文学部 論理学概論I, 論理学概論II, 哲学英書講読A(哲学専攻専門科目)
論理学I, 論理学II(基礎科目)
産業社会学部 論理学I
夜間主コース 文学部 哲学思想特殊講義III, 哲学書講読I
lun | mar | mer | jeu | ven | |
1 (9h00-10h30) | |||||
2 (10h45-12h15) | 論理学I S 恒741 | ||||
3 (13h00-14h30) | |||||
4 (14h45-16h15) | 論理学I L 研631 | ||||
5 (16h25-17h55) | 論理学概論I L 清503 | ||||
I (18h00-19h30) | 哲学思想特殊講義III Y 清502 | ||||
II (19h45-21h15) |
後期時間割
lun | mar | mer | jeu | ven | |
1 (9h00-10h30) | |||||
2 (10h45-12h15) | |||||
3 (13h00-14h30) | |||||
4 (14h45-16h15) | 論理学II L 研631 | ||||
5 (16h25-17h55) | 哲学英書講読 LA 研621 | 論理学概論II L 清503 | |||
I (18h00-19h30) | 哲学書講読I Y 清506 | ||||
II (19h45-21h15) |
講義内容・テーマ
19世紀後半から20世紀のはじめにかけてなされた論理学の革新は、哲学の伝統に、一群の新たな議論の主題と手法をもたらした。論理学概論I・IIをつうじて、言語と論理の問題を中心に、現代哲学の特徴について、基礎的な理解をえることをめざす。論理学概論Iでは、自然演繹という方法に即して、現代の論理学の基本を学び、論理のしくみを応用した哲学的分析の代表例について見る。
授業の流れ(スケジュール・内容等の計画)
第1部 論理とは何だろうか
1. 論理とは何だろうか--人間の心のはたらきが命題を内容としてもつこと。命題どうしの論理的関係。
2. 論理を表現する体系--記号の体系のしくみとはたらき。統語論と意味論。
第2部 命題の論理
3. 仮定からの演繹--命題変数、結合記号、導出規則。
4. 仮定を消す--論理的結合記号の導入と消去。
5. 連言と選言
6. 背理法、さまざまな演繹
7. 演繹と証明--定理、定理を利用した推理過程の短縮。
8. 命題の集まりとしての言語--ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』の世界。
第3部 個体の性質と関係の論理
9. 述語計算の表現(その1)--名前と述語文字、個体・性質・関係。
10. 述語計算の表現(その2)--個体変数と量記号、固有名と任意の名前。
11. 量記号の導入と消去
12. 論理形式の摘出--ラッセルの確定記述の理論。
評価方法・基準
授業の進行にあわせて、理解の程度を確かめる課題の提出を求め、その課題と授業への出席状況をもとに平常点で評価する。
テキスト
E. J. レモン、竹尾治一郎・浅野楢英訳『論理学初歩』(世界思想社)
参考書
L. ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』(法政大学出版局)
B. ラッセル、清水義夫訳「指示について」、坂本百大編『現代哲学基本論文集I』(勁草書房)所収。
その他
頭の中だけで考えるのでなく、考えのすじみちをかたちに表す習慣をつけよう。
講義内容・テーマ
論理学の革新がもたらした新たな議論の主題と手法が、現代哲学の一つの特徴である。論理学概論IIでは、論理学の基礎的知識を前提として、論理と言語にかかわる哲学的問題を、分析哲学の歴史的展開にそっておおづかみにみてゆく。そのことにより、現代哲学に特有の議論の主題と手法について、基礎的な理解をえることを目標とする。
授業の流れ(スケジュール・内容等の計画)
第1部 論理学の革新と分析哲学の出発
1. フレーゲと述語計算の発明、その動機と特徴
2. 論理理論のパラダイム--ラッセルの確定記述理論
3. 言語と実在--論理的固有名をもとめて
4. ヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』
5. 論理的経験主義と形而上学批判
第2部 論理的経験主義批判と分析哲学のあたらしい潮流
6. 帰納の問題とポスト論理的経験主義の科学哲学
7. 日常言語の哲学(その1)言語と行為、発語内の力
8. 日常言語の哲学(その2)行為・ゲーム・規則
9. 日常言語の哲学(その3)文の論理から使用の論理へ--ストローソンのラッセル批判--
10. クヮインの全体論とプラグマティズム
11. 言語と実在再び--クヮイン後の存在論と指示理論
12. まとめ--分析哲学の歴史的動向--
評価方法・基準
レポートと平常成績で評価する。
テキスト
プリントを配布する。
参考書
坂本百大編『現代哲学基本論文集I・II』(勁草書房)
クヮイン『論理的観点から』(勁草書房)
他、授業中に適宜指定する。
その他
論理学概論Iを履修済みであるか、独習その他により現代論理学の基礎を学習済みであることが望ましい。
テーマと授業目標
デカルト(Rene Decartes, 1596-1650)は、自由な意志の能動的役割を強調する一方で、情念(passions, 感情)、つまり心と身体の密接な協同において生ずる心の受動に注目し、意志による情念の制御を重要視した。この問題を主題としたデカルト最後の著作、『情念論』(Les Passions de l'Ame)を題材に、心と身体との関係、人間を具体的な行為にみちびく心のはたらきについて考える。
授業の流れ(スケジュール・内容等の計画)
第1回 デカルトの時代と彼の哲学
デカルトの生きた時代と思想状況、哲学史における位置、哲学体系(方法論、認識論、形而上学)の概略について講義する。
第2〜5回 心身合一体としての人間
『情念論』第1部から、心身の区別と合一についてのデカルトの考え、身体の機能についての機械論的な説明、精神の機能の区別と情念の位置づけについて読む。
第6〜8回 基本的情念
『情念論』第2部から、情念の区分と6つの基本的情念(驚き、愛、憎み、欲望、喜び、悲しみ)のはたらきについて読む。
第9〜11回 高邁の心
『情念論』第3部での、高邁の心についての議論を中心に、情念と道徳、情念の制御について読む。
第12回 デカルト情念論の意義
講義形式で、デカルトの情念論について学んだことがらを整理し、デカルトの哲学体系の中での意義と、哲学史における意義を考える。
評価方法・基準
授業への出席とテキスト訳読の担当による平常成績に、レポートを加味して評価する。
テキスト
Rene Decartes, The Passions of the Soul, trans. by Robert Stoothoff, in The Philosophical Writings of Descartes, vol. 1, Cambridge University Press, 1985.(プリントを配布する)
参考書
野田又夫編『世界の名著22 デカルト』(中央公論社)
その他
講読なのだから当然だが、出席はじめ平常の成績を重視する。最後のレポートを提出するだけでは単位取得はおぼつかないと知れ。
講義内容・テーマ
現代の論理学は、形式的な記号体系を道具として、論理、すなわち人間の思考のすじみちのありかたを解明しようとする。この授業では現代論理学の初歩を題材に、人間の思考のすじみちを規則的・体系的に取り扱う方法について考える。
具体的には、論理と思考の関係・論理を表現する記号体系のしくみとはたらきについて一般的な理解をもつこと、命題論理を中心に、現代論理学の記号体系の基本的なしくみを理解することを目標とする。
授業の流れ(スケジュール・内容等の計画)
第1部 論理とは何だろうか
1. 論理とは何だろうか
--人間の心のはたらきが命題を内容としてもつこと。命題どうしの論理的関係。
2. 論理を表現する体系--記号の体系のしくみとはたらき。統語論と意味論。
第2部 命題論理のしくみとはたらき
3. 命題論理の表現のしくみ(その1)--命題変項と論理結合子(否定)。
4. 命題論理の表現のしくみ(その2)--論理結合子(条件、選言、連言)。
5. 命題論理を使った推理--論理的な可能性。矛盾と消去による推理。
6. 真理関数と命題論理の意味論(その1)--すべての式は真理関数を表す。
7. 真理関数と命題論理の意味論(その2)--すべての真理関数には、それを表す式が存在する。
同じ真理関数を表す複数の式。対偶則、ド・モルガン則。
8. 「論理的な正しさ」とトートロジー--推理と条件式の対応。妥当性と真理。
9. 分析と反証によるトートロジーの判定--式を偽とする条件の非存在。
第3部 さらに広がる論理の世界
10. 述語論理の表現のしくみ(その1)--個体変項、述語文字、集合とメンバー。
11. 述語論理の表現のしくみ(その2)--限量子(「すべて」と「ある」)、束縛変項、自由変項。
12. 論理へのふたつのアプローチとメタ論理的性質--モデル論と証明論、無矛盾性と完全性。
授業の方法
授業の進行にあわせて、理解の程度を確かめる課題の提出を求めることがある。
評価方法・基準
上記の課題と授業への出席状況をもとに平常点で評価するが、受講人数が多く、平常点による適切な評価が難しい場合には、他に筆記試験をおこなう場合がある。
テキスト
プリントを配布する。
参考書
内井惣七『いかにして推理するか いかにして証明するか』、『真理・証明・計算--論理と機械』(いずれもミネルヴァ書房)
リチャード・ジェフリー、戸田山和久訳『形式論理学』(産業図書)
その他
頭の中だけで考えるのでなく、考えのすじみちをかたちに表す習慣をつけよう。
講義内容・テーマ
論理学Iにひきつづき、現代の論理学の基本を学ぶ。論理学Iでは、命題論理を中心にとりあつかったが、論理学IIでは、より表現力の豊かな第一階の述語論理を中心にとりあつかう。述語論理のしくみを理解することによって、論理学と数理科学や哲学的分析の問題との関連について学ぶ準備もできる。
具体的には、述語論理の表現のしくみの中で、最も重要な限量子のはたらきをマスターすること、それによって、述語論理のしくみを応用した哲学的分析について基本的な理解を得ることを目標とする。
授業の流れ(スケジュール・内容等の計画)
第1部 述語論理をはじめる前に
1. 基本を確認しよう--記号の体系のしくみとはたらき。統語論と意味論。
2. 命題論理はやはり基本的骨格である--論理結合子と真理関数。
第2部 述語論理のしくみとはたらき
3. 述語論理の表現のしくみ(その1)--個体変項、述語文字、原子式、属性と関係。
4. 式の真偽を決定する条件(その1)--原子式の真偽決定。集合とメンバー。順番のある組。
5. 述語論理の表現のしくみ(その2)--「すべての」をふくむ推理。全称限量子。
6. 式の真偽を決定する条件(その2)
--全称限量式の真偽決定。「すべての」をふくむ推理の妥当性。
7. 述語論理の表現のしくみ(その3)--「ある」をふくむ推理。存在限量子。
8. 式の真偽を決定する条件(その3)--存在限量式の真偽決定。「ある」をふくむ推理の妥当性。
9. フレーゲ対アリストテレス--述語論理と提言三段論法。対当関係。存在仮定。
10. 式の真偽を決定する条件(その4)--モデルと論理的真理。
第3部 論理学の展開と応用
11. 哲学的分析への応用--ラッセルの確定記述の理論。
12. すべての真理は論理に帰着するか--論理主義、直観主義、不完全性、真理論。
授業の方法
授業の進行にあわせて、理解の程度を確かめる課題の提出を求めることがある。
評価方法・基準
上記の課題と授業への出席状況をもとに平常点で評価するが、受講人数が多く、平常点による適切な評価が難しい場合には、他に筆記試験をおこなう場合がある。
テキスト
プリントを配布する。
参考書
内井惣七『真理・証明・計算--論理と機械』(ミネルヴァ書房)
リチャード・ジェフリー、戸田山和久訳『形式論理学』(産業図書)
その他
頭の中だけで考えるのでなく、考えのすじみちをかたちに表す習慣をつけよう。
講義内容・テーマ
現代の論理学は、形式的な記号体系を道具として、論理、すなわち人間の思考のすじみちのありかたを解明しようとする。この授業では現代論理学の初歩を題材に、人間の思考のすじみちを規則的・体系的に取り扱う方法について考える。
具体的には、論理と思考の関係・論理を表現する記号体系のしくみとはたらきについて一般的な理解をもつこと、命題論理を中心に、現代論理学の記号体系の基本的なしくみを理解することを目標とする。
授業の流れ(スケジュール・内容等の計画)
第1部 論理とは何だろうか
1. 論理とは何だろうか
--人間の心のはたらきが命題を内容としてもつこと。命題どうしの論理的関係。
2. 論理を表現する体系--記号の体系のしくみとはたらき。統語論と意味論。
第2部 命題論理のしくみとはたらき
3. 命題論理の表現のしくみ(その1)--命題変項と論理結合子(否定)。
4. 命題論理の表現のしくみ(その2)--論理結合子(条件、選言、連言)。
5. 命題論理を使った推理--論理的な可能性。矛盾と消去による推理。
6. 真理関数と命題論理の意味論(その1)--すべての式は真理関数を表す。
7. 真理関数と命題論理の意味論(その2)--すべての真理関数には、それを表す式が存在する。
同じ真理関数を表す複数の式。対偶則、ド・モルガン則。
8. 「論理的な正しさ」とトートロジー--推理と条件式の対応。妥当性と真理。
9. 分析と反証によるトートロジーの判定--式を偽とする条件の非存在。
第3部 さらに広がる論理の世界
10. 述語論理の表現のしくみ(その1)--個体変項、述語文字、集合とメンバー。
11. 述語論理の表現のしくみ(その2)--限量子(「すべて」と「ある」)、束縛変項、自由変項。
12. 論理へのふたつのアプローチとメタ論理的性質--モデル論と証明論、無矛盾性と完全性。
授業の方法
授業の進行にあわせて、理解の程度を確かめる課題の提出を求めることがある。
評価方法・基準
上記の課題と授業への出席状況をもとに平常点で評価するが、受講人数が多く、平常点による適切な評価が難しい場合には、他に筆記試験をおこなう場合がある。
テキスト
プリントを配布する。
参考書
内井惣七『いかにして推理するか いかにして証明するか』、『真理・証明・計算--論理と機械』(いずれもミネルヴァ書房)
リチャード・ジェフリー、戸田山和久訳『形式論理学』(産業図書)
その他
頭の中だけで考えるのでなく、考えのすじみちをかたちに表す習慣をつけよう。
講義内容・テーマ
デイヴィッド・ヒューム(David Hume, 1711-1776)の道徳論は、道徳的な価値や義務がいかにして成立するかを人間の自然本性にもとづいて説明しようとする、その意味で自然主義的な理論である。より具体的には、ヒュームは、道徳を知性の対象ではなく感情の対象とする道徳感情説をとる。また、正義はじめいくつかの主要な徳を、人間の行う人為的な合意にもとづくものであるとする。授業では、これらの問題を、主として『人間本性論』第3巻の議論を題材として考察し、ヒュームの道徳哲学の歴史的・現代的意義を考察する。
授業の流れ(スケジュール・内容等の計画)
第1回 ヒュームとは何者か
哲学の歴史の中でのヒュームの位置・ヒュームの時代と生涯
第2回 ヒューム哲学の主要問題
「実験的方法」と懐疑の問題・ヒュームの自然主義とは
第3回 ヒューム哲学の論理
精神のはたらきの基礎理論--印象と観念(感じることと考えること)・確実性と蓋然性
第4回 意志と行為
自由意志の問題・「理性は情念の奴隷である」
第5回 知性主義的道徳哲学の批判
「道徳は、判断されるというより、感じられるという方が適切である」
第6回〜第7回 「である」と「べきである」
「事実と道徳の断絶」・ヒュームにおいて道徳はいかなる事実にもとづくか
第8回 道徳感情説
道徳感情とヒューム情念論の特質--人格を対象とする間接的情念
第9回〜第10回 正義(justice)と合意
「他人のものの尊重」と自己愛の方向転換
第11回 合意と約束
約束がただのことばでない理由・社会の中にあるものとしての人間本性
第12回 まとめ
ヒュームの議論をいかなる「問題」として受けとめるか
授業の方法
基本としては講義形式で進めるが、進行の節目ごとに、主な問題点とそれに対する考え方を整理して書く課題を課す。提出された課題にはコメントをつけて返却する。これを何度かくり返して、考えをまとめて表現する能力を伸ばすよう務める。
評価方法・基準
上記の課題および出席、最後のレポートを総合して評価する。
テキスト
ヒューム『人間本性論』第3巻
(担当者による試訳のプリントを配布する)
参考書
ヒューム『人間本性論』第1巻(木曾好能訳・法政大学出版局)
杖下隆英『ヒューム』(勁草書房)他、授業中に適宜指示する。
その他
平常の授業に極力きちんと参加し、授業期間全体を通じて考えを深めよう。
[課題] ヒュームは、「考えることと感じること」、「観念と印象」、「理性と情念」等を互いに対比する。そして、人間の精神を強くとらえ、動かすのは、その都度対比される2つのもののうち、常に2番目のもの、つまり、感じること、印象、情念等の方だと言う。
これらの対比について、つぎの指示に従って、3つの段落で書け。
1. 第1の段落では、ヒュームが上のテーマについて述べていることを、各自がこれまでに理解した限りでまとめよ。
2. 第2の段落では、第1の段落でまとめたヒュームの見解に対する各自の意見を述べよ。
3. 第3の段落では、第2の段落で述べた各自の意見について、それを根拠づける理由を述べよ。
[解答例]
ヒュームは、精神に現れる対象を、観念と印象とに区分する。印象は、根源的なしかたで生ずる感覚や感情であり、精神の感受的な能力の対象である。これに対して、観念は、印象の写しであり、理性、つまり推論能力の対象である。
ヒュームの議論の特徴は、考えられる対象である観念と感じられる対象である印象とを、それらがもっている生気や勢いによって区別しようとする点にある。印象のもっている生気や勢いに何らかのしかたで依存することによってはじめて、知性の働きが精神をとらえ、何らかの影響を与えることができる。このことは、知性論の範囲でも、信念にかんする議論、原因と結果の必然的結合の観念にかんする議論、理性にかんする懐疑についての議論などに現れている。しかし、感じることの考えることに対する、したがってまた印象の観念に対する優位が、もっとも鮮明なしかたで主張されるのは、情念論に現れる「理性は情念の奴隷である」というテーゼにおいてである。理性の能力はア・プリオリな論理的・数学的推論と、原因と結果の関係についての経験的推論に限られるが、これらはいずれも単独で意志や行動の原因となることができない。したがってまた、理性が意志の支配をめぐって情念と対抗することもできない。理性が行動と関係をもつことができるのは、情念の対象を発見するか、情念を満足させる手段を発見するか、いずれかのしかたによるほかなく、情念の働きがなければ、理性と行動はいっさいのかかわりをもつことができないのである。
[ヒュームに賛成の場合]
「理性にしたがって行動しなければならない」というようなことがよく言われる。しかし、そういうものの言い方は、理性とはなにかということについて厳密に考えないことから生ずる論理的混乱に基づくものである。「理性は情念の奴隷である」というヒュームのテーゼは一見ショッキングだが、理性の能力にかんするヒュームの理論から当然の帰結として生じている。人間の行動の原理を考察するにあたっては、ヒュームにならって理性と情念の領域を厳密に区分することを出発点としなければならない。
理性によって行動を決定することができるとすれば、その行動の選択について、「合理性」や「真理」を基準にして是非が問えることになるだろう。しかし、どう行動するのかが合理的なのかは、まず行動をつうじて実現しようとする目的が決まっていなければ、問うことができない。たとえば、自分の配偶者が浮気をしているといううわさを聞かされた場合、そのことについて配偶者を問いただすのは、配偶者との関係で誠実さを重んずる人にとっては合理的かもしれないが、いかなる理由でも配偶者の感情を損ねないようにすることを重んずる人にとっては、不合理であろう。自分と相手の双方がどこまでも誠実であるのをもとめるのと、自分の心にある疑いを隠しても、相手との関係を保とうとするのと、どちらが合理的なのかきめる、一般的基準はない。こんな場合に必ずどちらか一方だけが正しくて、もう一方は間違っていなければならないと考えるのは狂信的態度である。行動の選択について「真理」や「虚偽」が問えないことも同様に明らかである。突き詰めて考えてみれば、行動の基準を、合理性や真理のみによって最終的に選択することはできない。
[ヒュームに反対の場合]
「理性は情念の奴隷である」というヒュームのテーゼは、行動の選択の是非を、理性によって議論し、決定することができないということを意味する。しかし、このことは、われわれが実際、人間の行動の評価をどのように決定しているか考えてみれば、とうてい正しいとは言えない。とくに、人間の行動の道徳的善悪が問題になる場合には、その基準は普遍的で合理的である必要があり、ヒュームの立場では、この道徳の合理性が説明できない。
たとえば、自分の配偶者が浮気をしているといううわさを聞かされた場合、そのことについて配偶者を問いただすべきか、心にある疑いを隠して、相手と関係を保つべきか、迷いが生ずることはあり得る。この迷いを解決するためには、どちらを選択する方が自分の人生全体にとって善なのかを考えなければならない。その結果は、たとえ修羅場を経験する結果となったとしても、配偶者の誠実を求める方が、相手をも疑い、自分をもごまかしながら残りの人生を送るよりも、全体としては善であると私は考える。そして、私がそのことを善であると考えるということは、どんな人でも、その立場に立ったとしたらそうすべきだということであり、それについて、合理的な根拠を求めて議論する用意があるということなのである。ヒュームの議論は、行動の選択についての合理的議論を否定する相対主義である。
[課題] 道徳的な価値や義務と、世界や人間についての事実との関係について、つぎの指示に従って、3つの段落で書け。
1. 第1の段落では、ヒュームが上のテーマについて述べていることを、各自がこれまでに理解した限りでまとめよ。
2. 第2の段落では、第1の段落でまとめたヒュームの見解に対して、各自の意見を述べよ。なるべく、ヒュームの見解に賛成か反対かはっきりさせること。
3. 第3の段落では、第2の段落で述べた各自の意見について、それを根拠づける理由を述べよ。
デイヴィッド・ヒュームの道徳論から、自由にテーマを選び、
講義内容・テーマ
一般に知・情・意といわれるように、知性と感情と意志という、心の三つの主要なはたらきが、たがいにどう関係するのかという問題は、古くから人々の関心を集めてきた。デカルト(Rene Decartes, 1596-1650)は、心の本質を、身体をふくむ物体の世界から独立した知性と意志のはたらきに見いだす一方、情念(passions, 心の受動)、つまり心と身体の密接な協同において生ずる感情のはたらきに注目し、意志による情念の制御を重要視した。授業では、この問題を主題としたデカルト最後の著作、『情念論』(Les Passions de l'Ame)を題材に、心と身体との関係、人間を具体的な行為にみちびく心のはたらきについて考える。
授業の流れ(スケジュール・内容等の計画)
第1回 デカルトの時代と彼の哲学
デカルトの生きた時代と思想状況、哲学史における位置、哲学体系(方法論、認識論、形而上学)の概略について講義する。
第2〜5回 心身合一体としての人間
『情念論』第1部から、心身の区別と合一についてのデカルトの考え、身体の機能についての機械論的な説明、精神の機能の区別と情念の位置づけについて読む。
第6〜8回 基本的情念
『情念論』第2部から、情念の区分と6つの基本的情念(驚き、愛、憎み、欲望、喜び、悲しみ)のはたらきについて読む。
第9〜11回 高邁の心
『情念論』第3部での、高邁の心についての議論を中心に、情念と道徳、情念の制御について読む。
第12回 デカルト情念論の意義
講義形式で、デカルトの情念論について学んだことがらを整理し、デカルトの哲学体系の中での意義と、哲学史における意義を考える。
授業の方法
『情念論』の日本語訳から主要部分を抜粋して、分析しながら考察する。進行の節目ごとに、主な問題点を整理し、その問題点にかんするデカルトの考え方、その考え方にたいする受講者の意見をまとめて書く課題を課す。提出された課題にはコメントをつけて返却する。
テキスト
野田又夫編『世界の名著22 デカルト』(中央公論社)
参考書
野田又夫『デカルト』(岩波新書)他、授業中に適宜指示する。
その他
平常の授業に極力きちんと参加し、授業期間全体を通じて考えを深めよう。
1997年度前期は、学外研究のため、伊勢俊彦の授業はなかった。以下はすべて、1997年度後期に開講された科目である。
理工学部 論理学
文学部 論理学概論II / 哲学史IV / 哲学英書講読D
現代論理学の初歩を題材に、人間の思考のすじみちを規則的・体系的に取り扱う方法について考える。
具体的には、論理と思考の関係・論理を表現する記号体系のしくみとはたらきについて一般的な理解をもつこと、命題論理を中心に、現代論理学の記号体系の基本的なしくみを理解することを目標とする。
論理学概論II 文学部
一九世紀後半から二〇世紀のはじめにかけて、論理学のおおきな革新がなされ、現代論理学の基本が確立した。この論理学の革新とその後の成果をふまえて議論するのが、分析哲学である。
論理と言語にかかわる哲学的問題を、分析哲学の歴史的展開にそっておおづかみにみてゆくことにより、現代哲学に特有の議論の主題と手法について、基礎的な理解をえることを目標とする。
哲学史IV 文学部
デイヴィッド・ヒューム(1711-1776)は、道徳を知性の対象ではなく感情の対象とする道徳感情説をとる。また、正義はじめいくつかの主要な徳を、人間の行う人為的な合意に基づくものであるとする。授業では、これらの問題を、主として『人間本性論』第3巻の議論を題材として考察し、ヒュームの道徳哲学の歴史的・現代的意義を考察する。
哲学英書講読D 文学部
ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインの哲学は、熱狂的な信奉者が多い反面、それを嫌悪し、無視する人々も多い。この授業では、ヴィトゲンシュタインの哲学がもつ実質をできるだけ客観的に理解するための基礎的知識の獲得をめざす。そのための素材として、『論理哲学論考』に代表されるヴィトゲンシュタインの前期の哲学の明快な解説を読む。
テキスト: A. C. Grayling, Wittgenstein, Oxford University Press, 1988, chapter 2.
理工学部 論理学
関連文献
テキストの日本語訳
日本語の手頃な参考書