(以下は、2004年8月1日立命館大学オープンキャンパスでの経済学部模擬講義、「プロ野球の経済学」をホームページ用に修正・加筆したものです。このため、文書ではなくレジュメ形式になっています。経済学を専攻している一野球ファンの意見として読んでいただければ幸いです 2004年9月1日)

 

プロ野球の経済学 −市場経済との比較−

 

0.はじめに

0.1.経済学 社会科学のひとつである

    社会は各種人間行動の結果 →人間の行動科学でもある

    この行動を知って分析した上で、個人、社会が幸せになるための学問

 

0.2.プロ野球の例を取り上げ、通常の経済、すなわち市場経済とどこがどのように違うかを比較し、経済学の観点から、何が問題か整理する。

    アメリカと比べて相対的には同程度かそれ以上の人気があるにもかかわらず、なぜ日本では赤字経営となるのか、アメリカとの違いはなにか

 

1.交換取引

1.1.市場経済(民間の個人・企業間)

対価の支払い  財・サービスとお金の支払い  労働サービスと俸給

 

1.2.プロ野球

1.2.1.野球場への入場者

:交換取引 入場料と観戦サービスの交換

1.2.2.テレビ観戦

:ただで見ることができる。対価の支払いではない、つまり交換取引ではない

          財を購入することで、そこに含まれる広告料で間接に支払っている。

1.2.3. NHK

NHKに受信料を支払っているが、見る・見ないに係わらず一律の支払い

交換取引ではあるが、サービスに対応する対価の支払いではない

                

いずれにしてもファンはもっと野球にお金を支払ってもよいはず アメリカと比べて放映権収入が少ない

 日米の収入格差を生む大きな要因

 

有料による映像配信[(ケーブルテレビ、CATV)、インターネット(IT)]を行うと、パリーグの球団でも巨人の収入を上回ることの可能では

 

ただ日本にけるCATVの普及率は年々急速に伸びているとはいえ 2004年6月で約 1/3 

 

例1 ’93年  

    MLB:93年で放映収入400億円

    日本に直して約半分とすると200億円

(一球団当たり約17億円 一試合あたり2500万円)

    これだけで当時の選手の12球団の総年俸を賄うことができる

 

例2 ダイエー

    近年主な収入:福岡ドーム興行権33億円、

放映権収入8億 ダイエーから広告費15億

        支出:人件費 30億円、遠征宿泊費8億円 編成費5億円

       放映権収入一試合あたり : 1140万円 

    ダイエーファンのうち200万人 がすべての試合を見ることができることに対し 5千円払うとすると、100億円の収入 

  

例3 スカイパーフェクト 様々な料金 

月々3600円(年間 4.3万円) すべてのプロ野球の試合を見ることができる

100万世帯が契約とすると、一球団あたり0.36万円*100万 =36億円の粗収入

    CATV, IT配信など は視聴者が少なく、視聴率が数%でも採算が取れる

 ライブドアの社長のその様な趣旨の発言

 

2.競争

2.1.非協力・非協調行動と協調行動

2.1.1.市場経済

非協力・非協調:ライバル会社同士  激しい競争

協調行為:一方で情報交換や業務提携、合併も

2.1.2.プロ野球

非協力・非協調:球団間の競争  勝負それとも利益?

協調行為:ドラフト制度、FA,日本シリーズ

しかしながら経営の根幹に関わる業務提携はない

   放映権入場収入の全体・相手チームへの分配など 


2.2.参入障壁

2.2.1.市場経済

市場への参入:新規企業がその業界へ参入   市場は活性化
    新しい血を入れる

参入障壁高い:市場は独占的に、非活性化

低い:市場は競争的に

企業数:儲からない、意欲のない、あるいは非効率な企業はでていく

      儲かると思う、意欲のある、経営のうまい企業は入る

      結果として

市場全体が縮小気味、あるいは赤字なら企業数は減少 プロ野球選手への需要減少、年俸ダウン

優秀で、効率的、経営センスのある企業が残る

「淘汰の原則」

2.2.2プロ野球

 障壁:参入支度金30億

 地域権 地域内で新規は認められにくい

   近鉄も公募すれば新規参入企業は他にも存在するはず  

   市場原理では、近鉄は売却して市場から退場、

買い手がいなければ、球団数は減少

    買い手がいるのに、減少させるところにみんなが違和感を持つ

  他の球団も赤字がいやなら売却、しかし売りたくはない、あるいはオーナーでいたい?

このため、協調的、独占的、閉鎖的に、行った?

「淘汰の原則」は成立せず

3.行動原理

3.1.市場経済

2つの目標の一致 

   競争に勝つ = 利潤・利益、売り上げ、規模の拡大

   

3.2.プロ野球

2つの目標は必ずしも一致しない

競争に勝つ = 試合に勝つ ≠ 利益の増加

勝つと活躍した選手への人件費が増加 順位と収入が必ずしも対応していない

利益を上げる=たまに優勝すればよい かつての阪神?

 

順位に応じて資金を分配する方法も

巨人の行動:自分の球団が勝つこと、球界全体の繁栄はどこまで考えてきているのか不明 

                                       

 

4.まとめ

 

1.プロ野球は注目度も高く人気があるがその割にはアメリカと比べるともっと収入がってもよい

放映権の違いが大きい 

日本ではテレビはただで見るものとの習慣がある

市場経済と大きく違う  CATVやIT配信による有料映像提供の更なる普及が必要

 

2.通常の競争では相手を倒産させてもよいが、プロ野球ではそうはいかない

結局、共存共栄が必要  もっと協調行動が望まれる  放映権の一括交渉など

 

3.「競争に勝つ=儲かる」 の図式を作る

 順位に応じてお金を分配  優勝報奨金  など

4.市場原理では、活気のない、非効率な企業は市場から出て行く

 企業数は結果として決まる 
 参入が容易かどうかは重要 
 球団数もそのような原理が必要

 

以上のことから次のようなことも場合によっては考えられる

全球団の総収入のうち半分から三分の一程度は、プール金として全球団で分配する

1リーグでも2リーグでもよいが、その下にも多くの球団を作り、サッカーのように入れ替えも行う。地方の球団でもうまい選手育成を行えば、全国優勝できる。またこのような球団は、順位分配金により選手にそれなりの年俸を提供できて赤字経営にはならない。人気球団は、資金を相対的に潤沢に持っているため、順位が極端にはさがらないであろう。

 

 

参考資料

樋口美雄 1993年『プロ野球の経済学』日本評論社

大竹文雄 2004年「プロスポーツにおける一人勝ち」経済セミナー8月号 日本評論社