ヒューマンインターフェイス期末試験問題2011年度

1.宇宙のかなたにあるA星は大気の成分や気温などの環境が地球とそっくりであり,そこにすむ高等生物Xは人類とそっくりであったが,ただひとつ,このXはコミュニケーションのための音声言語はもっているがその音声言語を書き記す文字が存在しないという点が異なっているとする.この星における使いやすいインターフェイスに関して考察せよ。
2.以下のような機能を持つ、火星表面を走行して探査を行うクローラー型(キャタピラとも言う)移動ロボットのインターフェイスを設計せよ。単に図を書くだけではなく、どのような点に注意したのかを文章で説明すること。
・地球から命令する。地球―火星間は最接近した場合でも約5600万kmあり、電波が届くのに3分以上かかる。そのためリアルタイムのフィードバックは不可能であり、地球からはおおまかな作業内容を命令し、ロボットの詳細な動きはロボット自身が生成し、周囲の状況をセンサでフィードバックしながら誤差を修正して動作するのを基本とする。
・1本の多関節アームを持ち、その先端にハンドとカメラがついているほか、地表の岩石の成分を分析するセンサなどがある
・その他の機能は各自が適当に設定してもかまわないが、想定した内容は答案に明確に書くこと。


解説

1.2006年度に出した問題と同一。なので、過去問をよく勉強していた人には難しくなかっただろう。しかし、できが悪い。
前年度に色の問題を出したせいか、色の利用による方法を挙げる人が多かったのが前回よりも目立った。しかし、色ですべての文字ラベルの代わりをすればよい、というような安易な解答では高い点は付けられない。色ですべての文字の代わりなどできないのは明確だからである。取扱説明書が使えない点を挙げている人は多かったが、「代わりとして音声や映像を使えばよい」とするだけの解答が多かった。しかし、本当に「音声や映像を使えばよい」のならば、地球でも文字による取扱説明書でなくてもいいはずである。音声や映像を取扱説明書の代わりに使うことの問題点まで挙げることを期待していたのだが、そこまで書けている人は少なかった。また、「可視化やフィードバック、制約を利用する」という解答も多いが、文字を使わずにこれらを利用する際に、どのようなことを考える必要があるかまで書いてもらえないと、内容をきちんと考えて理解しているとは判定しづらい。「可視化」「対応付け」等のキーワードを使っていて、大まかに言って内容に間違いがなければ加点はしているが、具体的な内容がなくてキーワードを使っただけでは小さな加点にしかならない。
エラーを防ぐ話を中心に書いている人も多かったが、「文字がないので使い方を伝えることが難しい」という点をどう解決するか、がこの問題のポイントであり、エラーの話はその次の話である。加点はしているが、重要度は低いので加点も小さい。特に緊急時の警報には音や色などが使われ、文字はもともと適さない方法である。そのような事例は、適切とは言い難い。また、前回の解説で「パスワードや暗証番号の入力の問題なども書いてあれば加点している」と書いたからなのか、パスワード等に関して書いている人も結構いたが、解説の省略部分を正しく理解せずに書いている人が意外と多かった。前回の解説で書いているのは、「データの入力に関しては、音声入力が使用できる」「しかし、パスワードや暗証番号の入力の際には音声入力では秘密保持が保たれない」「だからそれには指紋などの生体認証などの技術が使えるだろう」という内容について書いていれば加点したという意味である。それにもかかわらず、一般的なデータ入力の話が何も書かれずに、「パスワード等は音声で入力すればよい」などと書いているのでは、あまり加点できない。
前回でもあったが、特別な例についてのみ述べている解答が多かったが、一般化していないので加点はしにくい。たとえば、ふみきりを例に挙げている人がいたが、地球でも文字を使わないでも、ふみきりの運用は問題ないし、そもそもこの講義の主たる対象である「機器操作におけるインターフェイス」から外れている。同様に交通標識を挙げている人もいた。そのような例を挙げても解答としては不十分なのは明らかである。携帯電話の事例だけを挙げて、この場合はこうすればよい、とだけひたすら書いている数人もいたが、その多くが10点前後しか取れていない。やはり、一般化した内容でないと、講義をきちんと理解したとは判定できない。地球上で機器の操作の上で文字が有効に使われている事例を、どうすればA星でも使いやすくできるのか、に関して書いた事例ならば加点はしているが、同じような具体例を複数書いても加点は一度きりである。

また採点の実際を説明する。番号は説明のためにつけたものである。
1.この星の高等生物Xが使用するインターフェースにおける一番の問題は、取扱説明書やラベルによる使用方法の指示ができないことである。
2.そのため、インターフェースを設計するにあたり、設計者の考える概念モデルと使用者がそのインターフェースを手にした際に得られる概念モデルが、取扱説明書にたよらなくても一致するようにしなければならない。
3.また、ラベルによる説明もできないため、例えば教室の電灯スイッチ盤のようなものにしても、教室の電灯の配列と同じにするなど、適切な対応付けが求められる。
4.ドア等の「押」「引」のような表示もできないため、「押」の側には板を、「引」側には取っ手をつけるようなアフォーダンスも求められる。
5.インターフェースのパスワードに関しては、文字ではなく、例えば、右図(図省略)のようにボタンを配列し、それを押す順番でロックをかけるような方式、または音声による認証が利用されるのが望ましい。
6.この星では外部の記憶を文章で保存することができないため、上記のような概念モデルの構築や対応付け等で対策しきれない、複雑なインターフェースの取扱については、絵および音声を複合させた説明または、映像による説明が必要である。

まず、第1文では、この問題の本質を明確に書いている。2006年度の解説にもあるように、文字がないことで使用者の外部の知識として提供されるはずの「取扱説明書」「ラベル」が使えない点が問題であることを指摘しており、ここで8点加点している。
第2文は、概念モデルの観点からこの問題を説明しており、この説明も正しい。しかし、第1文の内容に比較すると重要性は低いので、3点だけ加点している。
第3文は、ラベルが使えないことで、対応付けの重要性を指摘しており、4点加点している。
第4文は、同様にアフォーダンスの重要性を指摘しており、3点加点している。「アフォーダンス」という言葉を使っていなくても、アフォーダンスの意味であると読み取れれば、3点加点している。
第5文は、パスワード入力に関する説明である。音声による認証ではセキュリティの低さの問題まで指摘してできていないが、3点加点した。
第6文は、この問題が「外界の記憶」の問題であることを明示していること、絵・音声・映像による説明という解決方法を提示していることで、合計9点加点している。
以上を合計すると、この解答は30点満点と採点された。

違う採点例を挙げよう。今度はあまりよくない解答例である。
1.音声言語を書き記す文字が存在しないということは、例えば携帯電話のディズプレイに表示される「データフォルダ」や「設定」のような文字による可視化を用いることができないことになる。
2.その場合、音、色、図形などを用いてインターフェースを設計する必要がある。
3.まず、機器を操作する際になるべくエラーを起こさないようにするには、今どのような操作を行えるかを的確に可視化してユーザに伝えなければならない。
4.そうすると、音声で複数個の選択肢を伝えるのは時間もかかるし、何個も何個も聴いているうちに忘れてしまい、有効であるとは言えない。
5.色に関しては、色だけで操作内容を伝えるのは、少々難しいと考えられるが、図形と組み合わせれば有効であると考えられる。
6.例えば、携帯電話のメニューで「設定」を可視化したい場合、「設定」と「色」の対応はとれないが、工具の図形に銀色を組み合わせれば、その絵を見ただけで、何かの機能の修正などができるのではないかというような連想が可能となる。
7.他にも、エアコンのリモコンについて考えてみると、冷房なら青色、暖房なら赤色、温度調整なは上向きの矢印で矢印の先に向かうに従って赤くしておけば温度上昇、下向き矢印で先に向かうに従って青くなれば温度下降のように、ボタンを押すとどのような結果が得られるかが容易に理解することができる。
8.また、危険物などの注意喚起の際は、赤色の回転灯や手の絵にバツ印を付けるなどしておけば、図形や色で十分に生物に何をするべきで何をするべきでないかを伝えることができる。

まず、第1文では、「可視化」というキーワードを使っているが、「可視化」の意味を正しく使っていない。それ以外に加点要素はなく、加点はなされない。
第2文では、音、色、図形という解決方法を挙げているので4点加点した。
第3文では、上にも述べたようにエラーについて書いているが、エラーは重要性が低い。また、エラーを防ぐ手段が書かれている一種類であるような記述内容も正しくない。ここでの「可視化」の使い方は正しいが、第1文で間違った使い方をされている上に、第6文の使い方も間違っているので、「可視化」について正しく理解しているとは判断できず、「可視化」に関しても「エラー」に関しても加点はされない。
第4文では、音声伝達の重大な問題点を挙げており、3点加点した。
第5文では、色の問題点を挙げており、指摘は正しいが、色で無数の可能性を表すのが困難なのは当然で、加点していない。
第6〜8文では、色と図形を組み合わせる有効性の事例を挙げている。しかし、うまくいく例の思いつきを羅列しただけにすぎず、加点するに値する内容はほとんどない。細かい加点をして(やや甘め)、この3文で合計3点の加点をした。
結局合計点は10点となった。

第一例と第二例を比較するとどういう解答がよいかよくわかると思う。第一例はヒューマンインターフェイスの重要なキーワードを適切に使って、一般的な内容として論を進めており、しかも、多くの異なる内容を指摘している。それに対して第二例は、具体例ばかりで一般化している部分が少なく、量はたくさん書いてはいても、実際に指摘している内容は重複しており、またキーワードを適切に使えていないので、正しく理解していないと判定されてしまう。
平均点14.5点/30点満点.満点は5名のみ。20点以上は26名(26%)しかいなかった。0点が2名。同一の問題なのに前回よりも平均点が悪いのはなさけない。

2.難問です。この問題のポイントは、このロボットに求められるものは何か、使われる状況は何か、その上でインターフェイスに要求されることは何かをよく考えることです。
まず、このようなロボットは1台か数台程度しか作られないでしょう。火星に送るだけで膨大な費用がかかりますから、できる限り長期間確実に動作をして、できる限り広い地域を動き、多くのデータを集めて地球に送り返すことが要求されるでしょう。まして、リアルタイムのフィードバックは不可能な状況です。そうすると、地球での操作に求められることは、ロボットからのフィードバックデータを元に即座に動作を命令することではないことは明白でしょう。極端なことを言えば、万が一何らかの理由でロボットが動けなくなったような場合には、数日でも数週間でもいいから、時間をかけてじっくり状況を検討して、地球上でシミュレーションまでしてから、最善と思われる動作命令を送ることもあるかもしれません。
そう考えると、2006年度のヘリコプタ、2007年度の蛇型ロボット、2009年度の潜水ロボットとは、大きく異なることがわかります。これらのロボットは、その場で状況に応じて操縦するロボットでしたから、たとえば対応付けは極めて重要でした。しかし、今回の火星探査ロボットでは、対応付けはないよりはあった方がよいかもしれませんが、重要ではありません。このあたりが難問たるゆえんです。また、操作エラーを起こしてしまうと、結果がフィードバックされてエラーに気がつくのに半日とか数日かかる可能性まであります。そう考えると、操作性を多少犠牲にしてまでも、エラーへの対策は厳重にすべきかもしれません。
問題文で書かれているほかに、地球も火星も自転していますから、電波が途切れると半日ぐらい命令が届かないこともありそうです。それに気がつかなくても、「3分以上」というのが「ほぼ3分」の意味に間違って取っている人が多かったですね。地球と火星の公転周期から近い場合が3分ちょっとですが、一番離れたときは21分ほどかかります。なのにジョイスティックなどで操作するって解答が実に多かったので驚きました。3分以上、下手をすると半日もフィードバックが遅れる可能性があるのに、ジョイスティックで操作できるとは到底思えないのですが。ゆっくり少しずつ動いて、フィードバックが戻ってくるまで待つなんて、全く現実的ではありません。ですから、問題文中に「地球からはおおまかな作業内容を命令し、ロボットの詳細な動きはロボット自身が生成する」と書いておいたのですけど。
この問題では、操作をするのはどういう人かを考えることは極めて重要です。当然NASAか、同様の宇宙開発の国家的な組織の研究者でしょう。一般の人が操縦するはずはなく、専門家による操縦になるはずです。その際に、事前にある程度練習をするはずで、熟練者と考えるのが普通です。ただし、想定外の事態に対処することも発生すると想像でき、その意味では初心者の要素も多少はあると思います。このように熟練者が時間遅れを気にせずに、場合によってシミュレーションをした後で動作命令を送信するということになると、オフラインプログラミングとなるだろうと手嶋は思います。ただし、そうでなくても、論理的に大きな矛盾がなければ、もちろん加点しています。
キーワードを正しく使えない人が多かった。たとえばロボットへの命令がなんらかの原因で正しく伝わらないような状態を指して「エラー」というのは、一般用語としては正しいが、この講義の解答としては「ヒューマンエラー」との混同があるとみなされる。故障とか異常とか書くべきである。同じように、ロボットの機能を絞ることを「制約」と書く人もいたが、これも人間の動作を「制約」する内容との混同とみなされる。これらの場合には、キーワードを正しく使えていないと判断されることになる。
この問題は難しいので、全体に甘めに採点した。通常は30点満点で加点要素をすべて足すと45〜50点に配点して採点するのだが、この問題では、すべての加点要素を足し合わせると、64点にして、多少間違っていても、インターフェースに関する内容をある程度の量書いているなら加点されるように配慮した。

採点の実際を説明する。最も優秀だった答案の一つである。
1.このロボットの操作方法としては、おおまかな作業内容を命令するだけで、リアルタイムのフィードバックもないので、ラジコンのコントローラの様なものは必要なく、PC上のアプリケーションでカメラ画像を見ながらキーボードやマウスで操作するほうが、カメラのズームや回転などいろいろな機能を使えるので、操作性が良い。
2.また、このロボットは一般の人ではなく、訓練した専門家が使うので、可視化や制約によって操作を分かりやすくする必要はあまりない。
3.アームについてもカメラ画像から予測した座標へ動かす指示をPCから出すことで、ロボットが自動的に動くプログラムを使った方が効率的でエラーが起こっても、プログラムが修正することでたいしょできる。
4.また、一番の問題点として一度でも重大な故障が起こると回収することが困難であるというリスクがある。
5.そのため重要な作業などの操作はインターロックして、特定の順序の操作をしないと動かなくするなどの機能が必要である。
6.また、このロボットの操作は専門家が行うので、エラーとしては技術ベースのスリップが多くなるはずなので、重要な操作などでは警告音を出したりして注意喚起することも大切である。
7.このロボットはリアルタイムのフィードバックは無理なので、今現在のロボットやアームの姿勢などをシミュレートして視覚的にフィードバックすることで、タイムラグによる違和感を軽減し、操作性を向上できる可能性がある。

まず、第1文では、オフラインプログラミングとは書いていないが、内容的にはほぼ同じことを指していると読める。ここではオフラインプログラミングが良いことを指摘しており、これだけで10点加点した。
第2文では、誰が操作者かを正確に指摘したところに8点加点した。このことが重要であることは最終講義日にも話したし、過去の解説にも何度も書いているので加点は大きくした。「可視化」や「制約」ではなく、「対応付け」ならば3点加点したのだが、「可視化」や「制約」では加点しなかった。実は加点してもよかったのだが、この答案はすでに他で十分に加点を取っているので、ここの採点は甘くしなかった。しかし、「専門家なので操作をわかりやすくする必要はない」という指摘は重要で、4点加点した。
第3文では、内容はオフラインプログラミングのことなので新しく加点はしていない。キーワードの「エラー」を使っているが、あまり意味が明確ではなく、加点要素にはならない。
第4文では、インターフェースを検討する際に重要なこのロボットの位置づけを正確に指摘しており、4点加点した。
第5文は、やや書いている内容があいまいというか、間違っている。インターロックと関係するのはヒューマンエラーを防ぐ話で、故障ではない。しかし、それを除けば、人間が火星に行けない状況では、エラーにしろ故障にしろロボットが動けなくなるような状況は問題であって、それを解決する提案である。やや甘い採点だが、4点加点した。
第6文は、エラーに関する内容で、5点加点した。
第7文は、内容はオフラインプログラミングの延長だが、よい指摘なので4点加点した。
合計すると、39点となり、満点の30点を超えているので30点となった。1番の問題に比較すると、個々の加点要素の点数が高いことに気がつくと思うが、甘めの配点とした結果である。

難問である分だけ相当甘く採点したつもりだったが、それでも一度採点したら、平均点10.6点/30点満点になってしまった。20点以上がたった8名(8%)。さすがにこれでは落第者続出になるので、再度採点基準を見直した。具体的には「ヒューマンエラー」「事故・故障・異常事態への対応」「確実性・信頼性の重要さ」等7項目の加点要素の配点を上げた。その結果、10点未満の人の得点はほとんど変わらなかったが、10点以上だった人では、2〜4点程度増えた人が出た。最終的に平均点12.4点/30点満点。0点は9人で、白紙の人、ロボットの機能ばかり書いてインターフェイスについて全く書いていない人、絵だけで説明文章が全くない人であった。ここまで0点が多かったのは初めて。なにかインターフェイスについて書いていれば、間違っていてもできる限り加点するようにしたにもかかわらず、これではひどすぎます。ジョイスティック等での操作で対応付けがいいという内容だけしか書いていない人が約25名いて、リアルタイムのフィードバックができない条件では明確に間違っているのだが、それでもなんとか平均7点程度まで加点した。そこまで加点しても、この平均点とはなさけない!一方満点は3名のみ。

A+:2% A:5% B:18% C:42% F:31%
過去で最も成績が悪かった年とほぼ同等。たしかに2番は難問だが、極力甘く採点したし、1番は過去の問題と同じなのに、前回より平均点が低い。中間試験の2番も成績が悪かったし。それでも100点満点の人が一人!拍手!すばらしい!難しすぎて解けない問題ではないのです。ちゃんとできているひとがいるのですから、ちゃんと勉強すればそれなりの点は取れるはずなのですが。


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Last modified: Wed Aug 3 2011