Concluding Remarks


本研究の成果

DMSP/OLS Stable Light Image(SLI)による中国人口分布推定の結果は、以下のように整理できる。

(1) SLI単独によるローカルな人口分布推定には限界がある。それは、SLIは都市部では上限100に飽和し、反対に非都市部では無光の居住域が広がるためである。とくに、中国のような第3世界では、光の分布領域と居住域は必ずしも対応しない点に留意せねばならない。中国の場合、人口密度が1000人/km2以下の領域では、SLIとの対応関係がとくに希薄である。

(2) かかる問題を改善する上で、SLIの光分布領域への近接性であるSLIポテンシャル面が有効であった。SLIポテンシャル面とSLI値を組み合わせた簡便な推計モデルにより、推計モデルの適合度を大幅に改善できた。とくに、相対的に人口希薄な領域での人口推定精度を改善したことが大きな成果である。

(3) SLIによる人口推計値を基にカウンティ人口の配分式を定義し、Sutton et al.(1997)で示唆されたDMSP/OLS画像による人口の面補完Areal interpolationを提案した。Diechman(1996)の手法に比べると、推計手段が簡便であり、カウンティ・レベルではあるが推計式のキャリブレーションを事前に行っているため推計精度もより高いと期待できる。SLI画像の更新が行われるならば、提案された推計過程は全球的な人口モニタリングへの応用も期待できる。

この結果、得られた人口分布面は、土地利用モデルへの入力データのほか、従来、行政単位定義の不統一で比較に疑問が投げかけられてきた、人口の順位規模や人口分布の不均等性の測定(経済の発達段階や発達過程と関係していると議論されている)などに、応用できるだろう。


今後の検討事項について

光−人口関係の地域差

Tobler(1969), Elvidge et al.(1997b), Konami et al.(1998)らによって指摘されてきたように、夜間の光分布と人口分布との関係は、産業化の度合いなどから地域差があるが、本研究ではまだ、このような地域差については十分に考察していない。

より高度なモデル技法

Openshaw and Turner(1998)はDMSPのNight time lights intensity data および鉄道網等への近接性などの入力としたニューラルネットによる人口分布の空間補間をヨーロッパで行っている。ただし、DMSPデータは本稿のSLIと同じデータ処理で生成されたものかは明らかでない。このニューラルネットにより、既存の関数系に限定されない入出力関係をモデル化できる。中国においても、ニューラルネット空間補間は原理的には可能だが、計算時間の関係上から訓練用データをサンプリングせねばならず、また、出力値と教師データが1対1対応でないため、通常の計算アルゴリズム(Back propagation algorithm)の変更を行うといった手間を必要とする。本稿では、モデルは単純ではあるが比較的高い予測精度を達成しており、空間補間のウェイトを求める上では十分と判断した。

他のリモートセンシングデータとの結合

今後は、夜間地上光データに加え、標高や他のリモートセンシング画像を組み合わせることにより、より高精度な人口推定(人口分布の空間補間)が期待できるだろう。


[付記]

本稿の作業は1998年度LUGEC(Land use for global Environmental Conservation)第II期の分担作業として行われた。