第1部:AHP(Analytic Hierarchy Processs:階層的意思決定法)を用いたグループでの意志決定 G&S


進め方


1. AHP概要

1.1 AHPとは

AHP(Analytic Hierarchy Processs:階層的意思決定法)は、1971年に Thomas L. Saaty により提唱された意志決定支援の手法である。評価基準が多数考えられる場合や、主観的な判断が求められる場合などに有効な手法である。AHPは現在、ビジネスにおけるさまざまな意志決定や公共事業の合意形成などに幅広く利用されている。

AHPは、人間の主観的・感覚的な判断(≒非線形な世界)をモデル化し、擬似的な計算を行うことができるという点で、一般的なシミュレーションを越えた課題を扱うことができる。

1.2 階層構造

AHPを使った意思決定問題では、課題(目標)をシステム的に捉えるために、課題を評価基準の集合と代替案の集合の組み合わせに分割し、それらの階層関係として理解する。

例えば、「新車の選定」という課題は、以下のような評価基準と代替案の集合と考える。

図1:AHPによる「新車の選定」に関する階層構造の例

1.3 一対比較

AHPでは、評価基準や代替案の重要性(重み)を数量化するために、「一対比較」と呼ばれる手法を用いる。上図の場合、「値段」、「燃費」、「乗り心地」といった評価基準の重みを一度に決めるのではなく、「値段」対「燃費」、「値段」対「乗り心地」といったように、一対一の比較を行う。

一対比較の結果は、以下のような単純な数値によって表現される。

図2:一対比較で用いる数値

例えば、「値段」が「燃費」より若干重要である場合は「3」、「値段」が「乗り心地」より重要である場合は「5」、「値段」が「車格」よりかなり重要である場合は「7」を選ぶ。

これらの数値は、以下のような「一対比較表」として表現される。

図3:一対比較表の例

1.4 価値基準に対するウェイト(重み)の算出

一対比較表から、各価値基準のウェイトを以下のように計算する。

図4:価値基準のウェイトの計算例(文献4より転載)

1.5 代替案に対するウェイト(重み)の算出

さらに、各価値基準の視点から、各代替案に対する一対比較を行う。以下は、「値段」の視点から、A〜C車の比較を行った例である。一対比較の値が得られれば、幾何平均を元に、ウェイトが算出できる。

図5:代替案(値段)に基づく一対比較とウェイトの計算例(文献4より転載)

以下は、「燃費」の視点からのA〜C車の比較と、ウェイトの算出結果の例である。

図6:代替案(燃費)に基づく一対比較とウェイトの計算例(文献4より転載)

以下は、「乗り心地」の視点からのA〜C車の比較と、ウェイトの算出結果の例である。

図7:代替案(乗り心地)に基づく一対比較とウェイトの計算例(文献4より転載)

以下は、「車格」の視点からのA〜C車の比較とウェイトの算出結果の例である。

図8:代替案(車格)に基づく一対比較とウェイトの計算例(文献4より転載)

上の例において、各価値基準の視点から、各代替案に対する一対比較を行った結果をまとめると以下のようになる。

図9:代替案の一対比較の結果例(文献4より転載)

1.7 総合得点の算出

さらに、上の表の数値と、各価値基準のウェイトを掛ける。そして、それぞれを横方向に加算すれば、各代替案の最終的な得点が得られる。

図10:代替案の総合得点例(文献4より転載)

2. AHPの実習

AHP試用版

注:

  1. 本プログラムは、株式会社トラストウィングによって開発されました。同社のご厚意により、本授業での利用許可を得ています。
  2. 同社の許可なく、本プログラムの再配布を行わないでください。

3. グループ毎の話合い

  1. グループ独自の目標(課題)設定
  2. 価値基準の要素決定(9個以下)
  3. 代替案決定(9個以下)

4. 個人毎の代替案評価

  1. 価値基準の評価
  2. 代替案の評価
→個人の評価結果ファイル提出
   (ファイル名:RAINBOWID.xls)
   (シート中に、学生番号と氏名を記載すること)

5. グループでの代替案評価

  1. 価値基準の評価
  2. 代替案の評価
→グループの評価結果ファイル提出
   (ファイル名:Lastname1_Lastname2.xls)
   (シート中に、学生番号と氏名の一覧を記載すること)

6. グループ発表


参考文献:

  1. 兼田敏之著、社会デザインのシミュレーション&ゲーミング、共立出版、2005
  2. 木下栄蔵著、入門AHP〜決断と合意形成のテクニック、日科技連、2000
  3. 木下栄蔵著、AHPの理論と実際、日科技連、2000
  4. 刀根薫著、ゲーム感覚意思決定法〜AHP入門、日科技連、1986

Last modified: Tue Sep 11 08:19:08 JST 2012