元来セラミックスは硬くて脆いものであるが,高度に精選された原料を用い,化学組成や構造を精密に制御することによって耐熱性,耐磨耗性,耐食性および高温強度など物理的,化学的特性の優れたものが開発されてきており,原子力,ガスタービンおよび宇宙材料等の先端技術分野において積極的な応用が試みられている.

このようなセラミックスの実用化にあたり,焼成時や加工時に材料内に導入される残留応力は本材料の強度に大きく影響します.残留応力の測定法の一つとしてX線の回折を使用した測定法がある.X線測定法は材料表面にX線を照射し,結晶格子のひずみをX線の回折角の変化により測定し,弾性力学の関係式を使って残留応力を求める方法です.現在,このX線測定法はセラミックスの残留応力測定法として日本材料学会標準とされており,多くの適用例がある.しかしX線を使用しているため設備的負担が大きく,また人体に有害である等の問題があります.さらに非晶質では回折強度に強いピークが現れるような明確な結晶面は無いので,被測定材は明確な結晶構造を有するものに限られます.

そこで,実用的な観点から,簡便且つ低コストな測定方法として圧子圧入法(IF法)による測定方法が注目されています.また,2001年度に(社)日本材料学会により,セラミックスの圧子圧入法による残留応力測定法が,学会標準として規定されました.しかしながら,この学会標準は限られた条件下のみの適用となっており,実際に工業的に適用するためには,より広範囲な適用条件における測定の可否及び,問題点について検証する必要がある.

 これまで,各種セラミックスの中から,アルミナ,ムライト,及び靭性値の異なる2種類の窒化ケイ素試料を用いて,上述の材料学会標準に準拠したかたちで系統的に実験を行い,ファインセラミックスの圧こん法による応力勾配の無い圧縮残留応力の測定に関してその方法の有効性を検証した.しかし,実際のファインセラミックス材料に存在する残留応力は応力勾配を持っていることが多くこの方法だけでは不十分である.

 そこで,本研究では試験片に曲げ荷重を負荷し,応力勾配をもつ状態を作り出して,その状態で圧こん試験を行うことにより応力勾配を有する場合の本測定法の適用性を検討している。



ファインセラミックスの圧こん法によるき裂進展観察および残留応力の定量評価に関する研究