この研究のテーマは“ギガサイクル疲労”です.ギガサイクルとは,“ギガ”=「109」=「10億」,“サイクル”=「周期」を意味しています.つまり,109回(10億回)を超える繰り返し荷重を加えた時の金属疲労特性について研究を行っています.
これまでの疲労試験は,107回(1000万回)程度で打ち切っていました.なぜなら,鉄鋼はある一定の応力(疲労限度)以下ならば,何度繰り返し荷重を加えても破壊しないと考えられてきたからです.確かにこの概念は,多くの鉄鋼材料について当てはまります.しかし,昔は存在しなかった高強度を持つ鉄鋼が開発されたことにより,この概念は必ずしも当てはまらなくなりました.高強度鋼の疲労試験を行なってみると,S-N曲線が一旦水平になった後,107回以降でこのS-N曲線が再び低下する“S-N曲線の2段折れ曲がり現象”(下図参照)を生じることが明らかにされたのです.我々はこの“S-N曲線の2段折れ曲がり現象”について,試験片表面からき裂が発生した“表面起点型破壊のS-N曲線”と,試験片内部からき裂が発生した“内部起点型破壊のS-N曲線”が別の場所にずれて現れた“二重S-N曲線”であると考えています.このような“二重S-N特性”の存在は,永久に破壊しないことを前提に設計(耐久設計)された機械・構造物の危険性を意味します.
鉄鋼材料の安全性を保証するためには,
1. どの程度の強度を持つ鉄鋼材料からこの“二重S-N特性”を生じるのか
2.“二重S-N特性”を生じる原因は何なのか
3. 低強度鋼では,本当に“二重S-N特性”は生じないのか
等について明らかにする必要があります.
そこで本研究では,これらの課題を実験的に明らかにするため,さまざまな強度の鉄鋼材料についてギガサイクル域にわたる回転曲げ疲労試験を行い,得られたデータを比較検討するとともに,SEM(走査型電子顕微鏡)による破面観察も同時に行い,内部起点型破壊により破断した試験片について詳細に調べ,内部き裂発生メカニズムについて検討しています.