、将来の仕事にしたいという熱意を持った学生が数多く在籍しています。学部内には現役のクリエイターや専門の研究者も教員として名を連ねており、開発手法のみならず広報やビジネス、コミュニティ形成まで、ゲームを取り巻く多様な職能を学べる環境が整っています。だからこそ、BitSummitのような熱気あるイベントに学生が直接関わることは、絶好の学びの機会なのです。

2026年度の壁:開催時期の変更

実は立命館大学映像学部とBitSummitの連携には約10年の歴史があります。2020年頃からは授業としての取り組みが本格化し、例年は学生たちが数ヶ月かけてSNS広報やBitSummit Game Jamといった関連企画の準備を進め、7月の本番を迎えるという流れが定着していました。
ところが2026年度は大きな壁に直面します。BitSummit PUNCHの開催日程が例年とは異なり、5月の22日から24日に設定されることとなりました。4月に授業が始まってから本番まで、準備期間はわずかしかありません。従来のように学生がゼロから独自の企画を立ち上げて運用するのは物理的に困難な状況でした。限られた時間の中で、いかにして学生が現場に深く関わり意味のある成果を残せるのか。
そこで新たに検討されたのが、学生が自らの足で現場を歩き、イベントの様子を記事としてまとめるアーカイブ制作というアプローチでした。

デジタルゲームだけではないBitSummitの魅力に光を当てる

アーカイブ制作を進めるにあたり、最大のテーマは何を記録するかでした。もちろん、世界中のインディーゲームが集まるデジタルゲームの展示はイベントの核です。しかし、それだけがBitSummitの魅力ではありません。
会場の片隅にあるフードコーナー、熱気あふれるアナログゲームのエリア、独自のアイデアが光る特殊デバイスの展示であるMake.Control Japanなど、イベントを形作る要素は多岐にわたります。こうした領域は一般的なメディアの速報ではスポットライトが当たりにくい部分でもあります。
だからこそ今回のプロジェクトでは、あえてこうしたイベント全体の広がりに着目しました。学生ならではの自由な視点で、会場の空気感やそこで活動する人々の姿をありのままに切り取ることを目指したのです。

9名の学生が挑んだ準備

このプロジェクトに手を挙げたのは、映像学部の3回生と4回生から選ばれた9名の学生たちです。例年よりも短い準備期間のなか、彼らは急ピッチでイベントの概要を学び、取材のシミュレーションを重ねて本番に臨みました。ただの見学者として楽しむのではなく、一人の取材者として現場に立つ。何を見て誰に話を聞き、それをどう言葉にするのか。この一連の試行錯誤そのものが、彼らにとって大きな挑戦でした。
とはいえ、学生たちの多くは取材も記事執筆も未経験です。映像学部はジャーナリストを育てる専門学科ではないため、文章で伝えるノウハウの不足が大きな壁となりました。
そこでBitSummit運営の石川氏からの提案で、毎年イベントを熱心に取材しているゲームメディアのゲームメーカーズに協力を仰ぐことになりました。同メディアの神山氏はこれを快く引き受け、わざわざ京都まで足を運んで学生たちのために特別講義を実施してくださいました。プロの視点による取材の心得や記事の組み立て方を、基礎から丁寧に指導していただいたのです。

原稿を「記事」に変えたプロの編集現場

協力は講義だけに留まりません。神山氏から、学生が書いた記事を実際にゲームメーカーズに掲載してみようという願ってもないチャンスをいただいたのです。
学生たちが最初に書き上げた原稿は当然ながら荒削りなものでした。しかし副編集長の藤縄氏やライターの佐野氏をはじめとする編集部の皆さんが、プロの原稿として見せられるように赤字を入れ、何度も推敲に付き合ってくださいました。自分たちの言葉がプロの手によって磨かれ、実際のメディアを通じて世に発信されていく。この得がたい経験は、通常の大学の授業だけでは決して味わえない大きな財産となりました。
また、限られた時間のなかで学生たちの拙いインタビューに真摯に答えてくださった出展者の皆様にも、改めて深く御礼申し上げます。

点ではなく面でつながる長年の協力関係

この社会連携授業は現在、井上明人と尾鼻崇が担当していますが、大学とBitSummitのつながりは教員個人の枠を超えた広がりを持っています。かつては他の教員(飯田和敏や中村彰憲)もこの取り組みを支えてきました。教員陣は審査員制度が立ち上がった2017年からボランティアとして審査に関わっており、大学側が専門性を提供し、イベント側が学生に実践の場を還元するという関係を築いてきました。
さらに2026年度からは学内の遊び作り研究所、通称・遊創研もスポンサーとして参画しています。単なる一授業への協力という点での関わりではなく、教育や研究、イベント運営などさまざまな局面で協働を重ねるパートナーシップがこの授業を成立させています。

このアーカイブが目指したもの

今回のアーカイブページは、決してBitSummitのすべてを網羅できているわけではありません。任天堂やソニー、セガといった大手プラットフォーマーのブース、注目のステージ、別会場の展示であるArt Bitなど、追いきれなかった熱気は無数にあります。
しかし、限られた時間と人数のなかで、学生たちが自分の足で歩き、自分の目で見た等身大のBitSummitを記録することには大きな意味がありました。
今回のプロジェクトは、学生たちに現場を提供してくれたBitSummit、プロの知見で並走してくれたゲームメーカーズ、そして学びの場を設計した立命館大学映像学部の三者の熱意が噛み合うことで初めて形になりました。
学生にとっては教室を飛び出して現場の熱量に触れる絶好の機会となり、イベント側にとっても普段は見落とされがちな多様な側面を後世に残す貴重な記録となりました。このアーカイブページは学生たちの奮闘の成果であると同時に、BitSummitに関わるすべての人々の協力の賜物です。