公共交通と公営交通のこれからを考える
-若干の問題提起もふくめて-
 
2003年9月13日
立命館大学経営学部
助教授 近藤 宏一
 
1.交通とまちづくり、地域づくり
(1)交通問題を考える上で、「どんなまちづくりをするのか」が前提
「クルマ優先」「短期的経済効率性優先」からの転換が求められている
キーワードは「持続可能性」(これ自体はいまの京都市も掲げている)
具体的には、マイカーや物流を抑制しうる住みやすく歩きやすいまちづくりの転換
                   →強行規制と誘導策のミックスによる
 
(2)「住民主体のまちづくり」と結びついた交通問題への取り組みが現実に進行しつつある
例)愛知県豊田市、小牧市など
 
(3)個別要求の集積だけでなく、住民自身がどんな「まち」をめざすのか積極的に議論する必要
個々の地域レベルでも、京都市全体のレベルでも
 
 
2.京都における公共交通の問題点
(1)都市としての交通ビジョンの欠如
いま、実際には何が課題なのか?
①マイカーをはじめとする自動車の抑制
            →道路ネットワークの再検討
→自動車抑制のための強行規制と誘導策の組み合わせ
            →これに貢献しうる公共交通ネットワークの形成
(ハードとソフトの両面での)
→自転車や徒歩の重視
②都心再活性化、住みよいまちづくりのための交通システムの構築
→「徒歩圏」の見直し(「歩行補助」の観点を含め)
→高齢化社会への対応
 
(2)「交通政策」と「公共交通政策」および「交通局政策」がばらばらであること
交通政策:高速道路推進と「歩きやすいまちづくり」という矛盾
公共交通政策:具体策はみえない
交通局政策:赤字削減と地下鉄建設推進という矛盾
*「交通局政策」は「交通政策」ではないことを認識する必要
相互の連関:???
 
3.公共交通のこれからをどう考えるか
(1)まちづくり戦略の一環としての目標を明確にする
①自動車抑制
②住みよい地域づくり(都心や副都心の活性化を含め)
 
(2)都市全体の公共交通ネットワークの再編による利便性の強化
  鉄道(LRT)・幹線バスとコミュニティバス(タクシー)の柔軟なネットワーク
    ①鉄道(LRT):都心への高速な直通、さらに遠方との連絡が可能。
             ただし乗り換えが必要。
    ②幹線バス:都心へ直通する場合乗り換え不要。ただし時間がかかる。
    ③コミュニティバス:地域内の人々の日常生活を支える、
              または鉄道駅や幹線バス拠点と地域の人の暮らしを直結する。
      *公共交通の利用の拡大のためには、従来のバスの問題点を大胆に解決する必要がある。
例)定時性の回復・・・路線の短距離化が不可欠
  しかし、今のままでは乗り換えが不便→どうする?
④乗り換えやパーク・アンド・ライドなどのための施設整備
 
(3)地下鉄延伸も契機としてLRTの推進を
①京福電鉄との直通を真剣に検討すべき
   嵐電を地下鉄にあわせるのではなく、地下鉄を嵐電にあわせる発想
   北野線の今出川直通の実現とあわせて、都心直通のLRT化で嵐電自体の再建も
     *LRT=路面電車や嵐電のような小型軽量電車を抜本的に近代化したもの。
            小回りがきき、乗り降りがしやすく、建設費が低廉で快適・高速。
     *費用負担をどう考えるか
②将来の西京方面への延伸をどう考えるか
        地下鉄での延伸が「絶対」ではないが、一時浮上した「モノレール」は愚策
        やはりLRTでの延伸を考えるべき。道路整備もそれを念頭に考える。
 
(4)ソフト面でのネットワーク化
①運賃:ゾーン制の導入、少なくとも共通カード化と乗り継ぎ割引の自動化
②時刻表:特に鉄道とバスとの相互連絡の強化
③案内
 
(5)地域内交通に新しい発想を
①コミュニティバス(タクシー)の大規模な導入
        小型バスやワゴンを使って、乗り降りのしやすさ、小回りを追求する。
        地域によっては乗り合いタクシーでもよい。観光客の足にもなる。
②都心部では「すっ飛バス」(急行バス)と「ゆっくりバス」の棲み分けも
③「歩行支援」という考え方
「ベロタクシー」や短距離ポーターサービスなど
 
(6)多様な事業主体のそれぞれの利点を生かす
    規制緩和によってタクシー会社、住民の自主運行など多様な事業主体が展開する可能性
    行政の責任放棄は問題だが、規制緩和を逆手にとる発想も必要か
 
(7)自動車抑制施策との組み合わせ
①強行規制:駐車場抑制、違法駐車取締強化、道路通行規制
②誘導策:パーク・アンド・ライド優遇、公共交通の利便性強化
 
 
3.「公営交通」をどう考えるか
(1)交通局問題をどう考えるか
  大前提:異様な高コスト構造を解決し、本気で集客するならバスの赤字削減は可能
ただし、地下鉄の建設費償還は不可能
  とはいえ:「公営企業」である限り赤字減らしの圧力は続く
        →「市バス」をもたない都市の方がバスに対して積極的にお金を出している矛盾。
 
(2)行政が責任をもつべきは「交通政策」」
  公共交通の多様なありかたを前提に行政としての責任を市にとらせる取り組みが必要。
 
 
4.住民運動に対する問題提起
(1)どんなまちづくりを構想するのか、との関係で交通問題の取り組みでも優先順位が決まる
 
 
(2)地元要求を出発点にしながらも、トータルで現実的な政策提起を
 *醍醐地区の状況からなにを考えるか
 
 
(3)息の長い運動を、広範な人々を巻き込んで進める必要
  交通事業者をも巻き込む必要~嵐電、京都バス、地元タクシーなどとも積極的な話し合いを
  時には住民主体の事業化を進める覚悟も