JST さきがけ

光の利用と物質材料・生命機能(増原宏 総括)

採択課題:「光による熱の固有状態の創成と波動制御の実現」


概要

「熱は拡散するもの」という常識に反して、ある種の結晶においては「熱の波動」、すなわち「熱の固有状態」が存在することがわかってきました。本研究では、レーザーを駆使することによって「熱の波動」のコヒーレントな励振を試みます。また、これを用いて物質における様々な素励起や相転移への劇的な変調を試みます。さらに究極的には「熱の共振器」の構築や、「熱のレーザー」の実現を目指していきたいと考えています。


ねらい

物質科学では,「熱が発生する」と言うと,「エネルギーが散逸する」こととほぼ同義に解釈されるであろう.それは物質内の熱伝導が拡散的な「熱伝導方程式」に支配されるため,いちど系に与えられた熱エネルギーは熱力学第2法則に従って不可逆的に拡散するべきである,という固定観念に基づいていると思われる.しかしながら,あまり広くは知られていないが,物質内の熱伝導はむしろ波動方程式によって記述されるのが本質であり,拡散的な「熱伝導」とは,「熱の波動」(「第二音波」)が強く減衰を受けた状態に過ぎない(下図).


通常の熱拡散(熱伝導)



熱の波動(=「第二音波」)
 

本研究のねらいは,最近申請者らがその存在を明らかにしたGHz領域の「温度の波動」(「第二音波」),つまり量子力学的な「熱の固有状態」とその物理に基づいて上記の固定観念を覆し,光を用いた「熱の固有状態」の能動的な励振(強制振動)によって物質内部のさまざまな励起状態や光との新奇な相互作用や相転移を誘起することにある.さらに将来的には「熱の波動」の誘導放出によって「熱波動のレーザー発振」にもつなげていきたいと考えている.