リラクサー強誘電体におけるフラクタル・ダイナミクスの解明

レーザー分光では物質内部に存在しているわずかなエネルギーの差を高精度に検出することも可能です。
この立場で進めている研究としては強誘電体関連物質における「単結晶のフラクタルダイナミクスの解明」が
あります。

フラクタルとは複雑系などに見られる自己相似な構造のことですが,リラクサー強誘電体と呼ばれる物質群に
対する高精度なレーザー分光によって,光散乱スペクトルが自己相似な周波数特性を示すことが明らかに
なり,この物質群においてはほぼ普遍的に「単結晶の並進対称性」と「フラクタルの自己相似性」が共存することが
わかってきました。

これらの系は電場など外場に対する応答が非常に大きいため,その巨大応答特性とフラクタルダイナミクスの
関係を解明することによって,巨大応答の機構を理解したり,より応答の大きな物質を設計することが可能に
なると期待されます。このような知見はコンデンサーの小型大容量化を促進し電子機器の更なる小型化に
つながると期待されます。 


関連記事: 

Japanese Journal of Applied Physics, vol.55, no.10S, 10TC06 (2016)  [Selected for Spotlights]
 "Broadband Light-scattering Spectroscopy on Fractal and Non-Fractal Relaxors"
   by Akitoshi Koreeda, Tomohiro Ogawa, Daisuke Katayama, Yasuhiro Fujii, and Makoto Tachibana

日本結晶学会誌 Vol. 57 (2015) No. 4 p. 219-225 (Volume 57 (4), 2015
「広帯域光散乱分光によるリラクサー強誘電体のフラクタルダイナミクスの研究」,
是枝聡肇,藤井康裕,谷口博基

 セラミックス, 48, No.7, 538-541 (2013); 
 "リラクサーのフラクタル・ダイナミクス:巨大誘電応答の理解を目指して"
  セラミックス 2013年7月号目次

概要:
リラクサー強誘電体は幅広い温度領域において非常に大きな誘電応答を示すことが
よく知られている.本稿では1GHz〜数THz までの広帯域光散乱分光を通して明らかに
されたリラクサーの動的なフラクタル性について,代表的なリラクサー物質である
Pb(Mg1/3Nb2/3)O3 の研究結果を紹介し,これまであまり注目されてこなかった
メソスケールでの自己相似構造(フラクタル)とそのダイナミクスについて,巨大誘電応答との
関連性を考察する.



 Original Paper
 Phys. Rev. Lett. 109, 197601 (2012) [5 pages]
  "Fractal Dynamics in a Single Crystal of a Relaxor Ferroelectric"

Abstract:
We report the high-resolution and broadband light-scattering spectroscopy of a single crystal of a prototypical relaxor ferroelectric, Pb(Mg1/3Nb2/3)O3. A self-similar broad central peak, whose intensity is expressed as I(ω)∝ωα has been observed, indicating the presence of a fractal in the crystal. A strong correspondence exists between the temperature dependence of the exponent α and that of the reported behaviors of polar nanoregions. The estimated fractal dimension (df?2.6) at low temperatures clearly indicates a percolation transition of the polar nanoregions at around 240 K.