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1. エレクトリックギターの物理

エレクトリックギターでは,強磁性体でできた弦の運動(振動)を,
永久磁石に巻かれたコイル(ピックアップ)で誘導起電力に変換することによって,
弦の振動と相似な電気信号を「発電」している.その電流は微弱なため,アンプを用いて増幅し,
スピーカーから音を出す.つまり,エレクリックギターはアンプがあって,初めて楽器として成立する.

エレクトリックギターでは,弦をはじいてから「楽器としての音」が出るまでには実に様々な
物理的要素が存在し,それらが複雑に影響し合って独特の響きを生み出している.
それらの要素とは,例えば,

弦をはじく動作(位置),
弦の材質,
ピック弾き(×ピックの材質),指弾き(爪を伸ばすor切る,etc.),
ボディーの材質・形状,
ピックアップの構成・位置,
内部信号線材の種類,
トーン調整用コンデンサーの種類,
ハンダの種類,
ギターからアンプまでのケーブルの種類や長さ,
アンプ内部の回路構成,
真空管とトランジスターアンプの違い(非線形性),
スピーカーの種類,

などなど,

他にも書ききれないほどの要素がある.中には「なんでそんなものが!?」と
思われるような要素も並んでいるが,これらは実は楽器の世界では常識として知られている.

ここでは,それぞれの要素についての実験と考察などについて,
もし時間できたら更新するかも・・・.



1-1. 弦をはじく動作(位置)とピックアップの位置の考察

弦楽器は固定端を両端に持つ一次元共振器を構成している.その定在波は両端を節とするモードであり,
基本波は弦の中点を腹とする振動である.この基本モードの周波数が弦振動の音程を決定しているが,
実際の弦振動では多数の高調波モードも励起される.高調波モードは基本モードの整数倍の周波数をもち,< br>弦長のi/N(N=1,2,....;i=1,2,...,N-1)の点を節とする振動形態となる.N=1の場合は基本波,N=2は第二高調波,
などと呼ばれる.なお,基本波を主音,高調波を倍音と呼ぶことも多い.

単一周波数の音波,すなわち倍音を全く含まない音は,電子音のような人工的で無機質な響きを持つ.
もし楽器が倍音を全く含まない単一周波数の基本波を発しているならば,楽器は音程を決定付ける役目しか持たず,
異なる楽器を準備する意味がなくなってしまう.しかし実際には,楽器が異なれば同じ音程の音でも音色は全く異なる.
よって,いわゆる「音色」を決定する要因は高調波成分であることが分かる.より厳密には基本波を含めた全ての
高調波成分の強度分布によって音色は一義的に決定される.周波数成分を,横軸を周波数,縦軸を強度(或いは振幅)で
書いたグラフが「スペクトル」である.

ギターの弦をはじくとき,弦の中点をはじく場合と,弦の端付近をはじく場合とでは明らかに音色が異なる.はじくという
動作はそのはじいた点の弦を変位させることであるから,初期条件としてはこの点を節に持つような振動モードは存在しえない.

たとえば弦の中点は全ての奇数次高調波モードの振動の腹であるが,全ての偶数次モードの振動の節である.そのため弦の中点を
変位させるような励起は,強制的に偶数次モードを殺していることになる.より数学的には,弦の中点を引っ張り上げた時の弦の形は
二等辺三角形となっており(=三角波),そのフーリエ級数展開は奇数次のフーリエ成分のみで構成される,と表現される.
三角波のフーリエ係数は次数の二乗に反比例して小さくなるので,高調波の寄与,すなわち高音成分が比較的少なく,その音色は
キンキンした感じがなく,丸みを帯びて聞こえる.

一方,弦の端付近の点は,かなり高次の倍音の節でしかないので,基本波からかなり高次の倍音(偶数次+奇数次)までを同時に
励起可能である.こちらも数学的には初期の弦の形が,斜辺の長さがかなり異なる,偏った三角形となり(極限としては鋸歯状波),
このような三角形のフーリエ級数展開では偶数次・奇数次の倍音とも分布すると考えられる.鋸歯状波にはかなり高次の倍音も多く
含まれるため,輪郭がはっきりとしたキンキンした感じの音色に聞こえる.

このように弦をはじく位置によって振動のスペクトルが大きく異なるために音色が変わる.実際の演奏時には左手で押弦した位置と
ブリッジとで弦長が決まるため,右手のピッキング位置がボディーに対して一定でも倍音の入り方は一定ではない.たとえば弦長の
1/4の点を右手でピッキングすると仮定すると,開放弦は比較的くっきり鳴るが,12フレット(弦の中点)を押弦した時の音は丸い感じになる.
これは後者の場合はピッキング位置がちょうど押弦時の弦長の中点に相当するからである.12フレットの音をくっきり出したいときはピッキング
位置をブリッジ側にずらすと良い.また,音を丸くしたいときは押弦位置とブリッジの中点に近い位置をピッキングすると良い(多くの場合
よりネック側の位置を弾く).これらはギタリストによって感覚的に行われている奏法である.

ピック弾きと指弾きでは音色が異なる.ピック弾きではくっきりとした音が出て,指弾きでは丸い音がでる.
ピックのように硬いもので弦を引っ張るときにできる三角形はピックの先端のある一点を鋭い頂点に持つのに対して,
指のように柔らかく太いもので弦を引っ張るときにできる三角形の頂点は指の太さの分だけ丸くなっている.
それぞれの三角形をフーリエ級数で展開すると,頂点が鋭いものほど,より多くの高調波を含むことが分かる(より鋭角的な
形状を正弦波の重ね合わせで描くときには波長の短い正弦波が多数必要であろう).つまりピック弾きは小さい点で弦を引っ張るために
高次倍音が多く入り,くっきりした音色となる.指弾きは丸い形で弦を引っ張るので低次倍音のみが励起されるため,比較的丸みを帯びた音色となる.
ピック弾きで丸みを出したいときはより広い面でピッキングすると良い.指弾きでくっきりした音をだしたいときは爪を伸ばすか,
豆を作って指先を硬くして先端部分でひっかくように弾くと良い.


ここまでは弦楽器一般の話であった.以下にエレクトリックギターに固有の事情を述べる.

エレクトリックギターでは複数のピックアップを搭載するものが多く,スイッチによって使用するピックアップを切り替えることができる.
ブリッジに近い位置とネックに近い位置,あるいはその中間にもあるものが一般的である.たとえばフェンダー社が1950年代に
開発したストラトキャスターというタイプのエレクトリックギターでは,ネック,センター,ブリッジという3つのピックアップが搭載されている.

ブリッジ(リア)ピックアップはブリッジに近い位置の弦の変位によって発電する.ブリッジに近い位置は高次倍音の振動の腹(変位が最大の点)に
なっているため,高次倍音による発電が比較的効率的に行われる.その結果ブリッジピックアップによる信号は基本波に対する高次高調波の割合が
多く,硬い音色となる.

ネック(フロント)ピックアップはストラトキャスターの場合,ほぼ弦長の1/4の点に設置されている.この点は4の倍数次の倍音の振動の
節(変位がゼロの点)であるから,ネックピックアップはこれらの倍音を拾えず,全てカットすることになる.よって5フレット(弦長の1/4)を軽く押さえて
出すハーモニクス音(開放弦の2オクターブ上の音)はストラトキャスターのネックピックアップでは拾えない.また,ネックピックアップは
ブリッジピックアップに比べてより低次の倍音による発電が効率的に行われるため,丸い音色の信号を発する.とくに,ストラトキャスターにおいて
12フレットを押弦時にネックピックアップの直上をピッキングすると,偶数次のフーリエ成分が力学的にも電気的にも全てカットされるので,独特の
甘い音色を発する.

エレクトリックギターでハイポジションを押さえる時にはピックアップポジションと音色の関係は変わってくる.たとえば21フレットを押さえると,
弦の長さは開放弦の1/4強となるが,このとき,ネックピックアップとブリッジピックアップではほとんど音色に差がない.これはブリッジから
ブリッジピックアップまでの距離と,21フレットからネックピックアップまでの距離があまり変わらないためであり,両者ともかなり高次倍音を含んだ
キンキンした音色となる(センターピックアップはやや異なる音色を与えるであろう).

つづく?



2.   VOX Mini 3 修理 (2017.11.21)

【症状】
スピーカーから音が出ない.ヘッドホン端子からは音は出ている.

【原因】
これはスピーカーを駆動するデジタルパワーアンプIC(IC3)の故障(過負荷).
このアンプでは有名な故障のようで,多くのユーザーが経験.
(BadCapsで情報収集 https://www.badcaps.net/forum/showthread.php?t=20949).

パワーアンプ素子(IC3)は9ピンの極小素子で,クラスDデジタルモノラルアンプ.
4Ωで,3W,12dB(4倍).
Texas Instruments TPA2039D1 か
 http://www.ti.com/lit/ds/symlink/tpa2039d1.pdf

同じ素子で修理するのは非常に難しい.


【修理】
クラスDのアンプがあればよいので,アマゾンで1枚25.5円の
ステレオクラスD ミニ デジタル パワー アンプボードを購入(10枚セット).
注文後約2週間で無事に到着.

HiLetgo
PAM8403 2 * 3W クラスD ミニ デジタル パワー アンプボード AMP
2.5-5V入力 (10個セット) [並行輸入品] HiLetgo
価格:  ¥ 255

PAM8403は有名な超低価格D級ステレオアンプらしい.
そしてこのボードも各所で有名らしく,多数の製作レポートがある.
音質も十分に良いらしく非常にコストパフォーマンスが高い.
ただし,今回はモノラルなので,このアンプの片方のチャンネルのみを使用.

ゲインは,A(倍率)=2*142k/(18k+R1) で与えられる.
ボードに直接入力の場合,A=2*142k/(18k+10k)=10.1倍=20dBとなる.
元々の素子は12dBであり,20dBはゲインが高すぎるので,外付けの入力抵抗をつけて,
10k→10k+47k= 57kとし,A=2*142k/(18k+57k)=3.79倍=11.6dB
に変更した.よって,元よりもわずかに低いゲインとなっている.
なお,ボード上の10k(とコンデンサ)をスキップして7番ピンにつなげば,
 A=2*142k/(18k+47k)=4.37倍=12.8dBとなる.

故障したアンプはすでに基盤から外れていて,電気的にはすべて切り離されているので,
単純に新しいアンプボードに入力,出力,電源(+5V)の各ライン(計6本)をつなぐ.

[Mini3 基盤]  →  [PAM8403アンプボード]
C17 +端子(GND側?)                   → ⊥ 印(入力GND)
C18 ー端子(Hot側?)(→ 47kΩ) → L    (左入力)
FB5(フェライトビーズ)    →  Out_L+
FB4(フェライトビーズ)    →  Out_L-
IC9(レギュレータ)の+5Vピン          →  5V+
同GNDパターン                                  → 5V-

これで無事に動作した(1枚目は出力を一瞬ショートさせてしまい簡単に破損したが).
本体のシャットダウンのラインはヘッドホンの挿入等に関係なく常に+4.0Vが出ていたので,
制御には使っていないものと思われる.そのため,新品時でも電源のオンオフでやや大きな
ポップノイズが出ていた.これを消すにはPAM8403の5番ピンや12番ピンを利用できる.

ボード上のカップリングコンデンサ and/or 10kの抵抗をショートしてしまってもよいかも.
音量は入力抵抗を上げ下げして調整できそうだが,とりあえず現状で歪みもなく,特に問題なし.

なお,デジタルアンプが壊れると電源が短絡状態になるようなので,
本体の電源部分には適切な容量のヒューズを入れておいた方がよいと思われる.